2011年7月6日水曜日

就職戦線異状あり

 7月1日,文部科学省は,「平成22年度大学等卒業者の就職状況調査」の結果を公表しました。この調査から,2011年3月卒業者の就職戦線の軌跡を知ることができます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/07/1307992.htm

 本調査は,大学,短期大学,高等専門学校,および専修学校の学生6,250人の就職状況を,4つの時点を設けて,ピンポイントで追跡しています。4つの時点とは,2010年10月1日,12月1日,2011年2月1日,そして4月1日です。

 それぞれの時点における学生の就職状況を,学校の種別ごとにみてみましょう。下図をみてください。カッコ内の数字は,就職希望者に占める内定獲得者の比率(%)です。


 まず,マジョリティーの私立大生に注目すると,最終学年の10月1日時点では,就職希望者中の内定率は55.8%です。この数字は,時期をおって段階的に上がり,桜が咲く4月1日には,希望者の9割が内定をゲットするに至っています。

 その下の短大生をみると,秋風が吹く10月時点でも,希望者の2割ほどしか内定を得ていません。年が明けた2月になっても,内定率は6割ほどです。残りの4割の者は,心身ともに「凍てつく」時期を過ごしたことでしょう。しかし,年度末に死に物狂いでがんばったのか,4月の頭には,84%の者が内定にこぎつけています。

 さて,最も注目されるのは,高等専門学校の状況です。高等専門学校とは,実践的な技術者を養成する5年制の学校です。制度上は,大学や短大と同様,高等教育機関として括られます。その高専の学生ですが,実践的な教育が効をなしているのか,就職状況は大変良好です。10月の時点にして希望者の94%が内定をゲットしており,最終的には,ほぼすべての希望者が就職を決めています。文科省のサイトでは,高専の「卒業生に対する産業界からの評価は非常に高く,就職希望者に対する就職率や求人倍率も高い水準となっています」と述べられていますが,なるほど,誇張ではないようです。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kousen/tokushoku.htm#2

 最終的に内定まで到達した者の比率を拾うと,国公立大学が93.5%,私立大学が90.1%,短大が84.1%,高専が98.7%,専修学校が86.2%,です。むーん,いまひとつリアリティがわかない数字です。本当に,8~9割の者が就職戦線に勝利しているのかしらん。

 賢明な方なら,ここではじき出された数字と現実感覚のズレの原因についてお分かりでしょう。上図のカッコ内の内定率は,それぞれの時点における就職希望者をベースにして出したものです。しかし,当初は就職を希望していても,途中で「もうダメだ」と諦める者もいます。私立大生でいうと,就職を希望しない者の比率は,10月1日時点では16.5%でしたが,終わりの時点(4月1日)では25.3%にまで増えています。

 今,最も早い時点(10月1日時点)における就職希望者数をベースにして,私立大生の最終的な内定獲得率を出すと,67.3/(46.6+36.9)=80.6%となります。先ほどの90.1%よりもかなり減ります。この意味での内定率を他の学校種についても出すと,国公立大が86.5%,短大が79.0%,高専が98.7%,専修学校が79.6%,です。…これでも,現実感覚から遠いですねえ。となれば,もっと前の時点での希望者数をベースに充てる必要があります。願わくは,最終学年の10月1日という遅い時点からではなく,もっと早い時点から追跡調査を行ってほしいものです。

 新聞報道などでは,内定率として,上図のカッコ内の数字が公表されているようですが,このことは,世人の目を曇らせることになるでしょう。「就職戦線異状なし」であるのだな,と。しかし,実情はまぎれもなく,「就職戦線異状あり」だと思います。今年の3月に,卒業論文ゼミの学生を送り出してみての,率直な感想です。