2012年7月21日土曜日

チカン

最近,新聞などで,痴漢事件の報道に接することが殊に増えたように感じます。電車内で女性の体に触るというようなオーソドックスなものもあれば,精緻な小型カメラでスカート内を盗撮するというような,手の込んだ犯行もあります。

 「痴漢って,数でみてどれくらいいるんだろう?」。こういう素朴な疑問をお持ちの方もおられると思います。この疑問に正確に答えてくれる統計はないのですが,おおよその数を推し量ることは可能です。今回は,それをご覧に入れようと存じます。

 痴漢の多くは,各県の迷惑防止条例違反が禁じている「粗暴行為」に該当します。たとえば,東京都の迷惑防止条例第5条は,公共の場所又は公共の乗物において,正当な理由なく,「衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること」,「人の通常衣服で隠されている下着又は身体を,写真機その他の機器を用いて撮影し,又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け,若しくは設置すること」を禁じています。
http://www.reiki.metro.tokyo.jp/reiki_honbun/ag10122121.html

 しかるに,下着の中に手を入れるなど,あからさまな行為は,強制わいせつ罪という刑法犯に相当します。

 したがって,この2つの罪に問われた人間の数が,痴漢の量の近似値であると考えられます。双方とも,警察庁の『犯罪統計書』から知ることが可能です。最新の2010年の統計でみると,同年中に迷惑防止条例違反(粗暴行為)で検察送致されたのは5,588人,強制わいせつ罪で警察に検挙されたのは2,189人です。合計すると7,777人,1日あたりの数にすると約21人なり。
http://www.npa.go.jp/archive/toukei/keiki/h22/h22hanzaitoukei.htm

 迷惑防止条例違反がいう粗暴行為の全てが痴漢なのか,という疑問があるでしょうが,実態は限りなくそれに近いと推測されます。東京都でいうと,2010年中に同条例の粗暴行為相当で検察送致となったは1,957人ですが,その全員が「卑わいな行為」によるものとなっています(『警視庁の統計・平成22年版』)。*うち201人は「盗撮」。
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/toukei/bunsyo/toukei22/k_tokei22.htm

 さて,上記の7,777人という数字の性格を知るために,上記資料のバックナンバーをもとに,時系列推移をたどってみましょう。1970年(昭和45年)以降の,40年間の推移を明らかにしました。


 痴漢の近似量は,1970~80年代にかけて減少しますが,90年代になると増加に転じ,90年代半ば以降グンと増えています。これは,迷惑防止条例を制定する県が増えたためと解されます。

 しかし,それとは関係のない強制わいせつの検挙人員も増えていることから,この時期における「痴漢激増」の原因を,統制強化のみに帰することはできますまい。ちょうど,日本社会に暗雲が立ち込めてきた時期です。各種のストレスによって,この種の卑劣犯罪に手を染める輩が増えた,という説も成り立ちます。

 悲しいかな,痴漢の加害者の中に,子どもを教え導く存在たる教員が含まれることも少なくないのですが,御用となった先生の多くが動機として口にするのは「ストレス」です。

 前回の記事では,この10年間にかけて,教員の趣味・娯楽行動の実施頻度が下がってきていることを明らかにしました。そうした「あそび」の重要な機能の一つは,ストレス発散です。近年における教員の不祥事増,犯罪増は,教員の生活から「あそび」の領域が欠落してきていることに由来する,といえないでしょうか。少なくとも,教員をして各種の逸脱行動へと傾かせしむる(潜在的な)条件は強くなってきていることと思います。

 話が逸れましたが,頻繁に報道される割にはあまり明らかにされていない痴漢の量を,近似的に推し量ってみたら,上記の結果になったことをご報告します。