2011年11月5日土曜日

博士号取得率①

 仮に,あなたが(まかり間違って)大学院博士課程に進学した場合,どれほどの確率で博士号学位を取得できるのでしょう。この点を考えるには,ある年度の入学者の数と,3年後の学位取得者の数を照合してみる必要があります。これらの数字は,文科省の『学校基本調査(高等教育機関編)』から得ることができます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528

 まずは,時計の針を20年ちょっと戻して,1987年度入学者の学位取得率を明らかにしてみましょう。この頃は,博士課程に進学する者は多くはありませんでした。また,理系はいざ知らず,文系の博士号の授与基準は大変厳しく,学位取得に至る者はほんのわずかであったと思われます。

 1987年度の博士課程入学者は6,848人です。3年後の1990年3月の博士課程修了者のうち,博士号学位取得者は3,790人です。よって,1987年度の博士課程入学者の学位取得率は55.3%となります。半分ちょっとというところです。

 分子の3,790人には,87年度より前の入学者も含まれているでしょう。しかるに,87年度入学者からも,最短修業年限(3年)を超えた後に学位取得に至る者が同じくらい出るものと仮定します。*このような仮定は,浪人込の大学進学率を算出する際にも用いられています。

 この方法にて,1987年度入学者の学位取得率を各専攻について出すと,下表のようになります。


 理系の専攻では,学位取得率が半分を超えていますが,人文科学系,社会科学系,および教育系のそれは10%台と,すこぶる低くなっています。この頃はまだ,人文系の博士号=研究者としての集大成の証,というような意味合いが付与されていたのでしょう。

 しかるに,現在では状況はかなり変わっているものと思われます。大学院重点化政策により,博士課程入学者の数がかなり増えました。博士号取得者の絶対数が1990年代以降激増していることも,10月28日の記事でみたとおりです。

 2007年度の博士課程入学者は16,926人です。3年後の2010年春の博士課程修了者のうち,博士号学位取得者は11,807人です。後者を前者で除して,2007年度の入学者の学位取得率は69.8%となります。およそ7割。1987年度入学者の率よりも,14.4ポイント増しています。

 では,各専攻について,1987年度入学者と2007年度入学者の博士号取得率を比較してみましょう。下表をご覧ください。


 ほとんどの専攻において,博士号学位取得率が大幅に上昇しています。家政系は院生の数がかなり少ないので,数字が安定しないことに要注意です。

 2007年度入学者でみると,理学,工学,農学では,博士号取得率が8割を超えています。また,かつては学位取得が困難であった社会科学系や教育系でも,最近では,4割以上の確率で学位が取得できるようになっています。最難関の人文科学系でも,11.9%から38.3%へと,著しい伸びをみせています。

 いやはや,時代は変わったものです。しかるに,こうした変化には,無職博士問題という,重大な副作用が伴っていることを忘れるべきではありません。

 次回は,人文科学系,社会科学系,ならびに教育系という系列の下に位置する,細かい専攻学問別の博士号取得率を出してみようと思います。

 たとえば,人文科学系は,文学,史学,および哲学という細かい専攻から構成されます。こうした細かい専攻ごとに学位取得率を出すとどうでしょうか。哲学なんて,学位取得率が低そうだなあ。