2011年11月1日火曜日

校内暴力の警察沙汰率

 やや古い記事ですが,2009年12月7日の朝日新聞に,「暴力への対応,警察頼り『問題なら通報』連携強める学校」と題する記事が載っています。生徒による暴力事件があったら,容赦なく警察にバンバン通報する学校が増えているそうです。
http://www.asahi.com/edu/tokuho/TKY200912070198.html

 人を殴る,校内の備品を壊すなどの行為は,傷害罪や器物損壊罪といった刑法犯に該当します。一般社会でこのようなことをしでかしたら,直ちに「御用」となるところです。よって,生徒に殴られた教員が電話にすがりつき,110番のダイヤルを回すというのは,しごく自然な行為です。

 しかるに,学校の生徒の場合,警察沙汰にされることは滅多になく,保護的・指導的な対応がとられることがほとんどです。学校とは教育機関である以上,生徒の問題行動への対処を100%警察任せにするというのは,ある意味,自らの責任の放棄であるといえます。警察依存の傾向が強まっていることに対し,「単に排除するために動いていないか」という自戒の声も出ているようです(前掲記事)。

 私は,ちょうど上記の新聞記事が出た頃,非常勤先の学生さんとトラブルを起こしたことがあります。授業態度が悪い学生を注意したところ,反抗的な態度をとってきたので,つい怒鳴りつけてしまいました。すると,当人は逆上し,席を立って,暴力行為スレスレの威嚇行為に出てきました。

 すっかり頭にきた私は,当該の学生の授業履修を拒否する旨,大学の事務係に通告しました。事務係による事実確認調査の後,課程の主任の先生も交えて,当該の学生の処分について協議する機会が設けられました。

 主任の先生はこうおっしゃいました。「舞田さん。『切る』のは簡単です。大切なのは,『育てる』ことではないのですか」。こう言われた時,私は,穴があったら入りたいような,とても恥ずかしい思いに駆られました。安易な解決手段に訴えようとしていたのだなあ,と心底反省しました。

 関係ない話をしてしまいましたが,警察が取り扱った校内暴力事件の数は,最近増えてきています。警察庁の『平成22年中における少年の補導および保護の概況』によると,警察沙汰になった校内暴力事件の数は,2001年では848件でしたが,2010年では1,211件となっています。対教師暴力事件は,同じ期間中に,470件から688件に増えています。
 http://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/hodouhogo_gaiyou_H22.pdf

 でも,この期間中,学校で認知された校内暴力の数も増えてきていることでしょう。学校で認知された校内暴力事件のうち,どれほどが警察沙汰にされているのかに興味が持たれます。学校で認知された校内暴力事件の数は,文科省の『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』から知ることができます。警察が扱った事件の数は,上記の警察庁資料から得られます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016708

 後者を前者で除すと,校内暴力事件の警察沙汰率が算出されます。私は,2006年から2009年までの期間について,学校段階別に,校内暴力事件の警察沙汰率を明らかにしました。2010年の文科省統計には,東日本大震災に被災した地域の数字が含まれていないとのことなので,2009年までにしています。始点を2006年にしているのは,2005年までの文科省統計では,国立・私立学校のデータが含まれていないためです。


 2009年度間に,全国の中学校で認知された校内暴力の件数は39,382件です。2009年中に警察が取り扱った校内暴力事件の数は1,050件です。よって,中学校の場合,警察沙汰率は後者を前者で除して2.7%と算出されます。約37件に1件の割合です。警察沙汰率は,中学校で飛びぬけて高くなっています。

 なお,警察沙汰率は,表中の4年間で減少の傾向にあります。学校で認知された事件の数は増えているのですが,警察沙汰になる事件の数が減っているためです。はて,私がつくった統計では,冒頭の新聞記事がいう傾向と違っているようですが,これはいかに?

 ですが,校内暴力のうち,対教師暴力事件に限定すると,やや違った側面がみえてきます。


 対教師暴力事件の場合,警察沙汰率が跳ね上がります。2009年の中学校では10.1%,10件に1件です。中学校についていえば,警察沙汰になる事件の実数も増えてきています。校内暴力のうち,シリアスな部分については,冒頭の記事がいうように,警察依存の傾向が強まっているようです。

 しかるに,絶対水準でいうと,校内暴力事件の警察沙汰率は相当に低い,といってよいのではないでしょうか。アメリカでは,警察官が常駐しているハイスクールも少なくないといいますが,諸外国の数字に比したら,とても低い水準と判断されるのではないかしらん。

 極力,保護的・指導的な対応をとっておられる,学校の先生方のご努力に敬意を表します。私のように,単細胞で激しやすい人間だったら,どういうことになるやら・・・

 問題行動を起こす生徒に対しては,「毅然たる態度」で臨むことが必要といいますが,それは外部に丸投げすることでは決してないことを,私自身,肝に銘じたいと思います。