2017年12月9日土曜日

教員給与の段階比較

 「新しい経済政策パッケージ」なるものが閣議決定されました。
http://www5.cao.go.jp/keizai1/package/package.html

 目玉は,幼児教育と高等教育の無償化です。前者についていうと,3~5歳の幼稚園・認可保育所の費用は一律無償,3歳未満は非課税世帯に限って無償にするそうです。ここにかなりの財源が投入されるのですが,懸案の保育士の給料はというと,月額3000円上がるだけ…。

 うーん。待機児童問題の原因は保育所不足,保育所不足の原因は保育士不足,保育士不足の原因は生活が成り立たぬほどの超薄給であること。すっかり知れ渡っていることですが,この部分を蔑ろにしていいものか。保育所を無償にしても,入れなければどうしようもないですからね。

 データを出すのも嫌になりますが,2016年の厚労省『賃金構造基本統計』によると,保育士の所定内平均月収は21.6万円で,46.7%,半分近くが月収20万円未満となっています。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

 この手のデータは至る所で提示されますので,「そんなもんだろう」という感覚が定着してしまっていますが,他の段階の教員給与と比較することで,その異常性を改めて浮き彫りにしてみましょう。

 幼稚園から大学までの各段階の教員給与は,文科省『学校教員統計』から知ることができます。最新の2016年度の統計から,平均月収と月収20万未満の者の割合を拾ってみます。ここでいう月収とは,諸手当は含まない本俸額です。高校以下のデータは,下記サイトの表15から拾うことができます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001094519&cycode=0

 下表は,採取したデータの一覧表です。


 想像通りですが,上の段階ほど給与は高くなります。しかし,就学前と初等・中等教育の段差が大きいですねえ。平均月収は10万円以上,月収20万未満の薄給率に至っては全然違います。

 教員の年齢構成や学歴構成などの違いにもよるでしょうが,この落差はひどい。人格の礎が築かれる時期の教育(保育)には,高い専門性が求められるはず。にもかかわらず,ここまでの給与差があるのはどういうことか。

 上表のデータを二次元グラフにすると,就学前教育段階の外れっぷりがよく分かります。


 最も悲惨なのは,創設されて間もない認定こども園(幼保連携型)。そして,幼稚園と保育所が近い位置にあります。

 保育士の薄給問題に隠れて,あまり取り沙汰されることはないのですが,幼稚園教員の待遇の悪さも際立っています。幼稚園は,3歳から5歳の幼児の教育を行う「学校」ですが,そこで働く教員の大変さもよく言われます。小学校にもまして,モンスター・ペアレンツの出現度が高いとか…。

 それにもかかわらず,上図から分かるように,待遇は劣悪。そのせいかは分かりませんが,幼稚園教員の病気離職率は,小学校以降の段階に比して,各段に高くなっています。以下の表は,6つの段階の病気離職率です。2015年度間の病気離職者数を,同年5月時点の本務教員数で除して算出しました。前者の出所は『学校教員統計』(2016年度),後者は『学校基本調査』(2015年度)に出ています。


 あまり強調されることはないのですが,教員の問題が最も深刻なのは,就学前段階かもしれません。

 ここでご覧に入れたデータから,初等以降の段階に比して,想像以上の薄給であることが分かってしまいました。富裕層を優遇することにもなりかねない一律無償化よりも,保育士や幼稚園教員の待遇を改善し,待機児童問題の解消や「質」の担保に重点を置くべきかと思います。

 日本の高等教育費の対GDP比が低いのはよく知られていますが,就学前教育費の対GDP比も低し。2014年の国際統計によると日本は0.24%で,OECD加盟国では下から4番目です(OECD平均は0.84%)。
http://www.oecd.org/edu/education-at-a-glance-19991487.htm

 消費税アップで得られる財源を教育振興に充てるのは結構ですが,優先順位を誤らないようにしていただきたいと思います。

2017年12月5日火曜日

女子の理系タレントの活用度

 日本は,リケジョが少ない国であることは,もうすっかり知れ渡っています。自然科学・数学専攻の高等教育機関入学者に占める女子比は,2015年でみるとわずか25%,4人に1人です。
http://www.oecd.org/edu/education-at-a-glance-19991487.htm

 国際的にみて,日本は女子の理系学力が高いのに,これはどうしたことか。異国の人からすれば甚だ疑問のようで,OECDのスキル局長は,理系の成績が優秀な「女子生徒が理系を志望しないことが問題」と指摘しています。
http://benesse.jp/kyouiku/201710/20171018-1.html

 そうですねえ。たとえば,理科の成績が優秀な高校生を取り出し,男女の内訳を観察してみると,そんなに大きな偏りはありません。OECD「PISA 2015」において,科学的リテラシーの成績が優秀な15歳生徒(習熟度レベル5・6)の性別内訳は,男子が59%,女子が41%です。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/

 にもかかわらず,理系専攻の大学入学者の女子比は,冒頭で記したように25%でしかないと。女子の理系タレントがフル活用された場合の期待値(41%)より,だいぶ低くなっています。

 しかし,他国はさにあらず。日本と北欧のノルウェーを対比してみると,下図のようになります。


 理科が得意な生徒の性別構成は,日本もノルウェーも同じです。しかしながら,理系の大学入学者のそれは大きく違っている。日本は「3:1」ですが,ノルウェーはちょうど半々です。ノルウェーでは,期待値を上回ってすらいます。

 なるほど。OECDの局長が言うように,日本では,理系の成績が優秀な女子生徒が「理系を志望しない」というのは,確かなようです。上記は日諾比較ですが,比較の対象を増やすと,日本の特異性が分かってしまいます。

 以下に掲げるのは,横軸に理科が得意な15歳生徒の女子比,縦軸に理系専攻の高等教育機関入学者の女子比をとった座標上に,OECD加盟の26か国を配置したグラフです。米仏は,縦軸のデータが得られないので,分析対象に含めていません。


 ご覧のように,日本は諸国の群れから外れた位置にあります。縦軸の値が極端に低いからです。理科が得意な高校生の女子比は中ほどですが,理系の大学入学者のそれは,他国と大きく水を開けられています。

 図の斜線の数値は,縦軸の値が横軸の何倍かという倍率です。この値が高いほど,女子の理系タレントが活用されていることになります。

 1.0は,女子高生の理系タレントがフル活用された場合の期待値ですが,これを大幅に下回っているのは日本だけです。横軸が41%,縦軸が25%ですので。

 他の国はいずれもこのラインよりも上にあり,ポルトガルなどの4国は1.5倍以上です。ポルトガルは,理科が得意な生徒の女子比は35%ですが,自然科学専攻の大学入学者の女子比は59%にもなります。わが国と全然違いますね。

 女子の理系タレントの活用度を可視化すべく,この倍率が高い順に26か国を並べてみましょう。


 何も言いますまい。日本の活用度は最下位,裏返すと浪費度がダントツでトップです。

 昨日のニューズウィーク日本版に「イスラム圏にリケジョが多い理由」という記事が載っています。答えはズバリ,試験の成績によって専攻が(機械的に)振り分けられるからだそうです。
https://twitter.com/noguchi_y/status/937658966976466944

 極端な話,日本もこうすれば,リケジョが増えることは間違いありません。しかしこれは当人の意向を無視することで,現実の選択肢としてはあり得ないでしょう。

 やはり内発的なアスピレーションそのものを高めないといけないのですが,理系教科ができる女子を特別視しなこと。まずは,これに尽きます。

 それと,進路選択を控えた中高生の女子生徒に,リケジョの役割モデルを見せること。そのための一番の戦略は,中高の理系教員の女性比率を高めることです。日本は,この部分でも弱い。
http://tmaita77.blogspot.jp/2014/06/blog-post_28.html

 理科・数学教員の女性比率と,女子中学生の理系職志望率の間に相関関係がみられるか。『全国学力・学習状況調査』のデータに設問をちょっと潜ませ,学校単位・市区町村単位のデータで分析してみるのもいいと思いますが,どうでしょうか。

2017年11月30日木曜日

2017年11月の教員不祥事報道

 今日で11月もおしまいでした。夕ご飯を食べた後に気づき,慌ててツイログを漁った次第です。

 今月,私がネット上でキャッチした教員不祥事報道は44件です。いつものように,記事名・媒体名と当該教員の属性を記録します。

 赤字は注目事案。59歳,定年寸前の高校校長が盗撮で捕まった件ですが,100%懲戒免職でしょうから,もらう予定だった莫大な退職金がパー。一時の快楽と,それと引き換えに失うものとを天秤にかけることはしないのでしょうか。

 「正式採用ちゃうねんで」と,部下にパワハラをした校長。公立学校の教員は,最初の1年間は条件付きの採用で,この期間をクリアしてから正式採用になります。一般の公務員は半年ですが,教育公務員はその倍の1年間です。専門職ゆえ,適性の見極めに慎重さが求められる故とのこと。

 2015年度の統計によると,公立学校の新規採用教員のうち,この期間をクリアできず正採用に至らなかったのは316人,全体の1.03%と報告されています。脱落率は,およそ100人に1人。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/jinji/1380718.htm

 明日から師走です。会社勤めの方は,忘年会など,お酒が入る機会が増えると思いますが,酒がらみのトラブルにはご注意を。

 私は,生活に何の変化もありません。今年こそ秋旅行に行きたかったのですが,歯の手術を2回受け,医療費が思ったよりかさんだので,見合わせました。来週,2度目の手術の予後観察に行きますが,「抜歯」という最悪の判断にならないことを祈るばかりです。

 今年もあとひと月。がんばりましょう。

<2017年11月の教員不祥事報道>
少女にわいせつの疑い 長浜市の小学校講師を逮捕
 (11/1,琵琶湖放送,滋賀,小,男,27)
女子中学生に裸画像送らせた疑い 高校講師を逮捕 
 (11/1,日刊スポーツ,神奈川,高,男,27)
下着盗んで撮って戻す20回、教諭免職(11/2,京都新聞,奈良,小,男,48)
中学教諭、飲酒後に運転 京都 市教委に報告せず
 (11/3,京都新聞,京都,中,女,20代)
小学教諭、医療機関で20代女性職員に無理やり抱きつく
 (11/7,産経,宮崎,小,男,56)
女子児童のスカート内盗撮か、38歳小学校教諭逮捕
 (11/7,日刊スポーツ,石川,小,男,38)
盗撮:県立高の教諭を容疑で逮捕 富士吉田(11/8,毎日,山梨,高,男,30)
通勤電車で盗撮容疑=高校教諭を逮捕
 (11/8,時事ドットコム,大阪,高,男,25)
校長、穴開きハンドタオルで隠したカメラで女性のスカート内盗撮
 (11/8,産経,兵庫,高,男,59)
男子高生にホテルでわいせつな行為…容疑の府立高講師を逮捕 
 (11/9,サンスポ,京都,高,男,38)
愛知の教諭、小2児童の頭を黒板にぶつける(11/9,朝日,愛知,小,男,40代)
生徒にわいせつ 中学校教諭を懲戒免職処分
 (11/10,琉球朝日放送,沖縄,中,男,20代)
酒気帯びで追突の男性教諭を懲戒免職(11/11,産経,大阪,中,男,35)
教員免許取得未申請のまま勤務 明石商業高の男性職員
 (11/11,産経,兵庫,高,男,25)
小学校教諭が酒気帯び運転、容疑否認(11/11,日テレ,茨城,小,男,50)
児童ポルノ、児童買春…。名誉毀損の男性教諭(11/11,産経,滋賀,高,男,25)
小学校教諭 強制わいせつか逮捕(11/12,NHK,埼玉,小,男,29)
女子生徒と性行為・水着窃盗… 教諭ら4人処分
 (11/14,朝日,愛知,性行為:中男28,水着窃盗:小男38,手紙で好意伝達:高男52,わいせつ:高男39)
同僚女性教諭に暴行、男性講師を停職処分(11/15,朝日,岐阜,特,男,26)
小学校教師が児童の口に"ティッシュ"詰め込む 
 (11/15,北海道ニュース,北海道,小)
勤務先高校で同僚の現金や財布窃盗容疑(11/16,産経,福岡,高,男,43)
女子生徒肩車し「意外と重い」、セクハラで教諭処分 
 (11/17,産経,宮崎,高,男)
遠征費不正受給や不適切メッセージ 群馬県立高教諭を停職
 (11/18,産経,群馬,高,男,41)
教諭 小1の口にテープ貼る(11/18,読売,大分,小,女,50代)
九九の暗唱させながら…長崎の小学教諭、教室で児童盗撮
 (11/18,朝日,長崎,小,男,61)
下着窃盗で教諭逮捕「買うのが恥ずかしくて盗んだ」
 (11/19,日刊スポーツ,大阪,高,男,30)
教え子の女子児童6人にわいせつ行為 60代教諭を懲戒免職
 (11/20,佐賀新聞,佐賀,小,男,62)
体罰の中学男性教諭を戒告処分(11/20,岩手放送,岩手,中,男,53)
万引きで女性教諭を懲戒処分 名古屋市教委(11/21,CBCテレビ,愛知,小,女)
歩道で転倒の62歳、中学教諭の車にひかれ重体
 (11/21,読売,北海道,中,男,30)
上田の中学教諭2人が女生徒の身体的特徴記したLINEを交換
 (11/21,信越放送,長野,中,男,20代,40代)
「正式採用ちゃうねんで」 部下にパラハラ、セクハラ発言の男性校長を懲戒
 (11/21,神戸新聞,兵庫,高,男,59)
女子中学生に「キスしてやろうか」、肩や髪触るなどのセクハラ
 (11/22,サンスポ,北海道,中,男,59)
教頭の上履き隠すなど嫌がらせ、高校教諭を減給
 (11/23,朝日,北海道,高,男,51)
酒気帯び運転で逮捕の小学校教諭を懲戒処分(11/23,毎日,兵庫,小,男,25)
酒気帯び容疑逮捕 小学教諭を懲戒免(11/23,茨城新聞,茨城,小,男,50)
バレー部員6人に常習的体罰 講師を懲戒処分
 (11/24,毎日,大阪,中,男,29)
校内で女子生徒と“行為” 中学教師、卒業後も関係
 (11/24,テレビ朝日,神奈川,中,男,35)
酒気帯び運転、中学校長懲戒免職処分(11/25,静岡新聞,静岡,中,男,57)
埼玉のふじみ野で市立中学教諭が全校生徒の身体測定データ紛失
 (11/25,産経,埼玉,中,女)
スカートの下にスマホ、盗撮の疑い 中学校教諭逮捕
 (11/28,朝日,大阪,中,男,23)
修学旅行中生徒に体罰 能代工高の男性教諭(11/28,河北新報,秋田,高,男)
同僚の女性教諭にわいせつ行為、30代男性教諭を懲戒免職
 (11/28,産経,北海道,小,男,30代)
トイレ侵入などで2教諭を懲戒免職 速度違反で1人戒告
 (11/29,産経,新潟,トイレ侵入:中男47,わいせつ:高男35)

2017年11月29日水曜日

「**子」という名前

 2017年に生まれた子どもの名前で最も多いのは,男子は「悠真」,女子は「結菜」だそうです。
http://www.asahi.com/articles/ASKCX446SKCXUTFK00H.html

 元資料は,明治安田生命の「生まれ年別・名前ランキング」です。スゴイことに,戦前期から毎年,男女の名前のベスト10を知ることができます。
http://www.meijiyasuda.co.jp/enjoy/ranking/index.html

 戦前から戦後,そして現在にかけて社会は大きく変わりましたが,親が子どもにつけるな名前にも変化が見られます。よく言われるのは,女の子に「**子」という名前をつける親が減っていることです。

 私の母(故)が生まれた1940年,私が生まれた1976年,そして2016年について,女の赤ちゃんにつけられた名前のベスト10を整理すると,以下のようになります。


 「**子」という名前には,ピンクのマークをしています。1940年では,上位10は軒並み「**子」です。

 2位に「和子」があがっていますが,戦争中のデータをみると,ほとんどの年で首位は「和子」となっています。庶民の心の内では,平和への希求があったのでしょうか。

 しかし高度経済成長を経た76年になると,「**子」は上位10の中で半分以下に減ります。2016年現在では,5位の「莉子」だけです。

 これはラフな3時点のピンポイント推移ですが,変化を仔細に跡付けてみましょうか。1920~2016年の各年について,女子の上位10の名前のうち「**子」にマークをつけた図を作ってみました。ヒマ人っすね…。


 1950年代までは,ピンクのマークで染まっています(1920年の9位は「キヨ」)。しかし60年代からぼちぼち「真由美」などの名前がランクインし,60年代後半から「**美」といった名前の比重が増してきます。

 80年代後半以降は,「**子」はほとんどなくなります。最近において点在しているマークは,「莉子」です。

 1年刻みで丁寧に変化を辿ると,変化の過渡期は60年代後半から80年代前半であったことが知られます。私は,こうした過渡期のど真ん中の時期(76年)に生まれたのだなあ。

 もちろん今でも,「**子」という名をつける親はいます。2年前に電車で小学生の遠足集団と乗り合わせたとき,「和子」や「智子」といった(古風な)ネームをちらほら見かけました。

 そうそう。「**子」という名の女子は頭がいい,という調査結果があるそうですが,まあこれは,良家(高学歴)の親に古風な考えの人が多いからかな…。

 興味本位でしょーもない作業をしましたが,名前という切り口でも,社会の変化を見て取れるのは面白いですね。ちなみに男子は,今は多くが漢字2字ですが,1950年代までは,上位10は軒並み漢字1字です(「清」「茂」「博」など)。

 1文字の名前の出現度など,観点を変えれば,また違った変化の様を取り出せるでしょう。学生さんなら,どういう作品を作るかな。半ば「お遊び」ですが,調査統計法の作業課題としていいんじゃないかと思います。

2017年11月27日月曜日

男性の稼ぎ寄与度の国際比較

 今からちょうど20年前の1997年,山一証券が倒産しました。私が学部3年の頃です。

 そのニュースが流れた翌日,経済学の授業でつい居眠りをしていたところ,教授から「おい,そこのお前。気持ちよさそうに寝ているけど,大企業もつぶれる時代なんだぞ」と,たしなめられたのを覚えています。

 それからわが国の経済状況は急激に悪化。翌年の98年には,年間の自殺者が3万人を超えました。増分の多くは,無慈悲なリストラに遭った中高年男性です。50代男性の自殺者は,97年は3875人だったのが,98年には5973人に急増しました(厚労省『人口動態統計』)。たった1年間で,2千人以上も自殺者が増えたわけです。

 悲しいかな。男性の自殺率は,社会の経済状況を鋭敏に反映する傾向を持っています。たとえば,失業率と自殺率の時系列カーブを描くと,驚くほど近似しています。下図は,1960年から2016年までの長期推移です。

 失業率は,各年の12か月の平均値です。15歳以上の労働力人口に占める,完全失業者の割合です。自殺率は,人口10万人あたりの年間自殺者数です。前者は総務省『労働力調査』,後者は厚労省『人口動態統計』に,計算済の数値が出ています。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000000110009&cycode=0
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001191145


 明瞭な共変関係ですねえ。この46年間のデータで相関係数を出すと,+0.938にもなります。失業率が分かれば,自殺率をほぼ正確に言い当てられるレベルです。これが因果関係を意味するとは限りませんが,「失業→生活苦→自殺」という経路を想定するのは容易いでしょう。

 昨日,このグラフをツイッターで発信したところ,ある方が「なぜ,男性は女性に経済的に頼ることを考えないのか?」という疑問を呈されました。
https://twitter.com/lalahearttwit/status/934614998319554561

 なるほど。「男性は,妻子を養って当たり前」という,わが国のジェンダー呪縛を逆照射する指摘ですね。97年から98年にかけて,リストラに遭った中高年男性の自殺者が急増したのですが,「家族に保険金を」という動機もあったことでしょう。

 女性にあっては,失業率と自殺率の間に明白な共変関係は見られません。男性に限っても,上図のようなトレンドが出てくるのは,日本くらいではないでしょうか。「一家を養うべし」というジェンダー呪縛,「仕事=生活」という価値観が最も浸透した社会ですので。

 わが国では,男性が女性に「経済的に頼ること」は稀ですが,諸外国ではどうなのでしょう。私はこの点を可視化すべく,共働き夫婦の稼ぎ分担を数値で出してみました。夫の稼ぎが,夫婦の稼ぎの何%に相当するかです。

 ISSPが2015年に実施した「労働環境の意識調査」では,就業者に対し,自分の年収と世帯の年収を尋ねています。日本の25~54歳の共働き男性(自分も妻も働いている男性)を取り出し,双方の分布をとると,以下のようになります。無回答は除く,有効回答の分布です。
http://www.issp.org/data-download/by-year/


 年収の階級は,階級値で示されています。250万円とは,年収200万円台の者です。この分布から平均値を出すと,個人年収は526万円,世帯年収は692万円となります。前者が後者に占める割合は,76.0%です。

 日本の25~54歳の共働き男性を取り出すと,世帯年収(夫婦の稼ぎ)の4分の3を当人が稼いでいると。

 他国はどうでしょう。同じやり方で,共働き夫婦の男性の稼ぎ割合を試算してみました。下表は,日本と欧米の6か国のデータです。お隣の韓国は,上記調査の対象になっていません。


 日本は76.0%ですが,欧米では6割くらいですね。イギリスやスウェーデンでは,夫婦の稼ぎが半々近くになっています。

 むろん三世代同居の世帯もあり,分母に自分(配偶者)の親の稼ぎも含まれている可能性はありますが,欧米では三世代同居はほとんどないので,夫婦の稼ぎに占める,夫の稼ぎの比重とみて間違いないでしょう。

 日本では三世代同居が結構いるかもしれませんが,核家族世帯に絞ったら,夫の稼ぎ比率は8割に達するかもしれませんね。

 このような簡単な検討からも,日本では,男性に重いジェンダー呪縛が課せられていることが知られます。最初の図でみたように,失業率と自殺率が気持ち悪いくらい同調するわけです。オトコが「女性に経済的に頼ること」を知っている社会では,こうはなりますまい。

 世界を見渡せば,少なからぬ女性が「主たる家計支持者」という国もあります。南国のタイでは,30~40代の有配偶女性の6割近くが,「自分が主たる家計支持者だ」と答えています。スゴイですねえ。男性が怠け者なんでしょうか。
http://tmaita77.blogspot.jp/2014/05/blog-post_11.html

 日本では,男女の双方にジェンダー呪縛が課されています。男性の稼ぎ分担率が主要国で首位なら,女性の家事・育児分担率は世界でトップです。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/03/post-4607.php

 収入源を絶たれたら即座に自殺する男性,家事・育児のワンオペで潰れる女性……。まったくもって,残念なことです。両性が,伝統的な相互の役割にもっと乗り入れるようになったら,事態は大きく変わることでしょう。

2017年11月23日木曜日

『スーパー過去問ゼミ5 教育学・心理学』

 ちょっと早いですが,新刊のご案内です。国家公務員試験対策用の問題集『スーパー過去問ゼミ5 教育学・心理学』の出来本が,実務教育出版より届きました。発売は,12月1日の予定です。
https://jitsumu.hondana.jp/book/b310521.html


 2014年刊行の旧版を,近年の出題傾向をもとに改訂しました。教育学のパートは,私が執筆しています。

 教育学は,国家総合職・国家一般職・法務省専門職員試験の選択科目として設けられています。受験者が多い一般職では,毎年5問が出題されますが,傾向は完全に固定されています。毎年,以下の5分野からの出題です。

 ・教育史
 ・教育社会学
 ・教育法規
 ・生涯学習
 ・教育方法学

 教育社会学は,教員採用試験の教職教養では「アウト・オブ・眼中」なのですが,国家公務員試験では大変重視されています。いいことです。

 生涯学習も必出。少子高齢化の進行により,生涯学習の重要性が増しているためでしょう。この点も,教員採用試験とは違っています。

 本書には,試験での出題頻度が高く,かつ広範な知識を吸収できる88の過去問を盛り込んでいます。解説も,懇切丁寧にしたつもりです(関連知識の紹介など)。これらを繰り返し解いてモノにすることで,試験を突破する実践力が確実に培われることと思います。

 参考書の機能も持たせるため,「POINT」というページを設け,必ず押さえておくべき最重要の知識を盛っていますが,如何せんページ不足のため,これだけでは不足です。そこで,『教職教養らくらくマスター』も併用されることをお勧めします。教員採用向けの本ですが,国家公務員試験対策にも使える作りになっています。
https://jitsumu.hondana.jp/book/b297721.html

 出題頻度の高い西洋教育史は,本書の136~143ページの思想家一覧表を使った学習が効果的でしょう。ルソーなら主著として『エミール』,思想上のキーワードは「子どもの発見」「消極教育」。これだけ押さえておけばOKです。

 ある人物の名前を提示されたら,即座に主著とキーワードを答えられるようにすること。これだけで,問題の大半は解けます。教育学の問題は,著名人物の学説の正誤判定がほとんどですので。

 教育法規については,上記の要点整理集の「教育法規」のチャプターで紹介されている,重要法規の条文を押さえるといいでしょう。教育基本法,学校教育法,教育公務員特例法,教育職員免許法,地方教育行政法など。

 そうそう。教育社会学は,専門用語の理解を試す問題も多し。「隠れたカリキュラム」「文化的再生産」「感情労働」など。現存の教育社会学の用語集としては,岩井・近藤編『現代教育社会学』(有斐閣)の巻末用語集がベストだと思います。過去問をみても,この部分からの出題が数回あり。本書は2010年刊行ですが,版を重ねた最新版を手元に置かれたし。巻末用語集だけでなく,本文の内容もためになります。
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641183827

 これらの参考書も併用して,『スーパー過去問ゼミ5 教育学・心理学に繰り返し取り組めば鬼に金棒。

 上述のように,教育学は出題傾向が固定されており,問題の難易度もさほど高くありません。それに,教育は誰もが実際に経験してきていることなので,現実感をもって,楽しく学習することができるでしょう。「ああ,こういうことだったのか」と,自分の体験との往復運動も面白い。ぜひとも,教育学の選択をお勧めしたいと思います。

 マイナーな科目ゆえ,教育学・心理学の過去問集は,本書しかないと聞いています。唯一の過去問集です。需要があったのか,2014年刊行の旧版は3刷まで行きました。
https://twitter.com/p_xs3/status/526903103837061121

 長くなりましたが,新刊『スーパー過去問ゼミ5 教育学・心理学のアナウンスでした。来週の末に,書店に並ぶ予定です。「国家公務員試験を教育学で受けようかな」という皆さん,お手にとっていただけますと幸いです。

2017年11月21日火曜日

年齢・性差別の国際比較

 差別(discrimination)は,いつの時代,どの社会でも,重要な社会問題の根幹をなしています。性・年齢・人種など,当人では如何ともしがたい外的属性によって,社会的な処遇や富の配分に傾斜をつけることです。

 差別は,生活のあらゆる領域で起こり得ますが,最も頻度が高いのは,仕事の場(職域)ではないでしょうか。昔の社会病理学のテキストを開くと,「職域の病理」というチャプターの中で,必ずといっていいほど,差別の問題に触れられています。

 ISSPの「職場環境に関する調査」(2015年)では,就業者(就業経験者)に対し,過去5年間で,仕事上の差別を受けたことがあるか,と問うています。回答は,「イエス」or「ノー」。
http://www.issp.org/data-download/by-year/

 日本の労働者の回答は,「はい」が133人,「いいえ」が1011人となっています(無効回答は除く)。被差別の経験率は,133/(133+1011)=11.6% となります。仕事に関わる差別を受けたことがある労働者の割合は,全体のおよそ1割。

 「はい」と答えた者には,差別の主な理由を答えてもらっています。11の選択肢から1つを選ぶ形式です。それを整理すると,下表のようになります。


 被差別経験者133人の回答によると,主な差別理由として「年齢」を選んだ者が49人と,最も多くなっています。わが国の(悪しき)年齢主義が出ていますねえ。その次は,「その他」の45人です。分かりやすい外的属性以外の差別もあるのでしょう。

 3番目は障害。日本の職場はまだまだ,障害者にとって働きやすいとはいえますまい。その次は性別です。サンプルが少ないので分析できませんが,女性に限ったらこの理由の比重は高くなるでしょう。

 上の表は,日本の職場における差別理由ですが,様相は国によって違っています。多民族国家のインドでは,差別理由で最も多いのは「人種」です。南米のベネズエラでは,「政治的信念」が最も多くなっています。

 しかし大観すると,年齢・性別という,人間を分かつ基本属性に由来する差別が多くなっています。

 この2つの理由が,差別理由全体の中で何%を占めるか。調査対象の37か国の国際比較をしてみましょうか。

 「どれでもない」と「無回答」を除く9つの理由全体に占める,年齢・性別の比重を計算してみました。日本の場合,年齢は,49/124=39.5%です。性別は,8/124=6.5%なり(上記の表参照)。

 横軸に年齢,縦軸に性別の比重をとった座標上に,37の国を配置すると,以下の図のようになります。点線は,37か国の平均値を表します。


 横軸の年齢差別の比重は,日本はオーストラリアに次いで高くなっています。性差別は,国際平均より下。近くに,メキシコやフィリピンといった発展途上国がありますが,女性差別にセンシティヴでない,という見方もできます。

 南アフリカやスリナムでは,両方の比重が低くなっていますが,これらの社会では,「人種」という理由を選ぶ人が圧倒的に多くなっています。南アの人種隔離政策(アパルトヘイト)の歴史は,よく知られていること。その伝統が,見えざる形で残存しているのでしょう。

 右上は,年齢や性差別の申告度が高い社会ですが,フィンランドはセンシティヴですねえ。アイスランド,ノルウェー,そしてスウェーデン(瑞)といった北欧諸国では,性差別の比重が高し。女性の就業率が高いので,こういう結果になるのでしょうが,ジェンダーの問題に真摯に向き合っていることの表れともとれます。

 性差別にどれほどセンシティヴか? この点を計測する尺度とか,どこかの研究者が考案していないものか。いくつかの行為を提示し,「差別と思うか」と答えさせ,点数化するなど。おそらく,左上と右下の社会では,かなり違った結果が出るでしょう。

 ただ日本でも年齢差別の問題は認識されているようです,現実にもありますしね。年齢え求職者を門前払いしたり,若いという理由で,才能ある人材を指導的なポジションに就かせなかったり…。校長の若年比率の国際比較をすると,よく分かります。

 16日公開のニューズウィーク記事にも書きましたが,こういう悪しき年齢主義を打破するには,履歴書の年齢欄を撤廃することから始めるといいかもしれません。年齢を記した履歴書を求めること,求人票に「*歳まで」と書くことなどは,諸外国では年齢差別以外の何物でもありません。

 20代のフリーターの7割が月収20万未満で,8割が正社員を希望しているというデータが報じられています。超売り手市場で,学生がこないと企業は嘆いていますが,新卒だけでなく,こういう既卒層,さらにはわれわれのようなロスジェネにも目を向けるべきでしょう。同じ人間,何も違うところはありません。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171120-00000065-zdn_mkt-bus_all

 少子高齢化で労働力が減っていく時代にあって,年齢主義や新卒至上主義のような慣行は,まずもって撤廃しないといけません。