2011年10月23日日曜日

ニートマップ

 前回の続きです。前回は,15~34歳人口に占めるニートの比率を明らかにしました。最新の2010年の数字でみると,15~34歳の非労働力人口のうち,専業主婦(夫)でも学生でもない者(≒ニート)は約29.7万人で,同年齢人口の10.5‰に相当します。%にすると,1.05%です。

 ところで,このニート率がどのような社会的要因とつながっているかに興味が持たれます。私は,2005年の『国勢調査報告』の数字を使って,東京都内の53市区町村(島嶼部は除く)について,若者のニート率を計算しました。

 ここでいう若者とは,25~34歳の者のことです。大学受験浪人のような要因の関与を除くため,10代後半と20代前半の層は除外することとしました。いうなれば,高齢ニートの量的規模を観察することになります。

 2005年の都内53市区町村の25~34歳人口は,約210万人です。うち,上記の意味でのニートはおよそ2.1万人です。よって,ニート率は10.0‰(=1.0%)となります。ちょうど100人に1人です。

 この値を53市区町村について算出し,その値に基づいて,それぞれの地域を塗り分けてみました,10%未満は白色,10‰以上15‰未満は青色,15‰以上20‰未満は赤色,20‰以上は黒色,としています。下図は,このようにしてつくった「ニートマップ」です。


 図をみると,都心部は白く染まっており,西に行くにつれて,色が濃くなってきます。ニート率は,周辺地域で高いようです。ちなみに,ニート率が20‰(=2%)を超える地域は,府中市,日の出町,および奥多摩町です。奥多摩町では,ニート率が47.3‰(4.73%)にも達します。若者の21人に1人がニートです。

 私は,『47都道府県の青年たち』(2010年,武蔵野大学出版会)において,若者のニート率を県別に出したことがあります。そこでは,都市的な県よりも農村的な県において,ニートの比率が高いことが明らかになりました。ニート率の高さが,都市的な環境よりも農村的な環境とつながっていることは,東京都内の市区町村単位のデータからもうかがわれます。

 常識的に考えれば,世間体のような,しがらみが比較的強い農村では,ニートは生まれにくいと思われます。三十路にもなって,自宅に居座ったまま,職にも就かずブラブラし続けるというのは,なかなかできたものではないでしょう。むしろ,匿名性が強い都市部のほうが,そうしたことは容易であると思われます。

 はて,どういうことでしょうか。ここで想起されるのは,ニート率の高低は,怠けや就労忌避感情というような個人的な要因だけではなく,就労機会の多寡というような社会的要因ともつながっているのではないか,ということです。

 この点を確認するため,私は,今しがた明らかにしたニート率と完全失業率の相関関係を調べました。完全失業率とは,完全失業者が労働力人口に占める比率のことです。つまり,働く意欲があるにもかかわらず職にありつけない者がどれほどいるかを表す指標です。ニート率と同様,25~34歳の数字を出しました。資料源は,2005年の『国勢調査報告』です。

 下図は,横軸に失業率,縦軸にニート率をとった座標上に,53の市区町村をプロットしたものです。いわゆる,相関図というやつです。


 ニート率が飛びぬけて高い奥多摩町は,失業率も2位の位置にあります。図をみると,失業率が高い地域ほどニート率が高いという,うっすらとした正の相関関係が見受けられます。相関係数は0.390であり,1%水準で有意と判断されます。各地域におけるニートの量的規模は,就労機会の多寡と無関係ではないようです。

 必死にシューカツをしたがうまくいかず,やがて就労意欲を失いニートに・・・このようなサイクルの存在が推測されます。時系列でみても,2000年のどん底の不況時に,若者のニート率が急騰したという事実があります。前回の記事をご覧ください。

 ニートの発生要因を,若者の怠けや就労忌避感情といった個人的要因にのみ帰すことは間違いのようです。「働きたくないから働かない」よりも,「働きたいが働けない」の比重のほうが大きいのではないかと存じます。