2012年5月11日金曜日

教員の自殺原因構成

前回は,警察庁の自殺原因統計をもとに,年齢層別の自殺原因構成を俯瞰できる統計図をつくりました。同庁の資料では,職業別の自殺原因も細かく明らかにされています。今回は,教員の自殺原因をビジュアルに一望できる図をつくってみようと思います。

 警察庁が毎年発行している『自殺の概要資料』によると,教員の自殺者数は,2007年が125人,2006年が128人,2009年が144人,2010年が146人,2011年が125人,というように推移してきています。ここでいう教員には,学校教育法第1条で規定されている正規の学校のほか,専修・各種学校などの教員も含まれます。しかるに,母集団の構成からして,多くが小・中・高の教員ではないかと推測されます。
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/link/keisatsutyo.html

 この5年間の教員の自殺原因がどいうものであるかをみてみましょう。それぞれの年について,教員の自殺原因の内訳をグラフ化しました。一人の自殺原因が複数にわたることもあるので,検出された自殺原因の総和は,自殺者の頭数よりも若干多くなっています(たとえば,2011年の原因の総計は149)。よって,下図で表現されているのは,検出された自殺原因の延べ数の構成であることに留意ください。


 5か年の統計をつなぎ合わせることで,ある程度恒常的な傾向が読み取れるかと思います。5か年の総計でみた自殺原因の上位5位は,うつ病,仕事疲れ,職場の人間関係,身体の病気,夫婦関係の不和,です。丸囲いの数字は順位を意味します。

 教員にあっても,自殺原因で最も多いのはうつ病となっています。どの年でも,全原因のおよそ3割がうつ病です。全体社会と同様,教員社会においても,うつが蔓延していることが知られます。

 しかるに,仕事疲れや職場の人間関係のような,勤務関連の原因のシェアが大きいのは教員の特徴です。前回みた人口全体の自殺原因では,これらの原因の比重はごくわずかでしたが,教員の自殺原因では多くを占めています。

 教員の過労やバーン・アウトが深刻化している状況です。仕事疲れについてはさもありなんという感じですが,職場の人間関係という原因も大きいのですね。最近,副校長や主幹教諭など,以前にもまして細かい職制が導入されています。教員組織の官僚制化・階層化が進行しているとみられます。また教員評価の導入など,教員間の分裂・差異化を促すような事態にもなっています。このようなことが,職場における人間関係の悩みのタネになっているのではないでしょうか。

 それと,夫婦関係という家族面の原因も大きいようです。教員は同業婚が比較的多いといいますが,教員夫婦はお互い多忙で,知らぬ間に夫婦関係に亀裂が入ってしまうこともあろうかと思います。職場のみならず家庭までもが緊張や葛藤の場になったのでは,たまったものではありません。

 人間の生活の場は家庭,職場,地域社会などからなりますが,これらの相異なる場の生活のバランスがとれている状態が望まれます。思うに,教員の生活は,こうした理想態からかなり隔たっているのではないでしょうか。生活の領分のほとんどが職場(学校)に侵食されているのではないかと思われます。

 総務省の『社会生活基本調査』では,対象者の1日の生活行動を仔細に明らかにしているのですが,職業別の集計もしてほしいところです。教員の1日を観察したら,相当の歪み・偏りが見出されるのではないでしょうか(家族との触れ合いの欠如など)。教員の生活構造のトータルな把握が求められます。教員も生活者です。教員の生活は,職場(学校)だけで営まれているのではありません。

 警察庁の資料からは,いろいろな属性について,上記のような統計図をつくることができます。小・中学生,高校生,大学生,失業者・・・。自殺原因を解剖してみたい人種は数多くいます。適宜,図をつくっていこうと思います。