2013年8月22日木曜日

純ニート

 無業かつ就業非希望。しかもその理由が,通学,家事・育児,進学準備,ボランティアというような,一般に想定されるものでもない。統計をみると,働き盛りの年齢層でも,こういう人間が結構います。

 前回は,20~40代人口のうち,「仕事をする自信がない」という理由での就業非希望者がどれほどいるかを明らかにしましたが,今回注目するのは別の部分です。それは,「特に理由はない」という就業非希望者です。

 この層の位置についてイメージしていただくため,当該年齢人口の内訳表を提示しておきましょう。2012年の『就業構造基本調査』をもとに作成したものです。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm


 働き盛りの年齢層のうち,無業かつ就業非希望であり,そのことの理由が定かでない者は49万3千人なり。ベース人口で除した比率にすると10.2‰,およそ100人に1人です。

 就業せず,教育も職業訓練も受けていない。これがよくいわれるニート(NEET)ですが,上記の約50万人は,就業意欲すら有しておらず,かつ,その理由が明確でない者です。「なんとなく(だるいから)働きたくね~」。こんな感じでしょうか。

 ネーミングが適切か分かりませんが,ニートの純度がより高いという点にかんがみ,ひとまず純ニートと呼んでおくことにしましょう。

 2012年では,20~40代の純ニートはおよそ50万人であり,ベース人口あたりの出現率は10.2‰ですが,この統計量を5年前と比較すると,下表のようになります。ジェンダー差もみれるようにしました。


 この5年間にかけて,実数でみても出現率でみても,純ニートの量が増えています。男性でみても女性でみても同じです。しかるに,出現率の水準は女性で高いようです。

 専業主婦の場合,出産・育児や家事という理由カテゴリーに収まるでしょうから,ここでいう純ニートにはほとんど含まれないと思われます。家事すらお手伝いさんに任せている有閑マダムでしょうか。それとも,親同居の未婚パラサイト女性か。あるいはヒッキー?

 いろいろ想像をめぐらすことができますが,上表の出現率が属性条件によってどう変わるかを観察することで,事態を少しは正確に推定できるようになるでしょう。ちょっとばかり試行してみたところ,学歴による差がクリアーであることを知りました。下表をご覧ください。


  性を問わず,低学歴群ほど純ニートの出現率が高くなっています。撹乱一つない,きれいな傾向です。中卒女性の場合,母集団あたりの出現率は29.3‰,34人に1人です。

 若者の純ニート化は,学歴によ疎外(差別),もっと広くいえば労働市場からの疎外の問題を色濃く含んでいるような気がします。中学時代の不登校経験者や高校中退者がニート化する確率が一般群に比して格段に高いことは,昨年の9月1日の記事でみた通りです。

 「ニート=怠け,平和ボケ」という解釈からは,うざったい説教論や精神論しか出てきません。求められるのは,階層的な要因とも関連があることをも見越した,社会的な視座でしょう。政府の白書の類では「階層」という言葉は滅多にでてきませんが,これはおかしなことではないかしらん。

 二神能基さんの『ニートがひらく幸福社会ニッポン-進化系人類が働き方・生き方を変える-』明石書店(2012年)を読んで,ニートはこれからの日本を変える「進化系人類」だ,という考えを持ちました。上表のような明瞭な学歴差がないなら,それが補強されたのでしょうが,現実はさにあらず。まだまだ,「社会的排除」の要素を含んだ問題であることに気づかされます。