2013年5月6日月曜日

東大・九大・鹿大合格者のジニ係数

 4月29日の記事では,東京のデータを使って,有力大学の合格者が一部の高校に著しく偏っていることを明らかにしました。今回は,私の郷里の鹿児島県を事例として,3つの国立大学合格者のジニ係数を出してみようと思います。

 3つの国立大学とは,東京大学,九州大学,そして鹿児島大学です。東大のジニ係数はおそらくすさまじいものでしょうが,地方の旧帝大の九大,地元の鹿大ではどれほどになるでしょう。個人的な興味を持ったので,数値を出してみた次第です。

 サンデー毎日特別増刊号『完全版・高校の実力』(2010年6月12日)から,2010年春の有力大学合格者数を高校別に知ることができます。鹿児島県の場合,同年の県内の全高校(95校)のうち,50校のデータが掲載されています(304~305頁)。

 私はこれを参照して,上記の3大学の合格者数を高校別に整理しました。載っていない45校は,合格者が0人であるとみなします。これらの高校の卒業生数(3,602人)は,2010年春の県全体の高卒者から,50校の卒業生を差し引いて出しました。

 前後しますが,原資料に載っている合格者数は延べ数であり,過年度卒業生も含むことを申し添えます。


 東大の合格者は県全体で54人。トップは私立のラ・サール高校の36人,その次は公立の鶴丸高校で15人です。No.18の甲南高校は私の母校ですが,この年は,東大合格者はいなかったんだなあ。私の時(1995年春)は,確か3人いたと聞いていますが。

 九大合格者になるとぱらぱらと数字が出てきて,地元の鹿大合格者では2ケタ,3ケタの数値も多くみられるようになります。地元の国立大学の場合,合格チャンスが比較的多くの高校に分散しているようです。

 では,その鹿児島大学について,合格者が県内の高校間でどれほど偏っているかを測ってみましょう。下表は,合格者の順に95高校(非掲載の45校は一括)を並べ,卒業生と合格者の累積相対度数を出したものです。


 黄色のマークに注意すると,卒業生の上では1割を占めるに過ぎない7高校だけで,合格者の51%が占有されています。原データを加工して累積を出してみると,地元の国立大学とはいえ,合格者の高校間の偏りは相当なものであることが知られます。

 続いて,ジニ係数を出すために,ローレンツ曲線を描いてみましょう。上表の累積相対度数からなる2次元のマトリクス上に各高校を位置づけ,線でつないだものです。緑色は鹿大,赤色は九大,青色は東大の曲線です。


 曲線の底が深いほど,高校間の合格者の偏りが大きいことになります。言わずもがなですが,鹿大→九大→東大というように選抜度が上がるにつれ,高校間の格差が顕著になってきます。それもそのはず。東大の場合,合格者を出しているのは95校中4校だけなのですから。

 さて,われわれが出そうとしているジニ係数とは,対角線と曲線で囲まれた面積を2倍した値です。算出された係数値は,東大合格者で0.9751,九大合格者で0.8684,鹿大合格者で0.7223でした。

 東大合格者のジニ係数がハンパないことは予想通りですが,九大や鹿大のそれもスゴイですね。地元の鹿大の場合,0.5~0.6くらいかなと踏んでいましたが,思ったよりも高い値が出ました。まだまだ高校間の偏りは大きいようです。

 高校入学時において,学力に基づくセレクトがなされているのだから,卒業時にこうした差が出るのは当然ではないか,といわれるかもしれません。しかるに,15歳時の振り分けの結果が,後々までこうも影響するというのはいかがなものか,という気もします。

 わが国は,高校間の「トラッキング」の縛りが強い社会であると思われます。「あの高校は・・・」というような世間の眼差し,「この高校に入ったらこういう進路」というような役割期待も濃厚です。こうした「社会的拘束」に由来する進路制約が存在することは疑い得ないところです。

 今回みたのは鹿児島のケースですが,地元の国立大学合格者のジニ係数がもっと小さい県があるかもしれません。そういう県では,どういうことがなされているかは興味深い問題です。たとえば,専門高校の生徒向けの指定入学枠制度など。

 地元の国立大学合格者のジニ係数地図をつくってみるのも一興ですね。鹿児島は0.7223でした。他の九州の県は如何。さしあたり,この部分から攻めてみようかしらん。