2010年12月21日火曜日

中学受験

 前回の話で,「中学受験」という言葉が出ました。田舎だったせいか,私の周りには中学受験をする級友など皆無でしたが,勤務先の大学(東京所在)の学生と話してみると,ことのほか,中学校から私立だったという者が多いことに驚かされます。2009年の文科省『学校基本調査』によると,中学生のおよそ7%が私立生ですが,東京では,この比率は27%にもなります。なるほど,上記の経験も,さもありなんという感じです。

 私は,興味本位から,中学受験の先進地である東京都内の中学受験地図を作ってみました。東京都内の市区町村について,2009年春の公立小学校卒業生のうち,国立ないしは私立の中学校に進学した者の比率を出し,値の高低にしたがって,各地域を塗り分けてみました。統計の資料源は,東京都教育委員会『平成21年度・公立学校統計調査報告(進路状況編)』です。この年の国立・私立中学進学率は,都全体では17.8%となっています。はて,地域別では??


 2009年春の,東京都内の中学受験地図は上のようです。黒色は,進学率が30%を超える地域です。率が最も高い文京区では,43.3%にもなります。同区では,地元の小学校卒業生の4割以上が,国立ないしは私立の中学校に進学しているわけです。脅威です。なお,地理的にみて,高率地域が固まっていることも注目されます。

 興味本位で作った図ですが,ここで問題関心が芽生えてきました。それは,中学受験が盛んな地域では,子どもの育ちはどうか,ということです。まず,勉強のし過ぎから,目が悪くなるのではないでしょうか。私は,2009年の東京都の『学校保健統計調査』から,都内の各地域の公立小学校6年生について,近視児(視力0.3未満)の比率を出し,上記の進学率の数字と関連づけてみました。


 上図は,町村を除く49市区のデータから描いた相関図です。予想通り,中学受験が盛んな地域では,近視の子どもが多い傾向にあります。図の右上に位置するのは文京区です。進学率がトップの同区では,小学生のおよそ4人に1人が近視児です。両変数の相関係数は0.678,1%水準で有意と判定されます。中学受験の過熱は,他にも,さまざまな面で,子どもの生活に歪みを与えると推測されます,たとえば,肥満や各種疾病の疾患率など。興味ある方は,追究されるとよいでしょう。

 しかし,それよりも大きな問題は,不平等という問題です。東京大学などの有力大学合格者が私立校出身者によって寡占される傾向が強まっているといわれます。有力大学に入るには,それなりの経済水準の家庭に生まれ,幼いころから通塾し,多額の費用をかけて早い段階から私立校に行かないといけない。このような傾向が濃厚になるならば,わが国は,生まれが人生を決定する階層社会と化してしまうでしょう。有力大学合格者の出身高校のデータについては,後ほど紹介したいと思います。