2013年8月15日木曜日

戦争経験世代の量の変化

 今日(8/15)は終戦記念日ですが,12日の朝日新聞Web版に「戦争の闇,伝えたい 91歳元兵士,証言集をネットに」と題する記事が載っています。
http://www.asahi.com/national/update/0811/OSK201308100196.html

 福島県の佐藤さんという方ですが,今年で91歳ということは,1922(大正11)年のお生まれかと拝察します。終戦の年(1945年)は23歳。まぎれもなく,戦場で銃を握ったことのある世代です。

 しかるに現在,こうした戦争経験世代はどんどん減ってきています。「体で知っている戦争のばかばかしさを,しっかりと伝え残しておきたい」。こういう思いから,戦争経験者の証言集をネット上で発信する活動をされているとのこと。大変意義ある仕事と,敬意を表します。

 統計でみて,戦争経験世代はどれくらいいるのでしょう。統計量を把握するには操作的な定義が必要ですが,まず広義の戦争経験世代をして,1940(昭和15)年以前に生まれた世代とみなしましょう。この場合,最も下の世代でも,終戦時には5歳になっているわけですから,物心はついていることになります。

 このうち,上記の佐藤さんのように,戦場に召集されたことのある世代はというと,太平洋戦争中は,17歳以上の男子に「赤紙」という召集令状が送られていました。終戦の年(1945年)の17歳は,1928年生まれです。よって,この年以前に生まれた世代といたしましょう。名づけて,軍隊経験世代。

 この2つの仮定をもとに,戦場に行ったことはないが,戦争の怖さは肌身で知っているという,幼少期戦争経験世代も割り出すことができます。前者から後者を引いて,1929~1940年生まれ世代です。

 この記事では,この2つの世代の量を明らかにしてみようと思います。もう一度整理しておきます。

 ●軍隊経験世代 ・・・ 1928年以前生まれ世代
 ●幼少期戦争経験世代 ・・・ 1929~1940年生まれ世代

 私は,1歳刻みの細かい年齢別人口統計を作成し,各年において,この意味での戦争経験世代がどれほど存在するかを調べました。観察期間は,1950~2050年の100年間です。ソースは,2012年までは総務省『人口推計年報』,2013年以降は国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口(中位推計)です。
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/index.htm
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Mainmenu.asp

 どういうデータをいじったかについてイメージしていただくため,データベースの一部の写真を掲げておきます。


  手始めに,両端と中央(1950年,2000年,2050年)の3時点において,上記の意味での戦争経験世代がどれほどいるかをみてみましょう。全体から2世代を差し引いた分は,戦争非経験世代に相当します。


 1950(昭和25)年では,国民の半分が軍隊経験世代であり,幼少期経験世代までも含めると4人に3人。それもそのはず。当時の22歳以上の国民全員ですから。この頃は,ほとんどの家庭において,戦争の悲惨さ・愚かさについて,親から子へと繰り返し語り継がれていたことでしょう。

 そういえば,1958年の物語「三丁目の夕日」では,主人公の一平くんが「父ちゃん,戦争の話はもう飽きたよ」とかよく言っていますよね。

 しかし,半世紀を経た2000年では,戦争体験世代はすっかり高齢化し,量的にも少なくなります。今世紀の半ばの断面をみると,ほぼ皆無。よくいわれる,戦争経験世代の減少傾向がはっきりとみてとれます。

 以上は,3つの時点をかいつまんだラフスケッチですが,細かい逐年の傾向も表現してみましょう。下図は,3つの世代の構成変化を面グラフで表したものです。点線は,2013年現在の断面を意味します。


 時とともに,戦争の怖さを肌身で知っている2世代の量が減じていきます。2013年現在では,軍隊経験世代3.6%,幼少期戦争経験世代10.8%,非経験世代85.6%,という構成です。冒頭で紹介した佐藤氏は,28人に1人という,数少ない軍隊経験世代の一人ということになります。

 将来予測によると,2030年代の半ばには軍隊経験世代のほぼ全員が亡くなり,2040年代の中ごろには幼少期戦争経験世代もいなくなることが見込まれています。こういう状況のなか,佐藤氏のように,生の戦争体験・証言を記録し発信する活動は大変重要なことであると思います。

 加えて,人間は文字という偉大な伝達ツールを有していますので,戦争について書かれた本を子どもたちに読ませることも必要になってきます。「追体験」です。

 そのための書籍はいろいろあるでしょうが,私は,作家の西村滋さん(1925年~)の筆になる『お菓子放浪記』(理論社)がいいと思います。初(1976年),続(1994年),および完(2003年)の3部からなる,戦争孤児の物語です。


 戦争がいかに馬鹿げたことであるか,子どもの心にどれほど癒えることのない傷をもたらすか・・・。筆者の実体験にも依拠しつつ,生き生きと綴られています。今の子どもたちに戦争を「追体験」させるのに最適な書物であると私は思います。戦争孤児が焼け跡をたくましく生きるというような美談モノではありません。

 長くなりましたのでこの辺りで。 来週いっぱいまで酷暑が続くとのこと。熱中症にはくれぐれもご注意を。