2011年2月12日土曜日

塾通い

 今の子どもの多くは,学校のほかに,学習塾という「もう一つの学校」に通っています。学校で夕方まで勉強した後,夕食もそこそこに,夜遅くまで塾に行くのも,大変だなあと思います。かくいう私は,塾通いをしたことがありません。

 学習塾に通う子どもがどれほどいるかについては,いろいろな調査がなされていますが,公的なものとしては,2007年11月に文科省が実施した『子どもの学校外での学習活動に関する実態調査』があります。対象は,全国の公立小・中学生の児童・生徒です。調査結果が公表されている文科省サイトのURLを張っておきます。http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/08/08080710.htm


 学習塾(お習字などの習い事は除く)に通っている者の比率,いわゆる通塾率を学年ごとに表現すると,上図のようになります。小1では16%であったのが,学年を上がるごとに上昇し,中3では65%にも達しています。3人に2人が塾通いをしているわけです。これは全国の統計ですが,東京のような大都市だけに限定すると,通塾率はもっと高いことが予想されます。

 さて,次なる関心事は,こうした塾通いが,子どもの生活にどう影響しているかです。それはいろいろな面から捉える必要があるでしょうが,ここでは,就寝時間の分布をとってみようと思います。下図は,学校に行く前日の就寝時間の分布を示したものです。


 通塾率の増加と比例するがごとく,学年を上がるにつれ,就寝時間が遅くなる傾向があります。中3では,半分以上が「午前様」です。こうした傾向が,もっぱら塾通いによるものだと断定はできません。しかるに,非通塾者と通塾者を比べると,後者の就寝時間が明らかに遅くなっています。

 塾通いが生活に及ぼす(悪)影響は,他にも考えられます。家庭生活や地域生活の破壊です。後者についていうと,最近,地域社会において,群れをつくって遊ぶ子どもの姿を見かけなくなりました。通塾のため,各人のスケジュール調整が難しい,という事情によると思われます。同年齢集団による群れ遊びは,子どもが自治や自律の精神を学ぶよい機会となり得るのですが,何とも残念なことです。こうした,いわゆるギャング・エイジの喪失が,子どもの社会性の欠如に影響している側面があります。

 ところで,最近,生活保護世帯の子どもの通塾費用を公的に援助しようという動きがあります。貧困の連鎖を断ち切ろうという意図には,深く敬意を表します。しかるに,このことは,塾通いをすることがノーマルで,塾通いをしないことがアブノーマルになっていることを示唆しています。子ども期において,2つの学校に通うことを義務づけられる社会というのは,いかにも窮屈です。

 子どもの生活の健全度を測る目安の一つは,家庭,学校,地域社会という,異なる生活の場がバランスよく充実しているかどうか,ということであると思います。こうした基本的な視点から,子どもの「生」を捉えなおすことも必要であるかと存じます。