2013年2月16日土曜日

国民のどれほどが働かなくてはいけないか

 前回は,30~40代男性の非労働力人口率の国際比較を行いました。私くらいの働き盛りの男性でも,就労意欲のない者が結構いる社会が存在することを知りました。

 この記事をみた方が,社会の皆が働かなくなるのは問題ではないか,というコメントをツイッター上でされていましたが,私とて,そのような事態を容認するのではありません。それは社会解体に他なりません。

 ですが,ニートのような輩が社会の中に一定割合で存在することは生理現象であり,決して病理現象ではない,という立場をとっています。世の中には,いろんな人がいるものです。

 ここにて,社会を回していくには,成員のうちどれほどが働かなくてはいけないか,という原理的な問題を立ててみましょう。むろん,答えを出せるような問題ではありませんが,現存するいくつかの社会を観察してみることで,判断の目安のようなものを得ることができるかもしれません。

 総務省統計局『世界の統計2012』の統計によると,2008年の日本社会では,総人口1億2,810万人のうち,就業しているのは6,385万人だそうです。比率にすると49.8%,ちょうど半分です。日本という社会は,国民の2人に1人が働くことで動いていることになります。
http://www.stat.go.jp/data/sekai/index.htm

 これは,東洋の島国・日本の数値ですが,他国についても同じ値を出してみましょう。私は上記資料をもとに,わが国を含む30か国の就業人口率を計算しました。働いている者(就業者)が国民全体のどれほどを占めるか,という指標です。分母の総人口は表2-4,分子の就業者数は表12-2から得たことを申し添えます。一部の国を除いて,双方とも2008年の数値です。


 算出された就業人口率が高い順に並べています。就業率が最も高いのは,中国です。この大国では,国民の約6割が働いています。

 それに次ぐのが,タイやベトナムといった東南アジア諸国。バックパッカーの楽園として知られるタイでは,労働を厭う者が多いのではないかというイメージを持ってましたが,そういうことでもなさそうです。ちなみに,日本の位置は6位なり。

 しかるに,表の下のほうをみると,国民の3人に1人,4人に1人しか働いていない社会も存在します。人質事件のあったアルジェリアでは,国民3,440万人のうち915万人しか働いていません。中東やアフリカの社会は,少ない人間の就業で回っていることが知られます。

 これらの社会では,子どもや高齢者が多いという人口要因も考えられますが,生産年齢人口(15~64歳)の割合は,トルコが67.7%,パキスタンが60.3%,エジプトが63.4%,南アフリカが65.2%,アルジェリアが68.4%であり,わが国(64.0%)と同じかそれよりも高いくらいです(2010年,国連中位推計)。
http://esa.un.org/unpd/wpp/unpp/panel_indicators.htm

 どうしようもない怠け者ばかりで,政府が仕事を用意しているにもかかわらず,それを拒んでいるのでしょうか。ですが,たとえば南アフリカの完全失業率がべらぼうに高いことはよく知られています。そういうことでもありますまい。

 社会というのはまあ,成員の3~4人に1人,ないしは5人に2人が働けば何とか動く,ということでしょう。高度な技術と生産力を持つわが国に至っては,少ない労働力で社会が回っていける条件が備わっています。前回の記事に対する,はてなブックマーク上のコメントに,次のようなものがありました。引用します。

 「社会の機械化とかITC化とか進むと,少人数で世の中廻せるようになるので,全員に仕事は廻せなくなり,こういう『世間から降りた人』を積極的に肯定できないと色々まずいことになる気がする」。

 現代日本の状況を言い当てた,的を射た意見であると思います。私も賛成です。働かない人間の存在を認めるか,それとも,それでは示しがつかないので,人を欺くような仕事であってもよいから,形の上において何が何でも就労させるか・・・。前者のほうがまだ,社会的な害は少ないのではないでしょうか。

 ベーシックインカム(全ての人に年収300万円を)という概念がありますが,これいいなあ。300万といわずとも,200万でいいからほしい。こういう制度を用意すると誰も働かなくなる,という懸念がすぐに出るのですが,どうなるかは分からないんじゃないかなあ。

 22歳の大卒者に,年収200万の「働かない」コースと,通常の「働く」コースの2つのオプションを提示した場合,やはり前者に偏るでしょうか。

 でも,こんな最低限の生活に甘んじるなんてご免だという人,何かしてないと退屈という人だっているでしょう。そういう人は,後者の通常コースをチョイスするでしょう。数的には,こちらのほうが多いのではないかなあ。

 この条件下では,ブラック企業が蔓延るようなことはありますまい。そんな所で働くくらいなら,年収200万の「働かない」コースにみんな逃げるからです。労働市場の健全化にもなると思うのですが,いかがなものでしょう。

 みっともない素人談義はくれくらいにして,「国民のどれほどが働かなくてはいけないか」という原問題に対しては,幅広い答えが用意されている,ということを押さえておきたいと思います。