2012年3月4日日曜日

教員の女性比(時代比較,国際比較)

2010年12月27日に,男女共同参画基本計画(第3次)が策定されました。本計画は,「政策・方針決定過程への女性の参画の拡大」を図るべく,「2020年までに,指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%になるよう期待し,各分野の取組を推進」すると明言しています。
http://www.gender.go.jp/main_contents/category/houritu_keikaku.html#kihonkeikaku

 このことを受けてでしょうか。大学教員の公募文書をみると,「女性の積極的な応募を期待します」,「業績が同等と認められる場合は,女性を採用します」というような文言をよく目にするようになりました。女性を雇った場合,給与の補助も出るとか。研究者の女性比率を高めようという,当局の強い意欲を感じます。

 今回は,子どもを教え導く存在たる教員に,女性がどれほどいるかをみてみようと思います。そんなの文科省の白書に載ってるじゃん,といわれるかもしれませんが,ここでは,長期的な時系列推移を明らかにします。また,国際比較も手掛けてみます。わが国の教員の女性比率の現状を,時代軸と空間軸の双方から相対視してみようという試みです。

 まずは時代比較から。私は,各学校種の本務教員の女性比率が,1950年(昭和25年)以降,どのように変化してきたのかを調べました。資料は,文科省の『学校基本調査』です。以前は,図書館に出向き,各年度版の資料から数字を採取し,それらをつなぎ合わせなければいけませんでした。しかし,現在はネット時代。官庁統計のデータは,e-Stat(政府統計の総合窓口)で軒並み閲覧することができます。

 教員数のような基本的なデータについては,長期的な推移をまとめた表がアップされています。そこから必要な数字(全教員数,女性教員数)をエクセルにコピペし,割り算をするだけで,直ちに目標を達成することができました。元データの入力作業も不要。便利な時代になったものです。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001015843&cycode=0

 最初に,初等・中等教育機関(幼稚園,小学校,中学校,高等学校,特別支援学校)の教員の女性比を跡づけてみます。各学校種の女性比の折れ線を一つのグラフにまとめることも考えましたが,それだと見づらいので,学校種ごとに,男女の組成の変化が分かる面グラフをつくりました。


 カッコ内の数字は,始点(1950年)と終点(2011年)の女性比の値です。小学校でいうと,この60年間で,女性教員の比率が49.0%から62.8%まで高まったことを示唆します。

 幼稚園の教員は,いつの時代でも,9割以上が女性です。教員の最も多くを占める小学校教員は,今でこそ女性比が6割以上ですが,戦後初期の頃は半分程度だったのですね。中学校や高校のような中等教育機関でも,教員の女性比は伸びていますが,初等教育段階に比べると,その水準は低いようです。高校教員の女性比率は,3割にも届きません。

 障害のある子どもを教育する特別支援学校は,2006年までのデータは,盲学校・聾学校・養護学校のものであることに留意ください。特別支援学校教員の女性比は,この期間中に,4割から6割に増えています。5つの学校種の中では,女性比の伸びが最も大きいようです。

 次に,短大と大学という,高等教育機関の教員の女性比率を観察しましょう。研究者の女性比を高めようという取組が盛んですが,その効果は如何。


 短大では,女性教員の比率が高いようです。現在では,半分を超えています。しかし,大学は今でも2割ほどです。それでも,昔に比べて女性比が高まっていることは,注目してよいでしょう。1950年では,大学教員の女性比はたったの5.6%でした。大学教員の女性比の伸び幅は,全学校種で最も大きいことも付記しておきます。

 グラフをよく見ると,短大,大学とも,1990年代以降の女性比の伸びが顕著です。大学でいうと,1990年の女性比は9.2%でしたが,2011年では20.6%になっています。この20年間で,女性比が倍増したわけです。この期間中の男女共同参画の取組の効果と評してよいと思います。

 とはいえ,絶対水準でいうと,わが国の大学教員の女性比は2割ほどです。5人に1人。これは,他国と比べてどうなのでしょう。また,前に戻りますが,高校教員の女性比(約3割)の国際的な位置も気になります。

 OECDの"Education at a Glance 2010"から,主要国における,高校と高等教育機関の教員の女性比率を知ることができます(下記サイトのIndicator D7)。高等教育機関(Tertiay education)とは,日本でいうと,大学,短大,そして高専に相当すると思われます。大学だけのデータは,ペンディングになっている国が多かったので,高等教育機関の教員の女性比を比較することにしました。
http://www.oecd.org/document/52/0,3343,en_2649_39263238_45897844_1_1_1_1,00.html#d

 上記の資料から,わが国を含む30か国について,高校と高等教育機関の女性教員比率を得ました。下図は,横軸に高校教員,縦軸に高等教育機関の女性教員比率をとった座標上に,30か国を位置づけたものです。点線は,30か国の平均値です。


 悲しいかな,わが国はかなり孤立した位置にあります。高校教員の女性比26.4%,高等教育機関の教員の女性比18.5%という水準は,国際的にみて,明らかに低いと判断されます。

 わが国と対極の位置にあるのがロシアです。この国では,高校教員の8割,高等教育機関の教員の半分以上が女性です。ほか,フィンランドやスロバキアなど,北欧・東欧の国が,図の右上に位置しています。上級の学校において,女性教員の進出が進んでいる国と評されます。

 うーん。政府が,女性研究者の比率を高めることに躍起になるのも無理からぬことでしょう。世の中には,男女が半々ずついます。にもかかわらず,研究者の世界では,男性4:女性1という有様。わが国の現状を異常と判断するのに,国際比較の統計を持ち出すまでもなかったかもしれません。

 放置していては状況が一向に改善しないので,お上が人為的な施策に乗り出している,ということでしょう。はて,男女共同参画基本計画が「指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%」とすることを目指している2020年のわが国は,上図のマトリクスでは,どのような位置を占めるでしょうか。韓国あたりでしょうか。少なくとも,仲間はずれの位置を脱し,他国の群れの中には入ってほしいものです。