2012年2月8日水曜日

教員給与の相対水準(女性)

1月29日に書いた「教員給与の相対水準」という記事が,少しばかり話題になっているようです。ツイッターで取り上げてくださった方もおられます。感謝いたします。
http://ceron.jp/site/tmaita77.blogspot.com

 ツイッターでのつぶやきを拝見しますと,①諸手当を含めた年収の比較をすべきではないか,②年齢も統制すべきではないか,③女性の資料もつくってほしい,というものが見受けられます。①と②については,資料の制約からお応えすることはできませんが,③はできないことはありません。

 女性教員は,公立小学校の教員の63%,中学校教員の42%,高等学校教員の31%を占めています(文科省『2011年度・学校基本調査』)。小学校では,教員の半分以上が女性です。量的に少なくないシェアを占める女性をオミットするのはいただけないでしょう。今回は,女性教員の給与が,同学歴(大卒以上)の女性労働者の給与に比してどうかをみてみようと思います。

 文科省の『学校教員統計調査』から,公立学校の女性教員の平均給与月額を知ることができます。比較対象である,全産業の大卒の女性労働者のそれは,厚労省の『賃金構造基本調査』から得ることができます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172

 ここ20年ほどの推移をとってみました。下表をご覧ください。『学校教員統計調査』の実施年の数字を拾っていますので,3年刻みになっています。


 女性で比較すると,全労働者よりも教員の給与が高いようです。最新の2007年でいうと,小学校は35.4万円,中学校は34.5万円,高校は34.6万円です。同学歴の女性労働者の給与に対する倍率にすると,小学校は1.17倍,中高は1.14倍となります。*女性の場合,中高よりも小学校の給与が高いことも特徴です。

 この倍率の推移をみると,男性と同様,最近下がってきています。それは,教員の給与が減少しているためです。2001年から2007年にかけて,小学校の女性教員の給与は,38.0万円から35.4万円までダウンしました。一方,女性労働者全体の給与は少し上がっているのです。

 しかるに,女性教員の給与が比較対象を上回っている構造は保たれています。それは,民間では給与の男女差が大きいのに対し,教育公務員ではそれが比較的小さいためです。

 2007年の大卒労働者の給与は,女性は上表にみるように30.3万円ですが,男性は43.9万円です。1.45倍の格差です。教員給与の男女差は,小学校が1.08倍,中学校が1.11倍,高校が1.15倍でしかありません。民間の女性労働者が虐げられている面に注目すべきかと思います。

 さて,上表は全国のデータですが,教員給与の相対水準は,地域によって大きく異なると思われます。都道府県別のデータを出してみましょう。1月29日の記事でもいいましたが,厚労省の『賃金構造基本調査』からは,労働者の学歴別の給与を県別に知ることはできません。先の記事と同じ便法により,大卒の女性労働者の給与額を推し量ります。

 上表にあるように,2007年の大卒の女性労働者の平均給与月額は30.3万円です。同年の全学歴の女性労働者のそれは24.2万円です。前者は後者の1.253倍ということになります。全国データから分かるこの倍率を,各県の女性労働者全体の給与に乗じて,大卒の女性労働者の給与を推計してみます。

 たとえば東京都の場合,全学歴の女性労働者の給与は30.4万円ですから,大卒の女性労働者の給与は,これに1.253を乗じて,およそ38.1万円と推測されます。

 下表は,大卒の女性労働者の給与額(予測値)に対する,教員給与の相対倍率を県別に整理したものです。


 1月29日の記事でみた,男性の指数一覧表とは,様相がかなり違っています。女性の場合,東京を除く全県において,教員給与が比較対象を凌駕しています。しかも,上回り方がまたスゴイ。1.3,1.4,さらには1.5という数字も目につきます。

 指数が1.3を超える場合は赤,1.4を超える場合はゴチの赤にしています。秋田がすごいですね。この県では,小学校の女性教員の給与は37.5万円,中学校は37.1万円です。大卒の女性労働者の推定給与額(24.1万円)の1.5倍を超えています。

 うーん,24.1万円・・・。教員の給与が高いことよりも,民間の女性労働者の給与が低いことに注意を向けるべきでしょう。就業機会に乏しい地方では,大卒であっても,なかなか稼げる仕事はない,ということでしょう。とくに女性の場合,そういう不利が比較的大きいのではないでしょうか。他の東北諸県の事情も,同じようなことと思われます。

 教員給与の相対水準は,男女でかなり違いがあることが分かりました。女性の場合,民間と教育公務員の世界の違いが際立っているなあ,という印象です。

 冒頭で述べたように,小学校では,教員の多くを女性が占めます。マイノリティ(少数派)のデータというわけではありません。1月29日の男性のデータと併せて,記憶にとどめておこうと思います。