2012年2月3日金曜日

リメディアル教育

1月18日の記事では,偏差値のグループ別に,私立大学の退学率を明らかにしました。偏差値が35に満たないBF(ボーダーフリー)大学の場合,初年次退学率の平均値は5.1%,4年間の退学率のそれは14.3%です。入学後1年以内に20人に1人,在学期間中に7人に1人が大学を辞めていることになります。

 退学の事由はさまざまでしょうが,学業上の不適応という事由が少なくないことでしょう。大学全入といわれる今日,大学教育の前提となる基礎学力を身につけないまま入学してくる学生が少なくありません。定員割れを防ぐため,なりふり構わず学生をかき集めているBF大学では,とくにそうでしょう。基礎学力の欠如→授業についていけない→退学。このような経路が存在するであろうことは,想像に難くありません。

 こうした連鎖を断ち切るため,入学前ないしは初年次において,基礎学力を鍛え直す補習教育を実施している大学が多いと聞きます。いわゆる,リメディアル教育です。今回は,各大学におけるリメディアル教育の実施状況を把握してみようと思います。

 手始めに,「日本語の学び直し」の実施頻度をみてみましょう。資料は,読売新聞教育取材班『大学の実力2012』(中央公論新社,2011年)です。2011年に,同社が全国の大学に対して行った調査の結果が記載されています。

 私は,入試偏差値を知ることができる,457の私立大学の回答分布を明らかにしました。偏差値の出所は,学研教育出版『2012年度用・大学受験案内』です。この資料には,各大学の学部別の偏差値が掲載されています。全学部の偏差値の平均値をもって,当該大学の偏差値とみなしました。

 下図は,偏差値のグループ別に,「日本語の学び直し」の実施頻度の分布を図示したものです。一番下のBFとは,偏差値が35に満たない大学のことを意味します。カッコ内の数字は,当該グループに含まれる大学の数です。


 日本語の学び直しの実施頻度は,入試偏差値ときれいに相関しています。偏差値が低いグループほど,実施頻度が高いようです。BF大学では,「全学部で実施」している大学が半分を超えます。

 BF大学では,海外からの留学生が多いためかもしれません。しかし,日本人でも,補習が必要と思われる学生さんが多いように思います。私は某BF大学で教えているのですが,学生さんのレポートや答案をみると,「・・・」というものに出くわすことがしばしばあります。漢字の誤字も多く,「家庭」を「家底」と書き違えている学生さんが,全体の4分の1以上いた時の驚きといったらもう・・・。上記のデータ,さもありなんです。

 リメディアル教育に関連する,他の項目の実施頻度もみてみましょう。読売新聞調査では,「日本語の学び直し」のほか,「入学前補習」,「新入生補習」,および「英語の学び直し」の実施頻度について尋ねています。下図は,「全学部で実施している」と回答した大学の比率を,偏差値のグループ別にみたものです。


 どの項目とも,大よそ,偏差値が低い大学ほど実施頻度が高いようです。偏差値60以上の大学で,「英語の学び直し」の実施頻度が高いのは,英語での講義など,ハイレベルな教育に対応できるようにするためと思われます。

 ところで,入学前補習や新入生補習を「全学部で実施」している大学の比率は,偏差値が高いグループでも3割を超えています。リメディアル教育と無縁な大学はない,といってよいでしょう。今日,リメディアル教育は多くの大学関係者の関心事であり,日本リメディアル教育学会という学会も組織され,活発な議論が展開されているようです。
http://www.jade-web.org/

 そういえば,桜美林大学の諸星裕教授の『大学崩壊-合併,身売り,倒産の内幕-』(角川新書,2010年)で,次のようなことがいわれていました。大学教員は博士号など持っている必要はない。採用は教育力重視で行う,と(頁は失念)。
http://www.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=201008000022

 このような主張に初めて触れた時は違和感を覚えましたが,今では,それもそうだろうなと,考えが軟化してきています。