2013年7月5日金曜日

年齢層別のジニ係数の国際比較

 完全失業率,自殺率・・・。世間の耳目をひく統計指標は数多いのですが,富の格差の程度を測るジニ係数も,そのうちの一つであると思われます。

 昨年の5月8日の記事では,このジニ係数の国際比較を行ったのですが,今回は年齢層別の比較を手掛けてみようと思います。若年層ないしは高齢層に限定した場合,わが国の収入格差の程度は国際的にみてどうなのか。この点を知りたく思うのです。

 6月3日の記事では,雇用の非正規化・ワープア化が著しいのは20代であることを明らかにしました。若年層だけでみれば,持てる者と持たざる者の格差が顕著なのかもしれません。高齢層では,年金の有無等の条件がありますから,国民全体でみた場合よりも,収入格差が際立っているのではないかと思われます。各年齢層の格差の程度を,他の社会と比べてみましょう。

 『世界価値観調査』(5wave,2005-2008)では,15歳以上の対象者に対し,自分が属する世帯の年収(月収)の額を尋ねています。個人ではなく世帯の統計ですが,世帯は共同生活の基本的な単位ですので,まあよしとしましょう。

 上記の資料から,18の国について,年齢層別の月収ないしは年収の分布を知ることができます(現地通貨による)。私は,25~34歳と65歳以上の収入分布を明らかにしました。これを使って,各国の若年層と高齢層のジニ係数を出すのですが,一つの社会を例に,計算の過程をご覧いただきましょう。
http://www.wvsevsdb.com/wvs/WVSAnalize.jsp

 その社会とは,南米のコロンビアです。殺人発生率が飛びぬけて高く,「世界最国」などといわれますが,この国の若年層の収入格差はどれほどなのでしょうか。下表は,25~34歳が属する世帯の月収分布を,現地通貨(ペソ)で示したものです。


 最も多いのは,22万以上47万未満の世帯に属する者であり,その次が22万未満の最貧困層です。ほう。全体の6割近くの者が,この2つの階級に収まっています。人数の棒グラフからお分かりのように,下が厚く上が細いピラミッド型になっています。

 人数的には貧困世帯の住人が大半であるようですが,言わずもがな,彼らに配分される富の量はさして多くありません。

 階級値の考え方に依拠して,各階級の世帯の月収は,一律に中間の値であるとみなします。たとえば,22~47万の世帯の月収は,中間の34.5万ペソであると仮定します。最上位の250万以上の階級は上限がありませんが,一つ下の階級のレンジを適用し,250~330万の階級とみなし,中間の290万ペソを一律月収とします。

 この仮定によると,22万未満の世帯に配分された富は,11万×199=2,189万ペソとなります。22~47万の世帯にあてがわれた富は,34.5万×245=8,453万ペソです。10階級の合計値は,表の最下段にあるように4億2,935万ペソになります。

 この莫大な富が,10の階級にどう分配されたかは,中央の相対度数の欄に示されています。しかるに,人数の分布とのズレをみてとるには,右欄の累積相対度数のほうがベターです。どうでしょう。月収47万未満の貧困世帯は,数の上では6割近くを占めますが,この階級に行き届いている富は,全体の24.8%でしかありません。

 一方,黄色のマークの箇所をみれば分かるように,全体の1割を占めるにすぎない富裕層(月収115万以上)が,全富の34.0%をもせしめています。

 こうした歪みを可視化してみましょう。横軸に人数,縦軸に富量の累積相対度数をとった座標上に10の階級をプロットし,線でつなぎました。これがいわゆる,ローレンツ曲線です。曲線の底が深いほど,人数の分布と富量の分布のズレが大きいこと,すなわち収入格差が大きいことを示唆します。


 コロンビアの特徴を見出すため,北欧のスウェーデンの曲線も描きましたが,コロンビアは底が深いですねえ。若者が属する世帯の収入格差が大きい,ということです。

 われわれが求めようとしているジニ係数とは,図中の対角線とローレンツ曲線で囲まれた弓型図形の面積を2倍した値です。0.0~1.0の値をとります。*ジニ係数の計算方法の詳細は,2011年の7月11日の記事をご覧ください。

 算出された係数値は,スウェーデンは0.285,コロンビアは0.457にもなります。

 一般にジニ係数が0.4以上になるとヤバいといわれますが,コロンビアは,この危険水準を越えてしまっています。むーん。この社会で凶悪犯罪が多いのは,血の気ある若年層の収入格差が激しいことによるのかも知れません。

 私は,同じやり方にて,各国の若年層と高齢層の収入ジニ係数を計算しました。下図は,横軸に25~34歳,縦軸に65歳以上が属する世帯の収入ジニ係数をとった座標上に,18の社会を位置づけたものです。


 斜線は均等線ですが,やはりというか,若年層よりも高齢層で収入格差が大きい国が多いようです。もらえる年金はナンボか,養ってくれる(同居の)親族がいるか,というような条件が大きいでしょうしね。

 しかるに,ペルーやアメリカのように,若年層のジニ係数のほうが大きい社会もあります。最近のアメリカでは,若年層の貧困化(格差拡大)がすさまじいようですが(堤未果『ルポ・貧困大国アメリカ』岩波書店,2008年),その様相が可視化されているように思えます。

 さて,2次元のマトリクス上でみた日本の位置をみると,国際平均よりもちょっと下という辺りでしょうか。日本の係数値は,若年層が0.308,高齢層が0.330なり。しかし,これは2005年データのもの。より近況でみれば,右上にシフトしているのではないか,という懸念もあります。国内データでみると,ここ数年にかけてわが国の世帯ジニ係数はじわりじわりと上がっていますし。
http://tmaita77.blogspot.jp/2012/11/blog-post_30.html

 その(恐怖の)右上ゾーンには,先ほど例としたコロンビアのほか,同じく南米のペルー,そして中米のメキシコが位置しています。これは分かる気がする・・・。

 あと一つ,これは意外な点ですが,若年層の収入格差が18国で最も小さいのがフランスであることです。この国では,若年層の失業率がべらぼうに高くなっている,というニュースをよく見聞きするのですが,どういうことかしらん。2005年近辺というようにデータが古いためか,それとも若者が遠慮なく生活保護をガンガン受ける,というような事情によるのか。

 細部のコメントはこれくらいにするとして,あまり明らかにされたことのない,国別・年齢層別のジニ係数は,以上のように試算されたことをご報告いたします。来年には,2010年頃に実施されたWVSのデータが利用可能になります。その時,また同じ作業をしてみるつもりです。