2012年9月9日日曜日

大学卒業者の無業者率,死亡・進路不明率

 8月30日の記事では,大学院博士課程修了者の無業率,死亡・進路不明率を明らかにしました。この記事に興味をもってくださる方が多いようですが,博士課程修了者は,数的にはごくわずかです。文科省の『学校基本調査(高等教育機関編)』によると,2011年春の修了生は16,248人。同世代の100人に1人というところでしょう。

 それに比べて,同年春の大学卒業者は552,358人と,それよりもはるかに多くなっています。34倍です。それもそのはず。今日,大学進学率は50%を超えています。博士課程修了者は100人に1人ほどでしょうが,大学卒業者は2人に1人です。

 今日では,多くの若者にとって,学校から職業への移行(Transition from School to Work)を期待されるのは,大学卒業時点(22歳の時点)であるとみてよいでしょう。世人,とりわけ子を持つ親御さんが関心をお持ちなのは,大学卒業者の進路(行く末)がどうなのか,ということではないでしょうか。

 今回は,大学卒業者について,上記の記事と同じ分析をしてみようと思います。大学卒業者の場合,博士課程修了者ほどの惨状は観察されないでしょうが,どれほどの無業者率,死亡・進路不明率が出てくるでしょうか。また,細かい学科別にみるとどうでしょうか。この点に関するデータをご覧に入れようと存じます。

 まずは,2011年春の大学卒業者55万2千人の進路構成を概観することから始めましょう。2011年調査では,7つの進路カテゴリーが設けられています。その構成を円グラフにしました。


 就職が61.6%と多くを占めます。この中には非正規就職も含まれますが,今日の大卒者の就職率は6割ですか。進学は12.8%です。ほとんどが大学院への進学者でしょう。

 次に,おめでたくない部分に目をやると,⑤と⑥と合わせた無業者が19.4%います。約2割。なるほど。新聞等で,大卒者の5人に1人が無業といわれますが,それに合致する数字です。死亡・進路不明者は2.4%,実数にすると,13,541人。このうち,死亡者というのはほぼ皆無でしょうが,就職失敗を苦にした大学生の自殺が取りざたされているご時世です。もしかしたら,侮れない数かもしれません。仮に1%だとしたら135人,0.1%だとしたら13人となります。

 5人に1人が無業,42人に1人が死亡・進路不明。これが大卒者全体の傾向です。では,博士課程修了者の場合と同様,細かい学科別の数字を出してみましょう。私は,大卒者の無業者率と死亡・進路不明率を,63の専攻ごとに明らかにしました。下記サイトの表77より必要な数字を採取し,率を計算しました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001037175&cycode=0

 下図は,横軸に無業者率,縦軸に死亡・進路不明率をとった座標上に,63の学科をプロットしたものです。縦長の図になっていますが,これは,学科名を書き込むスペースをとるためのもので,他意はございません。ブログの幅の関係上,ヨコには伸ばせないので,タテに伸ばした次第です。


 点線は,大学卒業者全体でみた比率を示唆します。右上には,音楽,美術,デザインといった芸術系の学科が位置しています。音楽学科卒業者の場合,無業率は37.7%,死亡・進路不明率は6.9%です。5人に2人が無業,14人に1人が死亡・進路不明です。ゲージュツの道は厳しい。

 中央付近よりも右上には,人文科学系や社会科学系の学科が群がっています。赤色は人文系のメイン3学科,緑色は社会系のメイン3学科です。数が多い文学関係学科卒業生の場合,無業率は26.0%,死亡・進路不明率は3.5%。約分すると,4人に1人が無業,29人に1人が死亡・進路不明ということになります。

 法学・政治学関係学科卒業生は,博士課程修了生と同様,死亡・進路不明率が高いのですが(4.5%),これは,司法試験浪人の存在ゆえでしょうか。しかし,この手の輩は,上記円グラフの⑥のカテゴリーに含まれるような気もしますが,どうなのでしょう。

 それはさておいて,図の左下には,理系の学科が多く位置しています。無業率,死亡・進路不明率とも低い「安泰」ゾーンです。まあ,理系の場合,大学院に進学する者が多いこともあるでしょうが。

 いかがでしょう。8月30日の図は,同世代の100人に1人にしか関係のないものですが,今回の図は,同世代の2人に1人が関係するものです。とくとご覧ください。

 ちなみに,学科は度外視して,47の都道府県を上記マトリクス上に散りばめると,どういう図柄になるでしょう。大卒者の無業率が県によってかなり異なるのは,昨年の2月8日の記事でみた通りですが,死亡・進路不明率という軸も加味した2次元の上で,47都道府県の大卒者の状況を評価するのもまた一興です。後の課題といたします。