2011年9月2日金曜日

ニートの1日

 8月22日と23日の記事では,10~14歳の子どもが,1日の各時間帯において,どのようなことをしているのかを明らかにしました。資料源は,2006年の総務省『社会生活基本調査』です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001008022&cycode=0

 ところで,同調査の結果から,いろいろな人間の1日の過ごし方を知ることができます。今回は,少し風変わりな暮らしをしている人種にスポットを当てたいと思います。私は,以下の諸条件を満たす人種について,1日の各時間帯の生活行動を明らかにしようと思いました。
 ①35歳未満 ②未婚 ③無業 ④無業の理由が通学でも家事でもない ⑤就業非希望

 「引きこもり」ですか,といわれるかも知れません。しかし,外部との人間関係を断っているわけではありませんので,それとは違います。世間的によく知られた概念に直すと,いわゆる「ニート」に近い人種と思われます。ニート(NEET=Not in Education,Employment or Training)とは,教育を受けておらず,職にも就いておらず,かといって職業訓練も受けていない若者のことです。このような状態にありつつも,就業を望んでいない(⑤),という点がポイントです。

 上記サイトの表16から,先の①から⑤の条件をすべて満たす人種について,1日の各時間帯の過ごし方を知ることができます。2006年の「10月14日から10月22日までの9日間のうち,連続する2日間」について調査したものだそうです。「2日間」とあるのは,曜日の種類を変えるためです。ここでは,平日のデータをみてみましょう。性別は男性に限定します。

 下図は,①~⑤のすべての条件に合致するニート男性について,調査日の各時間帯における主行動を,組成図で表したものです。「この時間帯では,何%の者が**をしている」と読んでください。ちなみに,サンプル数は92人だそうです。希少な人種であることがうかがわれます。


 平日ですが,朝の8時になっても,対象者の4割が眠っています。起床時間の遅さ,バラつきもさることながら,全体的にみて,「テレビ」,「休養」,「趣味・娯楽」といった行動の領分が大きいことが注目されます。

 「趣味・娯楽」の中には,いわゆるネットゲームも含まれると思われます。図をみると,深夜の時間帯でも,この種のことをやっている輩がいるようです。社会生活に支障を来たすまでにネットゲームにハマっている「ネトゲ廃人」でしょうか。

 少し違った面に着目すると,ボランティアや学習といった,ポジティブな行動をしている者もいます。昼間や午後の時間帯では,若干の者が「仕事(バイト)」をしています。

 まあ,大雑把にみれば,平日だというのに,1日中テレビを観たり,ゲームにハマったりしている「ロクでもない輩」という整理ができないこともありません。しかし,このように,浮世とはいささか乖離した生き方をしている人間に対し,私は若干の敬意を抱きます。

 作家の雨宮処凛さんは,17人のプレカリアート(新自由主義経済の中,不安定さを強いられる人々)の生き方を取材した書物を公刊されています(『プレカリアートの憂鬱』講談社,2009年)。このような人々は,格差社会の犠牲者としての「可哀そうな貧乏人」という描かれ方をされることが多いのですが,彼らの「逞しさ,発想の自由さ,トンデモなさ」にいつも驚かされる,とのことです(まえがき,5頁)。

 この本には,社会に復讐するためにマルクスにハマり,原書の読書会まで組織している人間が出てきますが,マルクスの原書を読むことは,上図でいうと,「学習」のカテゴリーに含まれるでしょう。また,プリンターの製造工場で派遣社員として1年間勤務した経験を映画にし,全国上映にまでこぎつけた青年も出てきますが,この種の映画製作は,上図のカテゴリーでは,「趣味・娯楽」として括られることでしょう。

 社会を変革するのは,いつの時代でも,「ぶっ飛んだ」人間です。上図のような生き方をしているのは,2006年の『社会生活基本調査』のサンプル(標本)の上では92人ですが,母集団の上では,およそ9万6千人ほどと見積もられています。同年の15~34歳の男性人口の約6%に相当します。

 若者17人に1人くらい,こういう,「ぶっ飛んだ」生き方をしている輩がいてもいいのではないか,と思ったりもします。総務省の『社会生活基本調査』は,5年に一度実施されます。今年(2011年)は,調査の実施年です。2011年では,今回みたようなニートがどれほどいるのか,また,どういう生き方をしているのか。まだ先のことですが,調査の結果が出るのを心待ちにしています。