2011年12月31日土曜日

2011年の総括

今年も今日で終わりです。あまり大したことはしていませんが,2011年にやったことを書き留めておこうと思います。

 まず大学の非常勤講師ですが,武蔵野大学では,全学共通科目の「社会現象を数で捉える」(通年),環境学部の「調査統計法2」(前期)を担当しました。杏林大学では,教職課程の「教育社会学」(後期,2コマ)を担当しました。武蔵野学院大学では,国際コミュニケーション学部の「リカレント教育論」(前期)と「ボランティア論」(後期)を担当しました。

 文筆のほうは,教員採用試験の対策本の新刊として,11月の下旬に,『中高社会らくらくマスター』と『中高保健体育らくらくマスター』を出しました。いずれも,実務教育出版社からの刊行です。それと,既刊の『教職教養らくらくマスター』の全面改訂作業を行いました。あと一点,『週刊読書人』2月18日号の「ニュー・エイジ登場」欄において,自己紹介の記事を書かせていただきました。
http://www.dokushojin.co.jp/backnumber/2011%E5%B9%B4-2%E6%9C%8818%E6%97%A5%E5%8F%B7

 最後に学術研究ですが,恥ずかしながら,今年は学会報告ゼロ,論文ゼロです。これではいけません。来年はがんばろうと思います。目下,考えているテーマがあります。現在,とある官庁統計の最新データの公表を待っているところです。

 このように,私のしていることは,①大学非常勤講師,②文筆,および③学術研究の3つからなるのですが,今年は新たに④ブログ運営が加わりました。昨年の12月16日にスタートし,今日までの間に247の記事を書きました。毎日とはいきませんが,1日おきで更新してきたことになります。ヒマ人といわれればそれまでですが,「継続は力なり」。来年も,随時更新していく所存であります。

 さて,このブログについても,これまでの総括をしておきましょう。昨年の12月16日の開設から,本記事を書いている現時点までの間における,ページビュー数(閲覧数)の総計は71,009件です。1日あたりにすると,およそ186件です。閲覧数の多い記事を,上位10位まで示します。


 10月26日に書いた「行方不明の博士」がダントツです。この記事だけで,全閲覧数の11.2%をカバーしています。無職博士問題に興味を持っておられる方が多いのだな,と思います。この記事については,ツイッターで取り上げてくださった方も多いようです。感謝申し上げます。
http://ceron.jp/site/tmaita77.blogspot.com

 教員関連の記事の閲覧頻度が高いことも目を引きます。現在は,教職受難の時代といわれます。10月29日に岩波書店から刊行された,朝日新聞教育チームの『いま,先生は』が話題になっているようです。この本で紹介されている生々しい実情を,マクロ的な視野から俯瞰する意味合いにおいて,本ブログの関連記事をご覧いただけますと幸いです。

 来年も,本ブログをよろしくお願い申し上げます。では,みなさま,よいお年をお迎えください。

舞田敏彦  拝

2011年12月29日木曜日

生活習慣病の社会的規定性

「死」というのは,人間にとって避けられない宿命なのですが,多くの方が,病気や外因によることなく,自然に逝きたいと願っていることでしょう。しかるに,12月13日の記事でみたように,全死因に占める自然死(老衰)の比率はほんのわずかです。

 死因の多くを占めるのは生活習慣病です。がん,心疾患,および脳卒中といった3大生活習慣病が全体の約6割を占めています。死亡者5人のうち3人は,これらの病で命を落としていることになります。

 このように恐ろしい生活習慣病ですが,この病を患い,さらには命をも落とす確率が社会的属性によって違っているとしたらどうでしょう。病気というのは,生理現象(自然現象)と捉えられがちですが,社会現象としての側面も持っています。近年,「健康問題の社会学」という学問領域も開拓されつつあるところです。

 ある現象の社会的な側面は,当該の現象の量(magnitude)の地域差によって可視的に表現されます。私は,東京都内の49市区でみて,3大生活習慣病による死亡率がどれほど異なるかを観察してみることにしました。

 東京都福祉保健局『人口動態統計』(2009年版)には,同年における,3大生活習慣病による死亡者数が,都内の地域別に掲載されています。私が住んでいる多摩市の場合,544人です。この年の同市の人口はおよそ15万人ですから,この死因による死亡率は,1万人あたり36.2人と算出されます。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kiban/chosa_tokei/eisei/jinkou/

 都内49市区についてこの指標を計算し,5.0の区分で各地域を塗り分けた地図をつくりました。「生活習慣病マップ」とでも命名しておきましょう。


 いかがでしょう。死亡率が50を超えるブラックゾーンは,都内の北東部と北西部に固まっています。その一方で,中央部は白く染まっています。高率地域と低率地域が固まっていることが知られます。

 生活習慣病による死亡が偶然の要素によるのであれば,上図のような,分極化した模様(segregated colour)が観察されることはありますまい。当該の現象の社会的規定性がうかがれます。

 都内の北東部が黒く染まっているのですが,これらの下町地域は,貧困層が比較的多い地域です。生活習慣病による死亡率は,住民の貧困の度合いのような要因と結びついているように思われます。

 私は,2009年度の生活保護世帯数(月平均)を全世帯数で除した生活保護世帯率を地域別に出し,3大生活習慣病による死亡率との相関関係を明らかにしました。下図は,両指標の相関図です。赤色のドットは23区をさします。


 予想通り,正の相関です。相関係数は,49市区データでは0.615ですが,赤色の23区のデータのみから出すと0.823にもなります。大変高い値です。貧困という社会的な要因と,生活習慣病とのつながりが明白です。

 生活習慣病とは,生活習慣の乱れに起因する側面が強い病気の総称ですが,生活習慣の乱れというのは,個々人の社会的な地位によってかなり異なる,という見方もできます。

 1月12日の記事では,小・中学生の肥満児出現率が貧困指標と強く相関していることを明らかにしましたが,このことの解釈として,貧困家庭の保護者は,安価なジャンクフードばかりを子どもに食べさせているのではないか,という仮説を提示しました。

 ここでのデータも,貧困層における食生活の乱れという点から解釈できないこともありません。ほか,運動不足,家にこもりがち,定期的な健康診断を受けないなど,さまざまな事態を想起できます。

 いずれにせよ,格差社会化の進行は,「いのち」の格差にまで連動する恐れがあることがうかがわれます。この仮説に信憑性を持たせるには,過去のデータとの比較が有益でしょう。貧困と生活習慣病の関連は,過去に比して強まってきているのかどうか。このような時系列比較が,今後の課題として残されています。

2011年12月27日火曜日

性格行動相談

厚労省の『社会福祉行政業務報告』には,児童相談の統計が掲げられています。年度の間に,全国の児童相談所に寄せられた相談の件数です。11月27日の記事では養護相談,29日の記事では不登校・いじめ相談の件数を分析しました。今回は,性格行動相談の統計をみてみようと思います。

 上記の資料の用語解説によると,性格行動相談とは,「子どもの人格の発達上問題となる反抗,友達と遊べない,落ち着きがない,内気,緘黙,不活発,家庭内暴力,生活習慣の著しい逸脱等性格もしくは行動上の問題を有する子どもに関する相談」と定義されています。

 「反抗」,「逸脱」,「行動上の問題」といったタームが出てきますが,この種の問題を抱えた子どもは増えてきているような印象を持ちます。相談件数の統計は,どのように推移しているのでしょうか。1965年度(昭和40年度)以降の2~3年刻みの統計を整理しました。


 性格行動関連の相談件数は,やや波がありますが,傾向としては増えてきています。1965年度では1万7千件ほどでしたが,それから40年を経た2005年度では3万3千件を超えています。この期間中,子ども(20歳未満)の数が減ってきていることを勘案すると,子どもの発育途上において,性格行動上の問題が発現する確率が上がってきていることがうかがれます。

 表をよくみると,1992年度から95年度にかけて,相談件数の実数,比率とも急上昇しています。この3年間の間に,相談件数は1万件も増えています。ちょうど日本社会に暗雲が立ち込めてきた時期と重なっているのが不気味です。

 次に,性格行動関連の相談が,どの年齢の子どもで多いのかをみてみます。2010年度の統計によると,性格行動相談は,13歳の子どもに関するものが最も多く,2,637件となっています。この年の13歳の子どもの数は,およそ119万人です(総務省『人口推計年報』)。よって,人口(ベース)あたりの相談件数の比率は,1万人あたり22.1件となります。子ども人口全体でみた相談件数率(11.8)の2倍近くです。

 性格行動上の問題が発現する確率が最も高いのは,13歳のようです。ちょうど第二次反抗期の只中にある難しいお年頃です。分かるような気がします。しかるに,これは最近のデータです。年齢別の様相は,時代によって異なると思われます。私は,上表の各年度について,人口あたりの性格行動相談率を年齢別に出し,結果を上から俯瞰することができる図をつくりました。


 黒色は,該当年齢人口1万人あたりの相談件数が20件を超えることを示唆します。紫色は,15件以上20件未満です。色により,それぞれの時代の「難しいお年頃」が何歳かをみてとることができます。

 私が生まれた頃の1970年代では,性格行動関連相談は,3~4歳の幼児で多かったようです。その後,80年代から90年代の初頭までは,目立った高率ゾーンはなくなりますが,90年代の後半以降,6~15歳の学齢の部分において,怪しい紫色が広がってきます。黒色の膿の位置が,徐々に高齢の部分にシフトしていることも注目されます。

 いかがでしょう。難しいお年頃は,時代によって変わってきているようです。かつては3~4歳でしたが,最近では13~14歳です。奇しくも,前者は発達心理学でいう第一次反抗期,後者は第二次反抗期に相当します。

 第一次反抗期は,身体を自由に動かせるようになった幼児が,それまでの親の全面的な統制に反抗するようになる時期です。第二次反抗期は,自我に目覚め,大人になることを欲する児童・生徒が,親の干渉や支配に反抗するようになる時期です。

 今日では,2番目の第二次反抗期の危機が際立っているようです。子どもの自我の芽生えを,大人が押さえつけているようなことはないでしょうか。彼らの有り余るエネルギーの発散の場を用意できているでしょうか。

 多くの子どもが早い段階で社会に出ていた時代では,こうした問題はさほど深刻ではなかったことでしょう。しかし,進学率の上昇により,ほぼすべての子どもが,勉強の好き嫌いに関係なく,長期の間学校に囲い込まれる現代では,彼らの自我が周囲(親,教師・・・)と衝突する度合いが高くなっていることと思われます。

 青少年の成熟拒否志向が問題視されていますが,思春期以降の子どもは,いつの時代でも,大人になりたいという強い欲求を持っています。それを好ましい方向に指導していくには,彼らに適切な役割(role)を与えることが重要です。今日では,「机上の勉学に励むべき生徒」という一面的なものにあまりにも偏していることは,指摘するまでもありません。

 学齢期において膿が広がっている上図の模様は,学校化が過度に進行した現代日本社会の病理を表現したものと捉えることもできるでしょう。

2011年12月24日土曜日

青年の生きづらさの変化(続)

10月13日の記事では,自殺率を指標として,1990年代以降,青年層の「生きづらさ」がどう変わったかを観察しました。今回は,もっと長期にわたる変化の様相をみてみようと思います。

 青年とは,25~34歳の年齢層をさすものとします。自殺率は,自殺者数がベースの人口に占める比率です。分子の自殺者数は厚労省『人口動態統計』,分母の人口は総務省『人口推計年報』から得ます。2010年でいうと,当該年齢の自殺者は3,550人,当該年齢人口が約1,559万人ですから,10万人あたりの自殺率は22.8人となります。

 これは自殺率の絶対水準ですが,青年の自殺率が人口全体のそれに比してどうかという,相対水準も併せて観察します。尺度としては,青年の自殺率を人口全体の自殺率で除した値を使います。2010年でいうと,青年の自殺率(22.8)÷人口全体の自殺率(23.3)≒0.98です。横浜国立大学の渡部真教授のネーミングにしたがって,この値をα値と呼ぶことにします。

 私は,1950年から2010年までの各年について,青年の自殺率とα値を計算しました。下図は,横軸にα値,縦軸に自殺率をとった座標上に,それぞれの年のデータを位置づけ,線で結んだものです。この60年間における,青年層の「生きづらさ」の程度がどう変わったかを,視覚的にみてとることができます。*黒の点線は,近年における世界59か国の平均値をさします。10月12日の記事を参照ください。


 図の右上に位置するほど,自殺率の絶対水準・相対水準とも高いことになりますので,青年層の生きづらさの程度が高いことになります。

 どうでしょう。1950年から始まり,1955年(昭和30年)になると,図の最も右上に位置します。昭和30年代初頭が,青年にとって最も「生きづらい」時期であったようです。社会の激変期にあった当時,価値観の急変に適応できなかった青年も多かったことでしょう。

 その後,社会の安定により,青年の生きづらさも緩和されてきます。1960年から1970年にかけて,ドットが右上から左下へと大きく動いています。1960年代の高度経済成長の恩恵にあずかった,ということでしょうか。

 1970年代の間は微変動ですが,80年代にかけて,ドットが再び左下に大きく移動します。わが国がバブル経済に沸いた時期です。青年層の生きづらさの程度が最小であったのは,1993年(平成5年)でした。

 しかし,それ以降,ドットの動きの向きが変わります。1990年代の後半にかけて上方にシフトし(絶対水準上昇),今世紀になると,右上に動いています(絶対水準,相対水準上昇)。近年,青年層の生きづらさの程度が増してきています。10月13日の記事でみたように,こうした傾向は,先進国の中では,わが国に固有のものです。

 さて,今後はどうなっていくのでしょう。2001年から2010年までの傾向を延ばしてみると,2020年のドットは,1950年代の近辺に位置づきます。ぐるりと一周まわって,再び右上のゾーンに帰ってきます。青年の生きづらさの程度が,戦後初期の頃の水準に立ちかえることが予想されるのです。

 このような直線的な予測が的中するかどうかは,今後の青年(若者)関連の施策に依存します。2010年4月には,子ども・若者育成支援推進法が施行され,同年7月には,子ども・若者育成支援推進大綱(子ども・若者ビジョン)が策定されたところです。
http://www8.cao.go.jp/youth/data/vision-gaiyo.pdf

 子ども・若者ビジョンの基本理念の一つとして,「子ども・若者は,大人と共に生きるパートナー」というものが掲げられています。ぜひとも具現していただきたい理念です。子ども・若者をして,搾取の対象とするのではなく,共存するパートナーと位置づけていただきたいと思います。

2011年12月23日金曜日

私の好きな本①

随時,私の好きな本を実物写真を交えて紹介していきたいと存じます。まずは,恩師の松本良夫先生の主著,『図説・非行問題の社会学』です。1984年に,光生館から発刊された本です。


 少年非行の社会学的研究を志すならば,まずもって読まなければならない重要文献です。本書に収められた多数の統計図(表)から,社会現象としての少年非行の全貌を把握することができます。その一部をご覧にいれましょう。私のメモ書きやマークがありますが,ご容赦ください。


 出身階層や教育上の進路によって,非行少年の出現率がどう異なるか,という問題を追及した箇所です(108~109頁)。松本先生が科学警察研究所時代に手掛けられた,大規模なコーホート追跡調査の結果が用いられています。

 右下の統計図では,両変数を組み合わせて構成した9グループの非行少年出現率が明らかにされています。この図は,各グループの非行率のみならず,各々の量的規模までもが視覚的に分かるよう工夫されています。

 教育上の進路(中学まで,高校まで,大学まで)の構成は横軸,出身階層(ブルーカラー,商工業自営,ホワイトカラー)の構成は縦軸の幅で表現されています。

 左側は1942年生まれ世代,右側は1950年生まれ世代の結果です。いかがでしょう。世代が下ると,進学率の上昇により,中学までの者(黒色)の比重が減じてきます。その分,このグループに危機が濃縮されることとなり(落伍者の烙印・・・),中学までのグループから非行少年が出る確率は,他の学歴グループに比して,格段に高くなります。出身階層を問わずです。

 現象を端的に分かりやすく伝えようという配慮(真心)が,この本の至る所に見受けられます。なお,本書が出た頃は,エクセルなどのグラフ作成ツールはありませんでした。どの統計図も,松本先生が丹精込めて手書きで作成されたものなのでしょう。すごいな,と思います。

 私も,松本先生の域に近づけるよう,努力していきたいと存じます。私の論文を読まれたという某先生から,「いかにも松本先生のお弟子さんらしい論文」という感想のお便りをいただいたことがあります。とてもうれしい思いがしました。今後も,このような評価をいただけるような仕事ができたら,と思っております。

2011年12月22日木曜日

都内49市区のジニ係数②

前回の続きです。東京都内の49市区のジニ係数を明らかにしようとしています。六本木ヒルズのある港区のジニ係数は0.406でした。社会が不安定化する恐れのある0.4を超えています。

 では,他の市区はどうなのでしょう。下の地図は,ジニ係数の値に基づいて,それぞれの地域を塗り分けたものです。0.02の区分で,色を違えています。各市区のジニ係数の算出に必要な,年収別世帯数のデータは,総務省『住宅土地統計調査』の2008年版から得ています。ジニ係数の計算の仕方は,前回の記事を参照ください。


 0.4を超える地域は,港区のほかに13あります。上位5位は,新宿区(0.435),千代田区(0.420),北区(0.419),杉並区(0.415),小金井市(0.409),です。港区は9位です。すごいですね。東京都内でみると,住民の富の格差が大きい地域が結構あります。

 なお,49市区のジニ係数は,各々の平均年収の水準と関連しています。上記の総務省の資料から,各地域の住民の平均年収額を出し,ジニ係数との相関係数をとってみると,0.306となります。5%水準で有意な相関です。

 富が多い地域ほど,内部の格差も大きい,という傾向です。これはいかがなものでしょう。住民の所得水準が高い地域は,それだけ税収も多いのですから,富の再分配政策により,内部の格差の是正を図る余地もあるかと思います。

 あと一点,検討したいのは,各地域のジニ係数と治安との関連です。先にも記しましたが,ジニ係数が0.4を超えると,社会が不安定化する恐れがあり,特段の事情がない限り,格差の是正を必要とする,という危険信号と読めるそうです。

 総務省『統計でみる市区町村のすがた2011』には,2009年の都内23区の犯罪認知件数が掲載されています。これを同年の各区の人口で除せば,犯罪発生率を計算することができます。この指標と,ここで明らかにしたジニ係数の相関係数を出すと0.416となります。5%水準で有意です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001032195&cycode=0

 格差が大きい地域ほど,犯罪発生率が高い(治安が悪い),という傾向があります。もっとも,ここでいう犯罪率は発生地主義のものであること,千代田区の犯罪率が群を抜いて高いことを割り引いて考えなくてはいけませんが,看過できることではありますまい。

 格差の拡大は,地域の社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)を壊す,という指摘もあります。その経路については,稲葉陽二教授の『ソーシャル・キャピタル入門』(中公新書,2011年)をお読みになると,よく分かると思います。
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2011/11/102138.html

 ついでですが,西の大都市の大阪のジニ係数マップも作ってみました。塗り分けの区分は,東京と同じにしています。


 東京と比べると,全体的に色は薄くなっています。大阪の場合,ジニ係数が0.4を超えるのは4地域だけです。しかし,最高の値がズバ抜けています。最も高い河南町のジニ係数は0.501です。東京の新宿区以上です。私は,大阪については土地勘がありませんので,コメントは控えさせていただきます。

2011年12月20日火曜日

都内49市区のジニ係数①

橋本健二教授の『階級都市-格差が街を侵食する-』(ちくま新書,2011年)を読んでいます。階級都市とは,階級によって分断された都市のことです。

 東京都内の「山の手」地域と「下町」地域では,住民の階層構成や所得水準にかなりの差があることが明らかにされています。こうした基底的特性に加えて,生活様式や文化までもが大きく異なるのだそうです。東京は,階層による地域の棲み分けがはっきりしているという印象を持っていましたが,本書の統計データは,こうした印象を確信に変えてくれます。

 この本は,無味乾燥な統計データを平面的に並べるだけではなく,過去の文学作品や筆者自身のフィールドワークの資料などもふんだんに使って,格差の様相を立体的に伝えてくれる構成になっています。写真や地図といったビジュアル資料も盛りだくさんです。フィールドワークの後には,オススメの居酒屋に連れて行ってくれるサービスもついています。とてもよい本です。一読をお勧めいたします。
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480066367/

 この本からはいろいろな感銘を受けたのですが,とくに「教えられた」と思ったのは,格差を検討するにあたっては,地域間の格差に加えて,地域内の格差もみる必要がある,という指摘です(143頁)。たとえば,都内の市区間で所得水準が大きく異なるのはよく知られていますが,それぞれの市区の内部の差はどうか,という点にも目配りすることが求められます。

 六本木ヒルズがある港区は,世界レベルの「超」がつく富裕層と,土着の住民が同居している地域です。こういう地域では,住民の富の差はさぞ大きいことでしょう。異なる階層の混住は,他の地域でも進行しています。下町では,廃業した工場の跡地に高層マンションが建てられ,都心で働くホワイトカラー層がそこに住みついています。結果,水上の杭のごとく,木造家屋の群から高層マンションが頭を出すという,やや珍妙な光景が至る所でみられるのだそうです。

 異なる階層が混住することは,悪いことではありません。橋本教授もいわれているように,地域住民の階層構成は,全体社会の縮図に近いほうがよいでしょう。多様な価値観(考え方)を吸収する機会が増えるという意味で,子どもの育ちの上からも望ましいことといえます。

 しかし,それは,異なる階層の人々が地域生活を共にし,交流する機会が十分備わっている,という条件においてです。新しく入ってきた富裕層が,高層マンションという要塞に籠りっきりで,土着の住民と交流しない,それどころか彼らを見下す,という状況はよろしくありません。このような形の混住は,異なる階層の間に「敵対心」しかもたらさないでしょう。

 悲しいかな,目下進行しつつある混住は,このような「分離混住」とでもいうべき形のものが多いように思えます。地域住民を結びつける社会教育センターとしての公民館は廃れていますし,「社長さんもボクらも」裸になって共に汗を流す銭湯も,多くの地域から姿を消しています。

 こうみると,人々の身近な生活圏の内部の格差を観察する必要がある,という指摘も納得です。格差の規模を測る代表的な統計指標はジニ係数です。私は,この測度を,東京都内49市区について計算することにしました。

 総務省『住宅・土地統計調査』から,年収の世帯数分布を,細かい市町村別に知ることができます。最新の2008年調査の結果を使って,六本木ヒルズのある港区のジニ係数を出してみましょう。下表は,計算のための基礎データです。年収が不明の世帯は,計算から除外します。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001028768


 さすがとでもいいましょうか,年収1,000万から1,500万の層が13,990世帯で最も多くなっています。階級値の考え方に依拠して,この層に属する世帯の年収は,一律に1,250万円とみなしましょう。1,000万と1,500万の中間をとった値です。富量は,階級値に世帯数を乗じた値です。それぞれの階層が受け取った富の総量にあたります。

 真ん中の相対度数の欄をご覧ください。世帯数では全体の11%しか占めない,1,500万円以上の最富裕層が,全富量の31%もせしめています。逆に,貧困層はどうかというと,年収400万円未満の層は,世帯数では31%を占めますが,受け取った富量は全体の10%に過ぎません(累積相対度数の欄を参照)。

 予想されることではありますが,港区では,住民の富の差はかなり大きいようです。では,右端の累積相対度数を用いて,ジニ係数を計算しましょう。下図は,横軸に世帯の累積相対度数,縦軸に富量のそれをとった座標上に,12の所得階層を位置づけて曲線でつないだものです。この曲線を,ローレンツ曲線といいます。


 われわれが求めようとしているジニ係数は,このローレンツ曲線と対角線とで囲まれた,弓なりの図形の面積を2倍した値です。図の赤色の面積を求めて,それを2倍すればよいことになります。*詳しい計算の仕方は,7月11日の記事を参照ください。

 図の赤色の面積は0.203です。よって,港区のジニ係数は0.406となります。一般に,ジニ係数が0.4を超えると,社会が不安定化する恐れがあり,特段の事情がない限り,格差の是正を要するという,危険信号と読めるそうです。この区のジニ係数は,この危険水準に達しています。

 他の市区の計算結果も紹介したいのですが,長くなりますので,この辺りで中断します。次回は,都内49市区をジニ係数で塗り分けた地図をご覧に入れようと思います。

2011年12月19日月曜日

私の仕事場?

普通,ブログといったら写真などが多くアップされているものですが,このブログは,薄気味悪い統計図ばかり・・・。これでは芸がありませんよね。ブログ開設から1年経ったことですし,これからは,写真も少しはアップしていきたいと思います。

 今日,聖蹟桜ヶ丘駅のビッグカメラで,デジカメを買ってきました。不慣れな手つきで,私の部屋(兼仕事場)の写真を撮ってみました。まずは,愛用のパソコンの写真です。


 ソニーのバイオの薄型タイプです。場所をとらないので,気にいっています。次に,書棚の一部です。


 真ん中の手の届きやすい部分を写しました。古本屋でゲットした,教育社会学関係の書物が多いです。しまった。『コクリコ坂から』のビジュアルブックが上に乗っている。まあ,愛嬌ということで。


 あと一枚,大好きな『夕焼けの詩(三丁目の夕日)』のコミックの全巻です。そろそろ収まりきらなくなってきたので,棚を新設しなければいけません。

 初回なので,この辺で。これから,ブログの内容にバラエティーを持たせていきたいと存じます。

2011年12月17日土曜日

貧困と学力の相関

前回は,小・中学生のうち,生活保護受給者がどれほどいるかを都道府県別に明らかにしました。今回は,この生活保護受給者率と,子どもの学力水準がどう相関しているかを分析してみようと思います。

 私は,東京都内49市区のデータを使って,失業率や一人親世帯率といった生活不安指標と,児童・生徒の学力テストの平均正答率の相関関係を調べたことがあります(「地域の社会経済特性による子どもの学力の推計」『教育社会学研究』第82集,2008年)。そこでは,大変強い負の相関が観察されました。これは,東京という局所のデータの知見ですが,分析の次元をより引き上げた県別のデータでも,このような相関がみられるかどうか,興味が持たれます。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006793455

 各県の子どもの学力指標としては,文科省『全国学力・学習状況調査』(2010年度)の各科目の平均正答率(%)を使います。公立小学校6年生の4科目(国語A,国語B,算数A,算数B),公立中学校3年生の4科目(国語A,国語B,数学A,数学B)の平均正答率です。生活保護受給者率の詳細は,前回の記事を参照ください。

 6月12日の記事でみたように,2010年の全国学力調査の正答率水準は,県によってかなり違っています。とくに地域差が大きいのは,中学校3年生の数学Bです。まずは,この科目の平均正答率と,中学生の生活保護受給者率の相関をみてみましょう。下図に,相関図を示します。


 回帰直線は右下がりです。生活保護を受給している生徒の比率が高い県ほど,数学Bの正答率が低いという,負の相関が見受けられます。相関係数は-0.4458であり,1%水準で有意な相関と判断されます。

 平均正答率が高い福井と富山は,生活保護率が全国で最も低い水準にあります。北陸の県は,全国学力調査の結果で常に上位を占めるのですが,その偉業は,子どもの貧困率が低いという,社会的な条件による部分もあるでしょう。

 一方,橋下徹・元知事をして「このザマはなんだ!」と嘆かせしめている大阪は,生活保護を受けている生徒の比率が全国で2位です。学力テストの地域別の結果は,各地域の教員や教育関係者のがんばり具合のみを反映したものではありません。結果の解読に際しては,それぞれの地域の社会的な条件をも考慮することが求められます。

 続いて,他の科目の正答率との相関も出してみましょう。下表は,小学校6年生の4科目,中学校3年生の4科目の平均正答率との相関係数をまとめたものです。


 小学校6年生の学力は,子どもの貧困度と無相関ですが,中学校3年生の学力は,それによってかなり強く規定されています。中学校3年生の国語Bの正答率は,中学生の生活保護受給者率と-0.5567という相関です。国語Bは,国語の応用的・活用的な問題を出題する科目ですが,こうした言語能力は,子どもの家庭環境に規定される部分が大きいものと思われます。

 中学校になると,教科の内容が高度化するので,塾通いをしているか否かの差も響いてくることでしょう。上級学年になるほど,塾通いが叶わない貧困家庭の子どもが不利益を被る度合いは,増してくるのかもしれません。

 このような問題は当局も認識しているところであり,生活保護世帯の子どもの通塾費用を公的に援助しようという動きもあります。貧困の世代間連鎖を断ち切ろうという意図には敬意を表しますが,「塾通い=ノーマル,塾通いをしない=アブ・ノーマル」というような構図が当たり前になるというのは,いかがなものかという気もします。

 それはさておき,各県の子どもの生活保護受給率は,子どもの自意識や逸脱行動の発生頻度とも相関しています。6月21日の記事では,子どもの自尊心の多寡を県別に明らかにしたのですが,公立中学校3年生の自尊心の程度と,中学生の生活保護受給者率は-0.5119という相関関係にあります。また,中学生の生活保護受給者率は,11月15日の記事でみた中学生の非行者出現率と0.5225という相関関係にあります。小学生の場合,このような相関は観察されませんでした。

 中学校段階では,貧困という生活状況は,子どもの教育達成(achivement)を阻害するのみならず,彼らの自意識(自我)を傷つけ,引いては逸脱行動を促進させる要因となることがうかがわれます。

 中学生は,自我がだんだんと固まってくる思春期の只中にあります。周囲と自己を比べたりすることも多くなります。綿密なフォローが求められるところです。

 今回は,学力という教育達成の面と貧困の関連をみましたが,貧困は,子どもの「生」のあらゆる面と相関していることでしょう。文科省の『全国学力・学習状況調査』から,子どもの生活習慣,学校充実度,社会関心,および道徳性など,多様な側面を測る指標を県別に出すことができます。生活保護率とこれらの指標の相関分析も,手がけてみたい課題です。

2011年12月15日木曜日

子どもの貧困

ここ数年,生活保護受給者の数がうなぎ昇りに増えています。そうである以上,生活保護の対象となっている子どもの数も増加していることと思います。

 生活保護を受けている子どもは,どれほどいるのでしょうか。人口全体の生活保護人員の数は,新聞などでよく目にするのですが,年齢別の人員数は,こうしたメディアでは報じられていないようです。年齢別の数字は当局が公表していないのかと思っていましたが,最近,厚労省の『被保護者全国一斉調査』において,それが明らかにされていることを知りました。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/74-16.html

 当該資料の2009年版によると,同年7月1日時点における,6~11歳の生活保護人員数は84,139人だそうです。この年齢は小学校の就学年齢ですが,文科省の『学校基本調査』から分かる,同年5月1日時点の小学生数は7,063,606人です。よって,小学生の生活保護受給者率は,11.9‰(≒1.2%)と算出されます。同じ資料から,12~14歳の生活保護受給者数を中学生数で除した比率を出すと,15.4‰となります。生活保護を受けている子どもの比率は,小学生よりも中学生で高いようです。

 この指標の値は,年々上昇してきています。下図は,上記のやり方で計算した,小学生と中学生の生活保護受給率の推移をとったものです。


 小学生,中学生とも,生活保護受給者の比率が右上がりに増えてきています。小学生の場合,この10年間で1.5倍の伸びです(7.9‰→11.9‰)。中学生の伸び率はもっと大きく,1.8倍です(8.7‰→15.4‰)。格差社会化の進行が,子どもの世界に影を落としていることが知られます。

 次に,地域別の値を出してみましょう。上記の厚労省資料には,47都道府県について,年齢別の生活保護人員数が掲載されています。これを,文科省の『学校基本調査』に載っている,県別の小・中学生の数で除せば,各県の子どもの生活保護受給者率を明らかにすることが可能です。

 2009年のデータを使って,小学生と中学生の生活保護受給者率を都道府県別に出してきました。下の表は,その一覧です。最大値には黄色,最小値には青色のマークを付しています。


 生活保護を受けている子どもの比率は,地域によってかなり違います。北海道では,中学生の25人に1人が生活保護受給者ですが,富山では,1,429人に1人です。ものすごい差です。

 これは両端ですが,全体的にみると,都市的な県で率が高い,という印象を受けます。東京と大阪は,小・中学生の率とも,全国値を凌駕しています。しかし,青森や高知のように,地方県で高いケースも見受けられますので,そればかりを強調することもできないようです。

 表の数字の羅列からは傾向をつかみにくいので,都道府県差が大きい中学生の生活保護率を地図化してみました。下図は,5‰ごとの区分で,それぞれの県を塗り分けたものです。


 生活保護率が20‰(2%)を超えるのは,北海道,青森,京都,大阪,兵庫,高知,福岡,そして長崎です。近畿の3府県が黒く染まっています。これと対照的なのが,中部や北陸の諸県です。真っ白です。

 このような差は,何に由来するのでしょう。生活保護の認定基準が地域によって異なるというような,制度的な事情もあるかと思いますが,私は,まぎれもなく社会的な要因の影響を受けていると思います。私は,『47都道府県の青年たち』(武蔵野大学出版会,2010年)において,25~34歳の青年層の失業率を県別に出したことがあるのですが(2005年データ),この指標の地図と上記の地図はかなり似ています。中部・北陸のゾーンが真っ白であるのもそっくりです。

 この失業率は,ここで明らかにした小学生の生活保護率と0.598,中学生の生活保護率と0.631という相関関係にあります。(親世代の)失業率が高い県ほど,子どもの生活保護率が高いという傾向が明瞭です。

 子どもの状況は,社会の状況をストレートに反映するのだな,と思います。次なる関心は,こうした社会的要因の所産である生活保護率の高低によって,子どもの育ちの様相がどう変異するか,ということです。次回は,生活保護率と学力指標の相関分析をしてみようと存じます。

2011年12月13日火曜日

年齢別の死因構成

悪性新生物(がん),心疾患,および脳血管疾患を総称して,3大生活習慣病といいます。以前は成人病といっていたらしいですが,生活習慣の乱れに起因する面が大きいことにかんがみ,生活習慣病という呼称になっているようです。

 これら3つの病は,かなり猛威を振っているようです。2010年の厚労省『人口動態統計』によると,同年の死亡者はおよそ120万人ですが,このうち,悪性新生物によるものが29.5%,心疾患によるものが15.8%,脳血管疾患によるものが10.3%,を占めています。つまり,これらの3大生活習慣病だけで,全死因の6割弱が占有されていることになります。恐るべし。

 これらは上位3位ですが,10位までの死因の構成比を出すと,下表のようになります。2010年の統計です。


 自然死(老衰)は5位ですが,構成比でいうと,全体の4%しか占めません。病や外因によることなく,自然に逝きたいと願う人が多いと思いますが,残念ながら,その確率はかなり低いようです。

 なお,今問題になっている自殺(suicide)は7位であり,全体の2.5%です。死亡者40人に1人。私は,これまで社会病理学の立場から,自殺の動向に注目してきましたが,全死因に占めるウェイトはさほど大きくはないようです。

 ところで,死因の構成は,年齢別にみるとかなり違います。上表に掲げた,上位10位の死因の構成比を年齢ごとに出し,面グラフで表現してみました。厚労省『人口動態統計』2010年版のデータです。総務省の政府統計の総合窓口(e-Stat)から,当局が保管している詳細な原統計(冊子媒体では非公表)にアクセス可能です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL02010101.do


 いかがでしょうか。3大生活習慣病(青,赤,緑)の比重が大きいのは,おおよそ60代です。ピークの63歳では,全死因の69.3%がこれらの病によって占められています。多くの人が定年を迎える頃ですが,職をリタイヤし,生活環境がガラリと変わることで,生活習慣が大幅に乱れてしまう,ということでしょうか。

 次に注目すべきは,オレンジ色の「不慮の事故」です。子どもでは,この死因の比重が高くなっています。6歳の児童では,この死因の比率が33.6%にも達します。交通事故による死亡も多いことでしょう。注意をしたいものです。

 あと一点,特記すべきなのは自殺です。ご覧ください。黒色の膿(うみ)が,20代から30代前半の辺りに広がっています。22~24歳では,全死因の半分以上が自殺となっています。

 22~24歳といえば,ちょうど,学校から仕事への移行(transition from school to work)を期待される年齢です。ですが,このご時世です。それが一筋縄ではいかないことは,誰もが知っています。3月8日の記事では,就職失敗を苦に,自らを殺める大学生が増えていることを明らかにしました。上記の膿は,時代の病理を表現したものといえましょう。

 上記のような図柄が,近年に固有のものであるかどうかが気になります。過去との比較をしようとすると,5歳刻みのラフ・データを使わざるを得ないのですが,やってみる価値はあると思います。社会数学の授業の,冬休み中の課題としていいかも。いや,年明け早々から,物騒な死因統計をいじらせるなんて,やっぱり酷か。

2011年12月11日日曜日

生活保護受給者の自殺率

日本国憲法第25条第1項は,「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めています。いわゆる生存権です。

 この権利を保障するための最後のセーフティネットとして,生活保護制度があります。最近の不況のなか,生活保護受給者が大幅に増え,終戦直後の混乱期の水準に達しつつあるそうです。2009年の生活保護受給者は約167万人です(厚労省「被保護者全国一斉調査」)。国民の1.3%が生活保護を受けていることになります。

 この生活保護に関して,気になる新聞記事を目にしました。生活保護受給者の自殺率は,人口全体の自殺率に比して格段に高いのだそうです。むーん。この制度がうまく機能していないか,うまく機能するのを妨げる社会的条件のようなものがあるように思われます。
http://www.asahi.com/national/update/0713/TKY201107120864.html

 当局の原統計にあたり,詳細なデータをみてみましょう。厚労省の社会保障審議会生活保護基準部会の資料によると,2009年の生活保護受給者の自殺者数は1,045人です(下記サイトの参考資料2)。先に示したように,この年の生活保護受給者は約167万人ですから,自殺率は10万人あたり62.4人となります。同年の全人口の自殺率(25.8)の2.4倍です。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001ifbg.html

 なお,この差は年齢層によって大きく違っています。上記の厚労省資料から,生活保護受給者の自殺率を年齢層別に知ることができます。10歳刻みの年齢層ごとに,生活保護受給者と全人口の自殺率を比較すると,以下のようになりました。


 人口全体では,自殺率は高齢層ほど高いのですが,生活保護受給者の場合,それが真逆になっています。その結果,aとbの差は若年層ほど大きく,20代では前者は後者の6.7倍,30代では5.4倍にもなります。

 生活保護受給者の(相対的な)困難は,若年層ほど際立っています。なぜでしょうか。いい若いモンが生活保護なんぞ受けやがって,というような非難があるのでしょうか。あるいは,周囲がバリバリ働いてガシガシ稼いでいるのに自分は・・・というような思いに駆られてしまうのでしょうか。

 いろいろあるでしょうが,生活保護受給者が置かれた位置を考えてみると,大局的な理解ができるかと思います。20代や30代の場合,生活保護受給者というのは,かなりのマイノリティーです。人口あたりの出現率にすると,20代では3.0‰,30代では6.1‰です。それだけに,彼らが被る社会的圧力は大きなものとなるでしょう。「周囲から自分だけが取り残された」という,相対的剥奪(relative deprivated)の感情を抱く可能性も高くなると推測されます。

 一方,生活保護受給者の量が多い高齢層では,言葉が悪いですが,「同士」がたくさんいるわけです。それ故,先ほど述べたような困難を経験する度合いは,若年層に比べてかなり小さいものと思われます。

 事実,生活保護受給者の量的規模と自殺率の関係をみると,おおよそ反比例の傾向があります。下図は,横軸に人口あたりの生活保護受給者の比率,縦軸に生活保護受給者の自殺率をとった座標上に,それぞれの年齢層を位置づけたものです。2009年のデータを使って作図しました。


 生活保護受給者がマイノリティーである年齢層ほど,自殺率が高くなっています。若年の生活保護受給者が被る諸々の困難は,このような基底条件に由来する面もあるでしょう。

 ところで,わが国では,生活保護受給者の出現率が年齢によって大きく異なるのですが,このような国が他にあるのでしょうか。6月26日の記事でみたように,わが国は,自らに責を帰す内向性の強い国民性を擁しています。NHKクローズアップ現代取材班『助けてと言えない-いま30代に何が』(文藝春秋,2010年)のタイトルが示すように,若者は「助けて」と言いません。生活困窮に陥っても,公的な支援を受けようとせず,ネットカフェ難民やホームレスになったりします。

 フランスでは,若者は胸を張って生活保護をガンガン受けるといいますが,この国では,今回みたような統計的事実は,おそらく観察されないことでしょう。

 現在,性の違いに基づく固定的な役割観念(Gender)を打破しようという取組が急速に進んでいます。今後は,性(ヨコ軸)に加えて年齢(タテ軸)をも組み込んだ枠組みにおいて,このような取組が進展してほしいものです。

2011年12月9日金曜日

585大学の卒業率

レジャーランドと揶揄されることの多い日本の大学ですが,最近,そのような状況に喝(カツ)を入れようという動きが高まっています。

 2008年12月に,中央教育審議会は,「学士課程教育の構築に向けて」と題する答申を出しました。その中で,「学生の学習時間が短く,授業時間外の学修を含めて45時間で1単位とする考え方が徹底されていない」,「成績評価が教員の裁量に依存しており,組織的な取組が弱い」という状況認識が示されています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1217067.htm

 まず1番目の指摘ですが,卒業に要する単位数が130単位の大学の場合,学生は4年間で,45×130=5,850時間勉強しなければならないことになります(授業時間含む)。4年間は1,460日ですから,1日あたり約4時間です。休日も含めて,毎日欠かさず4時間も勉強している学生さんにお目にかかることは,まずありません。

 2番目の指摘も納得です。学生に拝み倒された教員が,情に流されて単位を与えてしまうなんてことは,よくあることです。「就職決まってるんです。どうかどうか・・・」などと哀願されると,ついクラッときてしまいます。分かるなあ。

 しかるに,大学側も手をこまねいているわけではありません。授業時間外でも学生が勉強するようにガンガン課題を出す,出席管理を教務部が行い,ロクに出ていない学生に教員が情で単位を与えないようにする・・・。私が非常勤をしている大学でも,このような取組が行われています。

 また,最近注目されている取組として,GPA制度というものがあります。評定(A,B,C・・・)に応じたポイントの平均点(Grade Point Average)が一定水準に達していないと 卒業させない,というものです。つまり,ただ所定の単位数を取得するだけではダメで,A評価の単位もある程度は揃える必要があります。

 私が非常勤として長く勤めている武蔵野大学では,このGPA制度が導入されています。かなり厳格に適用されているようで,規定の値に0.1足りないだけで卒業を認められない学生さんも結構いると聞きます。そういえば,私が今年度の後期に担当している授業に,この制度に引っかかって留年している学生さんが2人来ています。聞けば,後期は私の授業しか取っていないとのこと。舞田の成績評定は甘いから,GPAを上げる(維持する)にはもってこい,とでも思われているのかしらん。

 それはさておき,わが国の大学は,入ればトコロテン式に卒業できるというレジャーランド状態を抜け出る方向に動いています。ここで興味が持たれるのは,大学の卒業率という指標です。高等学校以下では,卒業率はほぼ100%なのでしょうが,大学ではどうなのでしょう。

 読売新聞教育取材班『大学の実力2012』(中央公論新社,2011年)の巻末資料から,全国の各大学の卒業率を知ることができます。この資料でいう卒業率とは,2011年3月の卒業者数を,2007年4月の入学者数で除した値だそうです(6年制大学の場合,分母は2005年4月入学者)。つまり,入学者のどれほどが,最短修業年限で卒業にこぎつけたかを表す指標です。

 しかし,この考え方だと,卒業に至らなかった者の中に退学者も含まれてしまいます。ここでの関心は,卒業認定がどれほど厳格かを測ることですので,分母から退学者を除いたほうがベターかと思います。当該の大学を卒業することを目指して勉強した者のうち,どれほどが最短修業年限で卒業できたか,という意味での卒業率を出してみましょう。

 武蔵野大学の場合,上記の資料に掲載されている,2007年4月入学生の卒業率は83.6%です。同集団の最短修業年限間の退学率は8.8%です。これらの数字から,求めようとしている卒業率は,83.6/(100.0-8.8)=91.7%となります。

 上記の資料から,全国の585大学について,この意味での卒業率を出すことが可能です。585大学の平均値は89.0%ですが,大学ごとにみると多様です。分布をとってみましょう。国公私の比較をするため,百分率の分布を出しています。


 まず右端の総数からみると,卒業率が90%を超える大学が全体のほぼ半数(48.2%)を占めています。でも国立はそうではないようで,卒業率90%以上の大学は2割ほどです。その分,低率の層が比較的多く,卒業率80%未満の大学が1割を超えます。

 卒業率の平均値を設置主体別に出すと,国立が85.3%,公立が88.6%,私立が89.7%,です。国立で最も低くなっています。国立では,医系や理系の比重が高いのですが,そのためでしょうか。専攻によって卒業認定の基準に差があるかのは分かりませんが,卒業率が低い大学の具体的な顔ぶれをみたいところです。下表は,卒業率が4分の3(75%)に満たない21大学の一覧です。


 国立5校,公立3校,そして私立が13校という構成です。卒業率が全国で最も低いのは,秋田の国際教養大学で41.6%です。同大学では,5人中3人が,最短年限で卒業できないことを意味します。その次が,東京外国語大学で44.4%です。

 全体的にみると,国際系や理系の大学が多く名を連ねています。外語大で卒業率が低いのは,留学する学生が多いといった理由があるでしょう。8月11日の記事では,最短年限を超えて在学している学生の比率(留年率)が最も高いのは,外国語学部であることを明らかにしました。

 なお,伝統ある大学が多いというわけではなく,歴史の浅い大学も結構含まれています。トップの国際教養大学は,2004年にできた新しい大学です。新興大学は,開学当初から,時代の潮流に乗ることができるという利点があるのも事実です。

 しかし,国際教養大学の卒業率の低さには,目をみはるものがあります。勉学を怠けて留年する学生が多いためではなく,卒業認定の基準を厳しくしているが故であることは,学長自らが語っています。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/campus/jitsuryoku/20091207-OYT8T00451.htm

 「力をつけた学生だけ卒業させている」,「4年で卒業という概念を捨ててほしい」という,刺激的なコメントが紹介されています。この大学は,地方に立地するにもかかわらず,全国から学生を集めていると聞きます。今後,こうした先進例に多くの大学が追随するならば,状況は大きく変わっていくことでしょう。

 大学の卒業率は,その気になれば,長期的な時系列推移をたどったり,国際比較を行ったりすることもできます。機会をみつけて,時代軸と空間軸で,わが国の現状を相対化する作業を手掛けてみようと思っております。

2011年12月7日水曜日

597大学の初年次退学率

読売新聞教育取材班は,毎年,全国の大学を対象に,入試状況や退学率などを調べる大規模調査を実施しています。調査の内容は,年々充実してきており,最新の2011年調査からは,各大学の初年次退学率を知ることができます。

 高校の中退率を学年別にみると第1学年がダントツで高いのですが,大学についても,同じことがいえるのではないでしょうか。無目的に何となく入ったが,専攻の勉学内容にどうしても興味が持てない,高校までの基礎ができておらず,授業についていけない・・・。事情はいくらでも想起できます。

 大学全入時代といわれる今日,入学早々,不適応を起こしてしまう輩も少なくないことでしょう。このような事態を防ぐため,補習授業の実施や長欠傾向の学生のフォローなど,各大学でさまざまな取組がなされていると聞きます。

 さて,現在の大学の初年次退学率がどれほどかをみてみましょう。読売新聞教育取材班『大学の実力2012』(中央公論新社,2011年)の巻末資料から,全国597大学の初年次退学率を知ることができます。2010年4月入学生のうち,翌年3月までの間に,どれほどの者が退学したか(除籍になったか)を表す指標です。

 私が非常勤として勤務する武蔵野大学の場合,初年次退学率は3.1%です。597大学の平均値(2.6%)を上回っています。私は同大学で1年次配当の授業を持つことが多いのですが,途中から来なくなり,「アイツ,辞めましたよ」と聞かされた学生さんの顔を何人か思い出すことができます。残念なことですが。

 597大学の初年次退学率は,0.0%から18.3%まで,幅広く分布しています。度数分布をとると,下図のようです。国公私の組成が分かるようにしました。


 下の層ほど厚い,きれいなピラミッド型ができています。1%未満の大学が159校と,全体の4分の1ほどを占めています。色分けに注目すると,国公立大学は下層部に分布しています。国立は全て3%未満,公立は全て5%未満です。初年次退学率が5%を超える大学(86校)は,全て私立です。

 初年次退学率の平均値を出すと,国立が0.7%,公立が0.8%,私立が3.2%,となっています。国公立と私立の間に大きな溝がみられます。

 私立では,経営難を回避するために,なりふり構わず学生を入れることに躍起になっている大学も多いと思います。学力検査を課さず,ほとんどをAO(All OK)入試のような一芸入試で入れる,というように。その結果,入学後の勉学についていけなくて中退・・・。こういうことが多いのではないかしらん。

 上記の文献の統計から,2011年入学生のうち,一般入試を経由していない者の比率を各大学について出すことができます。武蔵野大学の場合,入学者総数は1,493人,うち一般入試経由者は582人ですから,一般入試非経由者の比率は,(1,493-582)/1,493=61.0%です。

 先ほど初年次退学率を明らかにした597大学のうち,この指標の値を出すことができるのは552大学です。私は,この552大学のデータを使って,一般入試非経由率と初年次中退率の相関関係を出してみました。


 データの数が多いので撹乱が結構ありますが,一般入試非経由率(X)が高い大学ほど,初年次中退率(Y)が高い傾向が看取されます。相関係数は0.598です。552というデータ数ですから,明らかに有意な相関と判断されます。

 赤色のドットは武蔵野大学ですが,ちょうど回帰直線の上に乗っかっています。Yの値が,Xの値から期待される値に近い,ということです。

 上記の相関は,X→Yという因果関係的な面を強く持っているのではないでしょうか。学力面での不適応という,常識的な解釈をあてがうだけで十分でしょう。

 なお,一般入試非経由率が同じくらいであっても,初年次退学率が大きく異なるケースが多々あります。この差は,初年次の学生に対し,大学側がどれほど綿密にフォローを行っているかの違いによる部分が大きいと思われます。

 上記の読売新聞調査から,初年次の学生に対する補習の実施頻度を,大学別に知ることができます。この変数と,初年次退学率の相関関係も興味深いところです。この分析にあたっては,入試偏差値(ランク)が同じくらいの大学のデータを使う必要があります。ランク指標の入力に時間がかかりますので,しばしお待ちください。

2011年12月5日月曜日

配偶関係別の死亡率

お恥ずかしいのですが,最近,すっかり太ってしまいました。後期は週4日出講しているのですが,それ以外は自宅にこもって本を読んだり,こうしてブログなどを書いたりしている日々です。明らかな運動不足であると自覚しています。

 これではいけないと,駅まで自転車通勤にしようかと思案しています。でも,自宅は丘の上にあるので,行きはよいにしても,帰りはキツいなあ。いや,こんなことは言ってられますまい。春や夏になったら,ぽっこりお腹を上着でごまかすこともできなくなります。がんばらねば。

 しかしまあ,自分はハチャメチャな生活をしているなあ,と思います。食事のメニューは偏る,毎晩の飲酒,昼夜逆転,そして運動不足・・・。やはり独身だからでしょうか。同居者がいれば,マズイところはマズイと指摘してくれるでしょうが,自分一人だと,もうやりたい放題というわけです。

 肥満だけならまだいいですが,心臓病や脳梗塞といった,生活習慣病にかかりはしないかと,不安になることもしばしばあります。

 そういえば,今年の8月29日の朝日新聞に,「独身者の寿命は既婚者より10年短い」と題する記事が載っていました。
http://www.asahi.com/international/jinmin/TKY201108290291.html

 アメリカのルイスヴィル大学の研究グループが,過去の先行研究の知見を整理分析した結果によると,独身男性の寿命は既婚男性よりも8~17年短く,独身男性の死亡率は結婚している人より32%高いのだそうです。

 この点について,同大学の研究者は,「既婚者が得ることのできる家庭や社会などからのサポートが独身者より多いことと関係している。例えば結婚すると,配偶者同士が互いの食習慣に気を配ったり,体の調子が悪いと病院にいくよう勧めたりするようになる。それが健康をないがしろにせず,結婚後の生活をより健康的にしている」とコメントしています。

 そうだろうなあ,と思います。さて,わが国ではどうなのでしょう。厚労省の『人口動態統計』には,死亡者の数が配偶関係別に掲載されています。2010年版の資料によると,同年中における,25~44歳の未婚男性の死亡者は9,722人だそうです。この年の『国勢調査』から分かる,同年齢層の未婚男性の数(ベース)はおよそ745万人です。

 よって,この年齢の未婚男性の死亡率は,10万人あたり130.6人となります。同じ年齢の有配偶男性の死亡率は,同じく10万人あたりで55.3人です。前者は後者の倍以上です。上記の記事でいわれている差よりも,はるかに大きな差がみられます。恐ろしや。

 これは全死因の死亡率ですが,死因ごとにみるとどうでしょうか。私は,①悪性新生物(がん),②心疾患,③脳血管疾患,④糖尿病,および⑤自殺による死亡率が,配偶関係別にみてどれほど異なるのかを調べました(①~③は,3大生活習慣病といわれるものです)。分子は厚労省『人口動態統計』,分母は総務省『国勢調査』から得ました。2010年の25~44歳男性の統計です。


 どの死因の死亡率も,配偶関係によって大きく異なっています。糖尿病をのぞいて,有配偶<未婚<死別<離別,という構造になっています。配偶者がいることが,各種の疾病による死亡の抑止因になっていることが知られます。孤立が人をして自殺へと傾斜させることは,7月22日の記事でも指摘しました。

 上記の表では,どの死因において,配偶関係別の差が大きいのかを読み取りにくいので,有配偶の死亡率を1.0とした指数を出してみましょう。下図は,それをグラフにしたものです。


 図によると,配偶関係状態での差が大きいのは,糖尿病による死亡率のようです。未婚は有配偶の6.4倍,死別は有配偶の20.8倍です。すごいですねえ。糖尿病は,食生活の乱れ(偏り)に起因する部分が大きいだけに,独り身の人間が罹患しやすいというのも,分かる気がします。私などは,危ないなあ。

 なお,女性の場合,配偶関係状態の差はこれほどまでに大きくはありません。上記のような差は,男性に固有のものであることを申し添えます。

 この統計をみて,がぜん,やる気が出てきました。現在時刻は5時45分。これから,出勤前の早朝散歩に行ってきます。

2011年12月3日土曜日

非常勤率と退学率の相関

前回は,2011年現在における,全国615大学の非常勤教員率を明らかにしました。非常勤教員率とは,非常勤講師や特任教授などの非常勤教員が,全教員に占める比率のことです。個々の大学ごとにみると,非常勤教員率が0%の大学もあれば,8割や9割を超える大学もあります。

 非常勤教員率の高低によって,大学教育の質(中身)がどう異なるかは,大変興味深い問題です。前回も書きましたが,この指標があまりに高いことは,部外者に教育を「丸投げ」している度合いが高いこととイコールですから,好ましいことではないでしょう。

 非常勤教員の多くは,本務校を持たない専業非常勤講師であると思われます。完全な買い手市場のもと,彼らは劣悪な労働条件で働くことを強いられています。不満を高じさせ,投げやりな態度で授業を行っている輩も少なくないのではないでしょうか。

 首都圏・関西圏大学非常勤講師組合は,4年に1度,大学非常勤講師の生活実態を調査しています。2007年度調査の自由記述をみると,次のような不満の念が綴られています。
http://www.hijokin.org/en2007/6.html

 「非常勤の給料がこれだけ安いというのは,実際には大学は教育に投資するつもりがないと言うことでしょう。まさか学生も,非常勤とはいえ大学教員が,サラリーマンの平均年収にも満たない収入で働いているとは思ってもみないでしょう。最近は専任の先生との給与格差を考えて,もっと質の低い授業を提供すべきかもしれないなどと,意地の悪いことを考えてしまいます (実際には学生を相手にすると,そんなことできませんが)」。

 「ある大学で一昨年,翌年からのコマ数を減らすと言われた。・・・コマ数減を言ってきた専任教員に,コマ数を減らされるのは困ると渋ったところ,『同意してもらえないのなら他に探すしかありませんね』と言われた。なんと配慮のない,専任であることの権力を振りかざした高慢な言い方であろう。大変な憤りを感じたが,生活に響くので仕方なく同意せざるを得なかった。数年間その大学で教えてきて,熱意を持っていろいろ努力してきたつもりであったが,非常勤なんて所詮,弱い立場だし,誰でも代わりがいる捨て駒と考えられているのだと実感した。それまでの自分の実績などまったく評価されないことが分かったため,モチベーションは大きく低下し,その大学での熱意は失われてしまった。学生に罪はないので,もちろん,授業は精一杯やるが,プラスアルファの情熱はないし,いろいろな面で割り切って考えるようになった」。

 安い賃金,単なる雇用の調整弁(捨て駒)として扱われることからくる疎外感・・・こうした状況から,すっかり教育への意欲を減退させた非常勤講師の姿が看取されます。

 上記の2人はまだ,学生のためにも手抜きはしまい,と自制することができています。しかし,このような自制心をも失くしてしまった非常勤講師もいることでしょう。もし,開講している授業の大半を非常勤講師に外注している大学で,この手の輩が多いとしたら,どういうことになるでしょうか。考えるだけでも,空恐ろしい思いがします。まさに「教育崩壊」です。

 こうみると,前回明らかにした各大学の非常勤教員率は,学生の退学率のような指標と相関しているのではないかと思われます。非常勤教員の比重が高い大学ほど,退学率が高いという,正の相関関係です。

 読売新聞教育取材班『大学の実力2012』(中央公論新社,2011年)の巻末資料には,各大学について,在学期間(4年)中の退学率が掲載されています。2007年4月入学者が,2011年3月までの間にどれほど退学したか(除籍になったか)を表す指標です。

 前回,非常勤教員率を明らかにした615大学のうち578大学について,上記の意味での退学率を知ることができます。私は,この578大学のデータを使って,非常勤教員率と退学率の相関関係を調べました。下図は,両指標の相関図です。


 横軸に非常勤教員率,縦軸に退学率をとった座標上に,578大学を位置づけています。データの数が多いので,明瞭な傾向ではありませんが,うっすらとした正の相関です。相関係数は0.166でした。578というデータ数を考慮した場合,1%水準で有意な相関と判断されます。

 非常勤教員率が高い大学ほど,学生の退学率が高いという傾向が,統計的に支持されます。むろん,これは相関関係であって,因果関係であると断定はできません。退学率と相関する要因は他にもあるでしょう。ですが,上図のような統計的事実が出てきたことは,看過できることではありますまい。

 専任教員の比重を減らし,授業の多くを非常勤教員に外注することは,人件費を下げるという,経営上の戦略としては有効でしょう。しかるに,そのことには,教育の質の低下,ひいては学生の退学率増加,という副作用が伴う可能性があることも,認識しておきたいところです。

 上記の散布図をよくみると,非常勤教員率が同じくらいの大学でも,退学率が大きく異なるケースが多々あります。この差は何に由来するのでしょうか。もしかすると,非常勤教員の待遇の有様が違っているのかもしれません。

 今日,大学教育の多くの部分は非常勤教員によって担われています。それ故,非常勤教員の待遇の有様と,大学のアウトプット指標の相関分析は,大変重要な課題であると存じます。

2011年12月1日木曜日

615大学の非常勤教員率

大学の教員には,当該の大学に正式に属する本務教員(専任教員)と,そうではない兼務教員(非常勤教員)という,2種類の人種がいます。いわゆる非常勤講師や特任教授などは,後者に属します。

 文科省『学校基本調査』(2011年度版)の速報結果によると,同年5月1日時点における大学の本務教員数は176,663人,兼務教員数は188,219人です。大学教員全体に占める兼務教員の比率は,51.6%となります。

 この指標の長期的な推移をたどると,1960年は27.2%,1970年は35.9%,1980年は39.0%,1990年は42.1%,2000年は47.7%,です。兼務教員の比率は上昇の一途をたどり,今日では半分を超えています。*これらの時系列データは,下記サイトの総括表9(学校種ごと)の統計から計算可能です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001015843&cycode=0

 賃金の安い兼務教員(以下,非常勤教員)の比重を増やすことで,人件費の抑制を図る大学が多くなっている,ということでしょう。少子化により,多くの大学が経営危機に瀕している状況を思えば,さもありなんです。

 ところで,上記の数字は大学全体のものですが,個々の大学ごとにみるとどうでしょうか。教員のほとんどが非常勤教員という大学もあれば,非常勤教員が1人たりともいない大学もあることでしょう。

 読売新聞教育取材班『大学の実力2012』(中央公論社,2011年)の巻末資料から,2011年現在における,全国615大学の非常勤教員率を明らかにすることができます。文科省の統計から分かる,この年の全国の大学数は780校ですから,母集団の78.8%がカバーされていることになります。

 サンプルの信憑度はまずまずといってよいでしょう。毎年,全国の大学を対象とした大規模調査を実施しておられる,読売新聞社のご努力に敬意を表します。
http://www.chuko.co.jp/tanko/2011/09/004281.html

 この資料には,各大学の専任教員数と,専任以外の教員(非常勤教員)数が記載されています。私が非常勤として勤務する武蔵野大学の場合,前者は196人,後者は418人です。よって,この大学の非常勤教員率は,418/(196+418)=68.1%となります。615大学の平均値(52.9%)をかなり上回っています。うーん。非常勤講師控室にあるレターケースの数の多さを思うと,そうだろうな,という気がします。

 615大学の非常勤教員率の最大値は91.7%,最小値は0.0%です。すごい差です。615大学の度数分布(10%刻み)をとると,下図のようになります。国公私の構成が分かるようにしてあります。


 60%台の階級が最頻値(Mode)となっています。非常勤教員の比率が7割を超える大学は89校ですが,そのうちの81校は私立大学です。8割以上の大学は全て私立です。逆に,国公立大学は,下の層のほうに分布しています。

 平均値を出すと,国立は39.0%,公立は45.8%,私立は56.4%,となります。非常勤教員率は,私立大学で高いことが知られます。このことに説明は要しないと存じます。

 次に,都市部の大学の地方の大学とで,分布がどう違うかをみてみます。私は,大学院修士課程は鹿児島大学だったのですが,知り合いの先生が次のようにおっしゃっていました。「非常勤をいくつも任されて困ってるんだよ。君がこっちにいるなら,じゃんじゃん回してあげるんだけどねえ」。

 地方の場合,非常勤を気軽に頼める研究者が少ない,ということがあるでしょう。それに,交通網が未発達なので,遠方から講師を呼びにくい,という事情もあると思います。先ほどの先生は,週に2回,鹿児島市内から新幹線で他校に出講するという,ハードスケジュールをこなされています。今はどうか分かりませんが。

 私は,615大学を首都圏(埼玉,千葉,東京,神奈川),近畿圏(京都,大阪,兵庫,奈良),および地方(その他)の3群に分け,非常勤教員率の度数分布をとってみました。


 予想通り,首都圏と近畿圏の大学が上層に分布しています。70%以上の大学は89校ですが,そのうちの63校が首都圏ないしは近畿圏の大学です。平均値を出すと,首都圏は59.7%,近畿圏は56.9%,地方は48.0%,となります。各大学の非常勤依存率の水準は,地域条件にも規定されているようです。

 非常勤教員を増やす増やさないは,各大学の自由ですが,非常勤教員率があまりに高くなることは,好ましいことではありますまい。この指標が8割や9割を超えるということは,自校の教育の大部分を部外者に「丸投げ」していることを意味します。

 各大学の非常勤教員率は,もしかすると,学生の中退率のような指標と相関しているかもしれません。さらには,就職率(進路未定率)のような,アウトプット指標とも関連しているのではないかしらん。

 次回は,今提起した一番目の問題に関連する実証データをご覧に入れようと思います。

2011年11月29日火曜日

不登校,いじめ相談

前回は,児童相談所に寄せられた相談のうち,養護相談の件数の統計を分析しました。今回は,不登校といじめに関連する相談の件数に注目しようと思います。統計の出所は,厚労省の『社会福祉行政業務報告』の各年次版です。

 まずは,これらの事由に関する相談の件数が,どう推移してきたのかをみてみましょう。当局の統計に,「不登校」や「いじめ」という言葉が出てきたのは,1990年代以降のことです。


 左欄は,件数の実数の推移をとったものです。予想に反してといいますか,双方の事由とも,相談件数が減少の一途をたどっています。20歳未満の子ども人口で除した比率でみても然りです。まあ,文科省の統計から分かる,不登校の児童・生徒の数や,いじめの認知件数も最近は減ってきていますので,殊更におかしい,ということはありません。

 近年,これらの問題行動への対応に本腰が入れられるようになっています。不登校については,学校外の教育施設で指導を受けた日数を,学校の指導要録上の出席日数としてカウントするなど,柔軟な対応がとられるようになっています。いじめについては,2006年10月の文科省通知にて,加害者に対して毅然とした対応をとるなどの方針が明示されています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/06102402/001.htm

 上記の統計は,これらの政策的努力の賜物である,という見方もできるでしょう。

 これらの事由に関する相談は,どの年齢の子どもで多いのでしょうか。2009年度の不登校でみると,最も多いのは,13歳の子どもに関する相談で1,475件となっています。当該年度の不登校相談件数(6,878件)の21.5%を占めます。不登校相談の5件に1件は,13歳の子どもに関するものであることになります。

 この年の13歳人口は約118万人です。よって,ベース人口1万人あたりの相談件数に換算すると,12.5件となります。子どもの人口全体でみた比率(3.0件)の4倍以上です。13歳といえば,中学校に上がる年です。「中1ギャップ」という言葉がありますが,学校不適応の問題は,この年齢の子どもで起きる確率が高いようです。

 こうした年齢別のデータを,上表の各年次について算出し,例の社会地図で表現してみます。不登校といじめの図を立て続けに展示いたします。



 どの年でみても,13~14歳あたりの相談率が高くなっています。不登校の図をみると,緑色以上のゾーンが川のように横切っています。人生の関門といいますか,この(危険な)川を,全ての子どもが渡らなければならないことになります。ここでつまずかせないためにも,中学校入学当初では,適応上の支援などが要請されるところです。このことは,中学校学習指導要領にも記載されています。

 ところで,いじめの相談率は,10歳未満の低年齢の段階では低いようです。しかるに,11月18日の記事でみたように,潜在的ないじめ被害者は,低年齢の児童ほど大きいと推測されます。にもかかわらず,相談の件数が少ないということは,当人のSOSを保護者や教師が把握し得ていない可能性が示唆されます。低年齢の児童は,言語能力に乏しいだけに,とりわけ綿密な配慮が求められるでしょう。

 今回は,不登校やいじめといった問題行動の相談件数をみましたが,他にも,性格行動や適性に関する相談件数など,面白い統計があります。展示したい社会地図はまだまだあるのですが,次回は,主題を変えることにしましょう。

2011年11月27日日曜日

養護相談

前回は,児童相談所に寄せられた相談件数を分析しました。今回は,養護相談という事由に限定して,相談件数の統計をみてみようと思います。出所は,厚労省『社会福祉行政業務報告』です。

 同調査の解説によると,養護相談とは,「父又は母等保護者の家出・失踪,死亡,離婚,入院,稼働及び服役等による養育困難児,棄児,迷子、被虐待児,被放任児,親権を喪失した親の子,後見人を持たぬ児童等環境的問題を有する児童,養子縁組に関する相談」と定義されています。

 今問題になっている児童虐待(child abuse)に関する相談は,広くはこの養護相談のカテゴリーに含まれることになります。まずは,この養護相談の件数の時代推移をみてみましょう。前回と同様,1965年以降の2~3年刻みのデータをとっています。


 bの相談件数をみると,1997年度までは2~3万件台でしたが,2000年になると5万件を超え,2007年には8万件を超えています。この間,20歳未満の子どもの数は減ってきていますので,相談件数をベースで除した比率は,ぐんぐん上昇しています。

 比率の上昇は,2000年度以降で大きいようですが,これには理由があります。2000年5月に児童虐待防止法が制定され,児童虐待が社会問題として正式に認知されるに至りました。このことをきっかけに,虐待に関連する相談の件数がうなぎ昇りに増えたものと思われます。

 2009年度の養護相談の件数は88,009件ですが,このうちの51.6%(45,395件)は,児童虐待に関連する相談です。養護相談の半分以上が,虐待に関連する相談となっています。

 さて,この養護相談ですが,何歳の子どもに関連するものが多いのでしょうか。2009年度の統計では,0歳の子どもに関連する相談が6,583件と最も多くなっています。この年の0歳人口は約108万人ですから,ベース人口1万人あたりの件数に直すと,61.1件となります。上表に記載されている,子ども人口全体の比率(38.1)よりも,かなり高い値です。低年齢の児童において,養護上の問題が発生する確率が高いことがうかがれます。

 私は,上表の各年度について,養護相談件数の比率を年齢別に出し,結果を例の社会地図で表現してみました。


 黒色は,該当年齢人口1万人あたりの相談件数が50件を超えることを意味します。最近の0歳と2~4歳が,黒く染まっています。時代軸で相対化しても,最近の低年齢の児童の危機状況が際立っています。

 しかし,1990年代後半以降,どの年齢でも相談件数の率がじわじわと上がってきています。2009年度でいうと,青色(1万人あたり40件台)のゾーンが10歳まで,紫色(30件台)のゾーンは14歳まで垂れてきています。

 以前は,10代になった少年に関する養護相談は少なかったのですが,最近では,そうではなくなっています。このような状況が,90年代半ば以降に表れてきたことも不気味です。子どもの危機というのは,社会全体の危機と表裏であるのだな,と思います。

 次回は,また別の事由の相談件数の統計をお見せいたします。

2011年11月26日土曜日

児童相談(全般)

11月3日の記事では,全国の児童相談所に寄せられた相談の件数が,子どもの年齢別にみてどう違うかを明らかにしました。今回は,その時代変化をみてみようと思います。

 時代変化をみる場合,子どもの数(ベース)の変化を考慮しなければなりませんので,相談件数をベースで除した比率を出す必要があります。手始めに,1965年度と最新の2009年度の統計を比較してみましょう。出所は,厚労省『社会福祉行政業務報告』です。


 相談件数の概数は,27万件から37万件に増えています。年齢別にみると,3歳の子どもに関連する相談が最も多い構造は,変わっていないようです。

 少子化により,子どもの数が減っているにもかかわらず,相談件数は増加しています。よって,子どもの数あたりの比率は大きく伸びています。表の右欄は,相談件数を児童千人あたりの比率に直したものです。まず合計をみると,7.5件から16.0件へと,倍以上になっています。

 この比率は,どの年齢でも上昇しています。3倍以上になっているのは,2歳,16歳,17歳,および18歳以上です。18歳以上(18,19歳)では,相談件数の比率が0.7から10.2へと大きく伸びています。昔は,この年齢になると親から自立する者も多かったのですが,今日では,そうではなくなっています。年長少年に関する相談件数の増加は,親への依存期間の延長によるのではないか,と思われます。

 この期間中の変化をもっと仔細に表現してみましょう。私は,1965年以降の2~3年刻みで,年齢ごとの相談件数比率を計算し,結果を等高線グラフで表してみました。このブログを長くご覧頂いている方は,お分かりかと存じます。私の恩師の松本良夫先生が考案された,「社会地図」という図法です。これによると,各年齢の率の時代変化を,上から俯瞰することができます。


 青色は,該当年齢の児童千人あたりの相談件数が,5件以上10件未満であることを意味します。黒色は,25件を超える,ということです。

 図をみると,時代を問わず,3歳児に関連する相談が最も多いようです。その多くは,養護相談,障害相談,ならびに育児相談であることは,11月3日の記事で示しました。90年代の初頭あたりから,この年齢の箇所が黒く染まっています。前世紀の末からは,20件以上のゾーン(紫色)が,4~5歳の部分まで垂れてきています。近年,この年齢層の危機状況が強まっています。

 また,2009年度では,13~14歳の部分も紫になっています。11月3日の記事でみた,「2コブ」型は,最近になって生じたもののようです。この年齢の主な相談事由は,非行,性格行動,および不登校などです。思春期の危機の表れといえましょう。

 しかし,図を大局的に眺めると,1998年頃から,基調色が青色から赤色(緑色)に変化します。全体的に,相談件数の比率が伸びたことを示唆します。1998年といえば,自殺者が3万人の大台に突入した年です。子どもの危機というのは,社会全体の危機を正直に反映するのだな,と思います。

 上図を右に延ばしたら,どうなるのでしょうか。3~5歳と13~14歳の膿が,じわじわと広がっていくのでしょうか。

 今回みたのは,相談件数全体の比率ですが,事由ごとにみると,興味深いことが分かるかもしれません。非行,不登校,いじめ,性格行動など,主な事由の相談件数の比率についても,上記のような社会地図で表現してみようと思います。次回以降,作品を展示いたします。

2011年11月24日木曜日

辞(病)める新人教員

11月8日の朝日新聞によると,新たに公立学校に採用された新人教員が,1年以内に退職する,というケースが増えているそうです。
http://www.asahi.com/national/update/1108/TKY201111080209.html

 私は,この手の報道記事に接すると,原資料にあたり,もっと詳しい統計を知りたくなります。この記事の統計のソースは,文科省『公立学校教職員の人事行政の状況調査』です。文科省のホームページや,同省の『教育委員会月報』(第一法規)に,詳しい調査結果が掲載されています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/11/attach/1312850.htm

 2010年度調査の結果によると,同年度の公立学校の新規採用教員25,743人のうち,1年以内に依頼退職をした者は288人だそうです。後者を前者で除した比率をとると,11.2‰(=1.1%)です。およそ100人に1人が,採用後1年を待たずして,自らの意志で教壇を去っていることになります。下表は,1997年度からの推移を跡づけたものです。


 1年以内の依頼退職者は,実数,比率ともに年々増加しています。実数(b)をみると,2003年からの伸びが顕著です。2003年から2004年にかけて107人から172人になり,2004年から2006年の間に281人にまでなっています。

 激戦の教員採用試験を勝ち抜いたのにモッタイナイ・・・。このように思われる方もいるでしょう。早期の依頼退職の理由として,どのようなものが考えられるでしょうか。

 まず制度的な面でいうと,1年間の条件附採用期間をクリアできなかった,ということが考えられます。公立学校の教員は,「すべて条件附のものとし,その職員がその職において1年を勤務し,その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとする」と法定されています(教育公務員特例法第12条第1項)。教員の場合,じっくり慎重に適性を見極めるため,条件附任用の期間が,一般の公務員(6か月)の倍であることが特徴です。

 この期間中の脱落者は,「不採用」という烙印を押すのがカッコ悪いためか,依頼退職という形で処理されるケースが多いと聞きます。上表のbからcを引くと,自己都合による依頼退職者が出てきます。その主な中身は,教職への不適応感を抱いて自ら職を辞す者でしょうが,条件附任用期間中の脱落者(予備軍)も少なからず含まれていると推察されます。

 なお,病気による依頼退職者の増加も見逃せません。cをbで除した比率を出すと,2000年では15.6%でしたが,2010年では35.1%にまで高まっています。依頼退職理由に占める,病気(多くが精神疾患)のウェイトが増してきています。

 まさに,辞める(病める)教員の増加です。昨今の教員をとりまく状況を考えると,さもありなん,という感じがします。1年以内の早期での離職であるだけに,看過できることではありますまい。

 ところで,こうした辞める(病める)教員の量に,地域的差異はあるのでしょうか。私は,1年以内の依頼退職者の数を,47都道府県別に明らかにしました。指定都市の分は,当該都市を含む県に統計に入れています。2010年度採用者のデータです。


 先ほどみたように,全県の合計は288人です。これを県別にバラすと,かなりの違いがあります。首都の4都県,愛知,大阪,および兵庫は,早期の依頼退職者の数が10人を超えます。上位3位は,東京84人,大阪34人,神奈川31人,です。

 大都市県ばかりですが,これらの地域は,採用者数も多いので,当然といえば当然です。各県の依頼退職者は数が少ないので(白色は0人),採用者で除した比率を出しても意味がないのですが,上位の3都府県について比率を出すと,以下のようになります。


 東京の率の高さが際立っています。依頼退職率,病気による依頼退職率とも,全国値の倍を超えています。東京では,学校に理不尽な要求を突き付けるモンスター・ペアレントが多い,というような条件もあることでしょう。

 ケツの青い新人教員は,この種のモンスターの格好の餌食にされる確率が高いと思います。2006年5月に,東京で採用されて間もない新人教員(女性)が自殺する事件が起きましたが,その原因として,児童の保護者にあれこれと言われた,というようなことがあったそうです。

 でも,同じ大都市の大阪や神奈川の率は全国と同水準ですので,東京に固有の条件もあるのかもしれません。たとえば,条件附任用期間クリアの審査を厳格にしているなど。団塊世代の大量退職により,大量採用を余儀なくされている東京では,このような措置がなされているとしても,不思議ではありません。各県の条件附採用の評定がどういうものかは,上記文科省サイトの表6(PDF)から知ることができます。

 私は,教員の離職に注目してきましたが,早期離職率にも,これから注意していこうと思います。この指標は,各県の教員採用活動を評価する指標としても,使えるかもしれません。

2011年11月23日水曜日

自殺の観点別平均評点

前回の続きです。今回は,前回のデータを使って,自殺の苦痛度や迷惑度の平均量がどう変わってきたかを明らかにしようと思います。

 手始めに,2010年に起きた自殺の迷惑度の平均点を出してみましょう。鶴見さんの『完全自殺マニュアル』(太田出版,1993年)では,それぞれの自殺手段の迷惑度が5段階で評定されています。首つりは1,ガスは1,薬物は1,溺死は3,飛び降りは3,飛び込みは5,手首切りは2,感電は1,焼身は2,凍死は1,です。

 厚労省『人口動態統計』によると,2010年の自殺者(29,554人)の自殺手段の構成は,首つりが66.4%,ガスが13.3%,薬物が3.2%,溺死が2.8%,飛び降りが8.1%,飛び込みが2.1%,その他が4.2%,です。

 これらのデータから,この年の自殺の迷惑度平均点は,次のようにして求めることができます。厚労省の統計でいう「その他」の手段による自殺者(4.2%分)には,手首切り,感電,焼身,および凍死の迷惑度の平均点(1.5)を充てることとします。

 {(1.0×66.4)+(1.0×13.3)+・・・(5.0×2.1)+(1.5×4.2)}/100.0 ≒ 1.32点

 この迷惑度平均点の推移を10年刻みでたどると,1960年は1.60点,1970年は1.61点,1980年は1.55点,1990年は1.58点,2000年は1.38点,そして2010年が1.32点となります。

 予想に反するといいますか,自殺の迷惑度点は,昔よりも減ってきています。前回の面グラフでみたように,溺死や飛び込みといった,迷惑度の高い自殺手段の比重が減じてきているためです。

 同じやり方で,他の観点の平均評点の推移も明らかにしてみましょう。①苦痛,②手間,③見苦しさ,④迷惑,⑤インパクト,そして⑥致死度の平均評点が,1958年から2010年までの間に,どう変わってきたかをみてみます。

 ①については,苦痛の評点が定かでない薬物(前回の表を参照)による自殺者は除外して,平均点を出すこととします。2010年でいうと,薬物による自殺者(934人)を除いた28,620人の平均点を出すことになります。では,①から⑥の各観点について,評点の平均値の推移をご覧ください。


 まず目につくのが,致死度の平均量の増加です。前回述べたように,致死度がマックスの首つりのシェアが高まっていることによります。その一方で,手間や苦痛の平均点は減少傾向です。手間のかかる薬物や,苦痛の大きい溺死の比重が小さくなってきているためです。

 明らかなのは,「簡単」,「ラク」,「確実」を求める志向が増してきていることです。最もポピュラーな首つりは,この3条件を満たした手段であるといえます。なお,インパクトの平均点が上がってきていることも,注目に値します。

 各観点の平均評点は,性別や年齢層別に出すことも可能です。女性よりも男性,高齢者よりも若年者で,インパクトや迷惑度の平均点が高いのではないかしらん。また,時代×年齢層のマトリクスで平均点を出し,例の社会地図(等高線グラフ)で表現してみるのも面白いかも。

 これらの作業は,2004年度の厚労省『人口動態統計特殊報告』のデータを使って行うことができます。興味ある方は,どうぞトライしてみてください。
 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL02010101.do

 私もやってみるつもりですが,自殺関係の統計ばかりいじっていると気が滅入ってきます。話題をチェンジさせてくださいまし。

2011年11月22日火曜日

自殺の手段

1993年7月,鶴見済さんの『完全自殺マニュアル』が太田出版より刊行されました。タイトルのごとく,自殺のやり方を詳細に解説したマニュアル本です。
http://www.ohtabooks.com/publish/1993/07/05202311.html

 この本は大変な反響を呼び,大ベストセラーとなりました。私は2009年4月にこの本を購入したのですが,奥付をみると,「2008年11月23日第104刷発行」と記されています。つまり,1993年の初版発刊以降,104回の重版を重ねた,ということです。現在では,もう少し版を重ねているものと思います。

 しかるに,この本はいろいろと「すったもんだ」を起こしたようであり,東京都の青少年条例にて有害図書に指定されるという,憂き目にも遭っています。少し大きな書店に行けばありますが,立ち読みができないよう,ビニールで封がされ,「18歳未満の青少年の購入禁止」という帯がつけられています。

 自殺を助長するとはけしからん,というような悪評が多数であると聞きます。しかし,鶴見さんの意図はそういうことではなく,むしろ逆のことであると思います。本の帯(上記の帯とは別)には,以下のように記されています。

 「世紀末を生きる僕たちが最後に頼れるのは,生命保険会社でも,破綻している年金制度でもない。その気になればいつでも死ねるという安心感だ!」

 事実,「本気で自殺を考えてこの本を手に取ったが,いつでも死ねる(逃げられる)という安心感のようなものが得られて,生きる意欲が湧いてきた」というような感想も多く寄せられているそうです。なるほど,確かにそういう効果も秘めている本だろうな,と私も思います。

 この本では,主な10の自殺手段について1章ずつが充てられ,基礎知識,具体的なやり方,歴史上のエピソードなどが,若干のユーモアを交えながら淡々と記されています。各章の冒頭では,当該の章で解説する自殺手段について,①苦痛,②手間,③見苦しさ,④迷惑,⑤インパクト,および⑥致死度が5段階で評定されています。それをまとめてみると,以下のようです。


 一番上の「縊首」とは,首つりのことです。首つりは,苦痛がない一方で(1),確実に死ねる手段であるようです(致死度5)。焼身は,大きな苦痛を伴いますが,インパクト抜群で,致死度も高いと評されています。

 予想されることですが,鉄道自殺に代表される「飛び込み」は,迷惑度がマックスです。死体の見苦しさもハンパじゃありません。

 女性の場合,きれいな姿で死にたい,という要望もあるかと思いますが,ポピュラーな首つりは,失禁するなど,死体が結構見苦しいそうです。見苦しさが「1」なのは,ガス,薬物,手首切り(リスカ),ならびに感電とされています。

 どうでしょう。ラクに確実に死にたい,というのであれば,首つりや飛び降りが適していることになります。抗議の意味を込めたインパクト重視というなら,飛び込みや焼身がオススメということになります。現実の日本社会では,最近,年間3万人ほどが自殺していますが,どういう手段による自殺が多いのでしょうか。

 厚労省の『人口動態統計』によると,2010年の自殺者29,554人の自殺手段の構成は,縊首が66.4%,ガスが13.3%,薬物が3.2%,溺死が2.8%,飛び降りが8.1%,飛び込みが2.1%,その他が4.2%,となっています。「ラク」と「確実」を重視した,首つりと飛び降りが多くを占めます。鉄道自殺でよくニュースになる飛び込みは,わずか2.1%です。

 自殺手段の構成の時代推移をたどると,下図のようになりました。1958年(昭和33年)からの変化を,面グラフで明らかにしています。


 始点の1958年では,薬物による自殺が最も多くを占めていました。しかし,時代の経過と共に,首つりのシェアが増してきます。1970年に48%,1990年に57%となり,2010年の66%に至っています。

 80年代頃から,飛び降りの比重も高まってきます。高層団地などの建設により,飛び降りを図る環境条件が整ってきたからでしょうか。代わって,飛び込みや溺死の比率が少なくなってきます。鉄道自殺のような飛び込みは,昔のほうが多かったのですね。

 総じてみると,「ラク」と「確実」を求める傾向が強まっているようです。上図の構成比率のデータと,鶴見さんによる評点のデータを使えば,各時代の自殺の苦痛度平均点,インパクト平均点,迷惑度平均点のような指標を出せます。

 長くなりますので,この辺りで止めにしましょう。次回は,自殺の苦痛度や迷惑度の平均量が,昔から今までどう変わってきたのかを明らかにしてみようと思います。

2011年11月20日日曜日

指導が不適切な教員

文科省の『教育委員会月報』(第一法規)を定期購読しています。先日届いた,2011年11月号によると,2010年度間に「指導が不適切」と認定された教員の数は208人だそうです。

 当局の定義によると,指導が不適切な教員とは,「知識,技術,指導方法その他教員として求められる資質,能力に課題があるため,日常的に児童等への指導を行わせることが適当ではない教諭等のうち,研修によって指導の改善が見込まれる者であって,直ちに後述する分限処分等の対象とはならない者」とされています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/jinji/08022711/003.htm

 2007年の教育公務員特例法の改正により,指導が不適切と認定された教員は,指導の改善を図るための研修(指導改善研修)を受けることが義務づけられています(第25条の2)。この研修を経ても,指導の改善が不十分と認定された場合は,任命権者により,「免職その他必要な措置」が講じられます(第25条の3)。

 冒頭の資料によると,指導が不適切と認定された教員の数は,以下のように推移しています。公立学校(小学校,中学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校)の統計です。


 最近10年間の統計ですが,ピークは2004年度の566人であり,その後は減少の傾向です。2010年度の数字は,さして多いものとは判断されません。

 2010年度間の認定者のうち,同年度に指導改善研修を受けた者は140人です(残りは次年度以降の研修対象者)。この140人にどういう裁定が下されたかをみると,現場復帰が62人,研修継続が30人,退職等が35人,その他が3人,となっています。

 研修対象者の現場復帰率は44.3%です。残りの半分以上が職場復帰を果たし得ず,退職等の形で職を辞した者が25%(4分の1)います。このほど導入された指導改善研修は,受講しさえすればよいというような形式的なものではなく,それなりに厳格に運用されていることがうかがれます。

 指導が不適切と認定されると,いろいろと厄介なようです。はて,こうした不名誉の烙印を押される確率は,どういう属性の教員で高いのでしょうか。年齢別でいうと,ケツの青い若年教員で認定率が高いような気がします。

 私は,冒頭の資料から,2010年度間の認定者数を,学校種別,性別,および年齢層別に明らかにしました。それを,それぞれの属性カテゴリーのベース(本務教員数)で除して,認定率を計算しました。ベースの数字は,同年度の文科省『学校基本調査』より得ました。

 下表は,公立学校の教員について,指導が不適切と認定された者の出現率を出したものです。年齢層別のベースの数字(a)は,60代と管理職(校長,副校長,教頭)を除いていますので,合計と一致しないことを申し添えます。


 まず,2010年度の認定者数208人が,公立学校全体の本務教員数のどれほどに相当するかをみると,10万人あたり23.1人です。約分すると,4,329人に1人。近年の自殺率(≒10万人あたり25人)と同じくらいの水準です。低いのですねえ。

 教員の属性別ではどうでしょう。学校種別では,中等教育学校を別にすると,中学校の出現率が最も高くなっています。性別では,男性が女性の3倍以上です。

 下段の年齢層別の箇所に目をやると,先の予想に反して,指導が不適切な教員の出現率は,年齢が上がるほど高くなっています。50代の出現率(44.1)は,20代の4倍以上であり,他のどの属性の率をも凌駕しています。

 6月3日の記事でも書きましたが,教員をとりまく近年の状況変化(教員評価の導入,住民の学校参画・・・)に対し,最も戸惑いを抱いているのは,長年異なる状況下で教職生活を営んできた50代の教員なのではないかと思われます。

 自分のやり方に固執するあまり,結果として,「指導が不適切」という烙印が・・・。こういうケースも少なくないのではないかと思います。

 私が非常勤をしている某大学では,学生の授業評価(意見,改善要望含む)に対する,教員のリプライをまとめた冊子が,学生ラウンジ等に置いてあります。それをみると,年輩の教授ほど,「回答の必要を認めず」,「学生のほうに問題があるのではないか」,というような(反発的な)コメントが多いように感じます。

 うーん。こうみると,上記の年齢層別のデータも,さもありなん,という感じです。まあ私も,性格はかなり頑固で,人の意見に素直に耳を傾けるタイプではないで,気をつけないといけないなあ,と自戒するところです。

 一つ,興味があるのは,上記の出現率を学歴別にみるとどうかです。指導が不適切と認定される確率は,大学院卒の教員と学部卒の教員とでは,どちらが高いのでしょうか。もしかすると,前者のほうが高かったりして。また,教員養成系大学卒業者と一般大学卒業者とで,どう違うかも気になります。大学(院)における教員養成の効果を検証する上でも,こうしたデータの公表を望むものです。

2011年11月18日金曜日

いじめの摘発度(学年別)

11月9日の記事にて,いじめの摘発度を県別に明らかにしました。その結果,熊本県の数字がダントツで高いことを知りました。

 当県では,毎年,公立学校の全児童・生徒に対し,いじめの被害経験の有無を尋ねるアンケート調査を行っているそうです。2009年度調査の結果を引くと,「今の学年になっていじめられたことがある」と答えた児童・生徒の比率は8.8%と報告されています(調査実施時期は11~1月)。およそ11人に1人。学年別の比率をグラフ化すると,下図のようになります。
http://kyouiku.higo.ed.jp/page2007/page3168/


 最も高いのは,小1で19.4%です。おおよそ,低年齢の児童ほど被害経験率が高い,右下がりの型になっています。文科省の統計にて,いじめの認知件数を学年別にみると,中1をピークとした山型になるのですが,上図の型状は,明らかにそれとは違っています。

 低学年では,被害を受けている児童が多いにもかかわらず,当局がそれを把握しきれていない可能性が示唆されます。熊本県の被害率を使って,全国の被害者数を学年別に推し量り,各学年の認知件数の統計と照らし合わせてみましょう。

 文科省の『学校基本調査』(2009年度版)に記載されている,全国の公立の小1児童数は1,121,965人です。この数字に,熊本の小1のいじめ被害率(19.4%)を乗じて,いじめ被害経験者の実数を推計します。その数,217,661人なり。

 2009年度の文科省『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』によると,当該年度間に,全国の公立学校で認知された小1のいじめ件数は3,810件です。この数は,先ほど推し量った,当該学年のいじめ被害経験者数(217,661人)の1.8%に相当します。当局の統計が,推定されるいじめ被害者数のどれほどを掬っているのかを表す尺度として使えます。

 この尺度(いじめの摘発度)を,他の学年についても算出してみましょう。下の表をご覧ください。


 表の右欄によると,いじめの摘発度は中2で最も高くなっています。20.0%です。当局の統計は,推定されるいじめ被害者数の2割を拾っていることになります。

 学年別の摘発度は,中2をピークとした,きれいな山型になっています。中学校段階でいじめが起きやすいと巷でいわれるので,いじめの摘発活動も,中学校で本腰が入れられる,ということでしょうか。

 ですが,ここでの推計結果によると,低学年の児童ほどいじめ被害者が多くなっています。実際に起きているいじめの数についても,同じようなことがいえるでしょう。にもかかわらず,当局の統計は,そのうちのごくわずかしか把握し得ていないようです。

 言語能力に乏しい低学年の児童の場合,いじめに遭ったことを,保護者や教師にうまく訴えることが叶わないのかもしれません。それだけに,小学校の低学年にあっては,いじめの摘発活動がもっと活発化されて然るべきではないか,と思います。

 2月25日の記事では,最近10年間における暴力的行為の増加率が最も大きいのは,小1の児童であることを明らかにしました。教師の言うことを聞かない,授業中立ち歩くといった,「小1プロブレム」の問題もよく知られています。

 夫婦の共働きや,養育の「施設化」の進行により,幼児期の社会化(Socialization)が十分でないまま,小学校に上がってくる子どももいることでしょう。今日,「難しいお年頃」は,低学年の児童にシフトしているといえるかもしれません。