2012年3月14日水曜日

新卒時の教員採用試験競争率の世代比較(東京都)

「先輩の頃は倍率どれくらいだったんですか」,「俺らの頃は楽勝だったよ。3倍くらいかな」,「えー,いいっすね。ウチらなんて15倍でしたよ」・・・。教員同士の飲み会の場で,こういう会話が交わされることもあろうかと思います。

 採用試験の競争率が10倍を超える激戦を勝ち抜いた世代もあれば,2~3倍だった「楽勝?」世代もあることでしょう。くぐってきた関門の競争率によって,教員のパフォーマンスがどう異なるかは興味深い問題です。今回は,この問題にトライするための事前作業として,新卒時の試験競争率という観点から,教員を分類してみようと思います。

 具体的には,新卒時の試験競争率で塗り分けた,教員の年齢ピラミッド図をつくってみようと思います。教員採用試験の競争率は県によって大きく異なりますので,ここでは,首都の東京都を事例とすることとします。都教委の『平成23年度・公立学校統計調査(学校調査編)』から,2011年の公立学校の年齢別教員数を知ることができます。この年の教員の年齢ピラミッドを,新卒時の試験競争率の水準によって塗り分けてみます。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/toukei/toukei.html

 2011年の23歳の教員は,2011年度(同年春採用)の試験の突破者であるとみなします。私の世代(2011年で35歳)は,1999年度試験の合格者と考えます。乱暴ですが,浪人による受験年度のズレは考慮しないこととします。

 都の教員採用試験の競争率は,1980年度試験までさかのぼって得ることができます(文科省『教育委員会月報』のバックナンバー参照)。よって,この論法でいくと,2011年の23歳~54歳までの教員について,新卒時の試験の競争率を知ることが可能です。

 各年齢の公立学校教員について,新卒時点の教員採用試験の競争率を整理した表を掲げます。東京の場合,中高の試験は合同で実施されているので,表の競争率は,両学校種を合わせたものです。


 私の世代(35歳)の新卒時の競争率は,小学校は6.96倍,中高は14.78倍でした。一番若い23歳は,順に3.75倍,8.26倍です。うーん,下がったものですねえ。しかし,まだ上がいます。最も激戦を勝ち抜いたのは,私より3つ上の38歳です。小学校は15.80倍,中学校は16.71倍という,超難関をくぐった世代です。

 反対に,小学校の30歳教員は,比較的「楽勝」だった世代です。競争率は2.09倍。2人に1人が合格できた世代です。

 当然ですが,世代によって,くぐってきた関門の広さの程度は違うものですね。職員室では,激戦世代と楽勝(ゆとり)世代が机を隣り合わせていることもあり得るわけです。この「ゆとり野郎が・・・」というような,世代間の対立・葛藤が起きていないとも限りません。

 話が逸れました。では,2011年の東京の公立学校教員の人口ピラミッドを,新卒時の試験競争率(上表)に基づいて塗り分けてみましょう。上記の都教委の資料によると,2011年の公立小学校の23~54歳教員は24,199人,公立中学・高校の同年齢の教員は19,401人であることを申し添えます。


 いかがでしょう。小学校では,32歳以下は真っ白(4倍未満)です。語弊があるかもしれませんが,「ゆとり」世代です。都教委が,地方の学生を呼び寄せるため,学校見学バスツアーを企画しているのは,こういう状況を憂いているためと思われます。

 一方,中学・高校では,白色の世代はありません。どの世代も,4倍以上の競争率をくぐってきていますが,とくに30代の部分の色が濃くなっています。ほとんどが,12倍以上の競争を勝ち抜いてきた世代です。30代は量的に多くはないですが,学校現場で中核的な役割を担う年齢層でしょう。東京の中高の現場は,彼らの(良好な)パフォーマンスによって支えられている,ということも考えられるのではないでしょうか。

 最後に,23~54歳の教員全体について,新卒時の試験倍率の内訳を明らかにしておきましょう。下図をご覧ください。


 公立小学校では,4倍未満だった世代が全体の35.8%を占めます。12倍以上の競争を勝ち抜いた激戦世代はわずか0.02%(522人)です。一方,公立中高では,この黒色の世代が24.7%,ほぼ4人に1人です。

 以上は東京都のケースですが,他の県について同じ統計図を描いた場合,それはそれは多様な模様が観察されることでしょう。関心が持たれるのは,この模様(構成)によって,総体としてみた各県の教員のパフォーマンスがどう違うかです。

 3月11日の記事では,各県の教員のパフォーマンス指数なる指標を出したところです。この指標と,新卒時の競争率という観点からした各県の教員構成の関連がどういうものかは,大変興味ある問題です。

 全県について後者を明らかにするのは手間がかかりますので,長期的なスパンでの課題にしようと思います。さしあたり,現在競争率が非常に高くなっている東北の諸県について,今回の東京と同じ統計図をつくってみようと考えています。