2013年8月29日木曜日

生徒の将来展望の都道府県比較

 一昨日,2013年度の『全国学力・学習状況調査』の結果が公表されました。前々回は,児童・生徒の国際的視野に注目しましたが,今年度より,将来展望に関する設問も盛られています。以下のようなものです。
http://www.nier.go.jp/kaihatsu/zenkokugakuryoku.html

 ①:将来の夢や目標を持っていますか
 ②:将来の夢や目標を実現するために努力していますか
 ③:将来何かの職業や仕事に就いて働きたいと思いますか
 ④:将来なりたい職業はありますか
 ⑤:あなたには「あのような人になりたい」と思う人はいますか

 若者の就労不全兆候が問題化しているなか,こういう事項も数値化しておきたい,という思いからでしょう。結構なことです。

 今回は,この5つの設問への回答を合成して,中3生徒の将来展望がどれほど明瞭かを測る尺度をつくり,都道府県ごとの比較をしてみようと思います。義務教育の最終学年の中3ともなれば,将来展望の輪郭は描いていることが期待されますが,その達成度が(相対的に)高い県はどこでしょう。自県の位置は如何。私なりのやり方で,実態を浮かび上がらせてみました。

 私は,上記の設問に対する,公立中学校3年生の回答を県別に整理しました。①~④は「当てはまる」という強い肯定の回答比率,⑤については「ある」と答えた者の比率を拾いました。

 首都の東京でいうと,①は47.0%,②は28.3%,③は79.7%,④は68.1%,⑤は69.4%,となっています。これらを合成して将来展望の明瞭度を測る尺度をつくるのですが,値の水準が異なるので,そのまま平均するわけにはいきません。均すのは,各々を同列の基準で評価できる値に換算した後です。

 全県の分布幅(レインヂ)の中で,各県の値がどこに位置するかという,相対スコアを計算してみましょう。具体的にいうと,最高値を1.0,最小値を0.0とした場合,当該県の値はどうなるかです。

 下表は,それぞれの設問について,全国値および全県中の最高値・最低値を掲げたものです。煩雑さを避けるため,①は目標,②は努力,③は仕事志向,④は志望職業,⑤はモデル,というように簡略表記しています。


 将来の目標を持っている生徒の比率(①)は,54.0%~42.6%というレインヂですが,前者を1.0,後者を0.0とするとき,東京の値(47.0%)はどういう値になるでしょう。ここでは,OECDの幸福度指数(BLI)で採用されている,以下の計算式を用いることとします。

 (当該データの値-最小値)/(最高値-最小値)

 これに依拠すると,東京の47.0%という肯定率は,(47.0-42.6)/(54.0-42.6) ≒ 0.386,となります。全県の分布(0.0~1.0)の中における,東京の相対的な位置を表すスコアです。「中の下」というところでしょうか。

 私はこのやり方で,各県の5つの設問への肯定率を,0.0~1.0のスコアに換算しました。下表は,その一覧です。最高値には黄色,最低値には青色のマークをしています。


 右端は,5つのスコアを均した値です。この数値でもって,各県の生徒の将来展望がどれほど明瞭かを測ることにします。将来展望スコアとでも呼んでおきましょう。

 これをみると,ほう,トップは秋田ですね。学力1位に加えて,生徒の将来展望の明瞭度も1位。見上げたものです。ほか,値が高い県をみると,青森(0.751),山梨(0.776),広島(0.749),そして宮崎(0.743),というように地理的に分散しています。

 地域構造を押さえるため,このスコア値の地図をつくってみました。


 学力のように,濃い色の県が東北や北陸に集中するという構造にはなっていないようです。気になるのは,近畿圏が兵庫を除いて白一色であることくらいでしょうか。

 あくまで相対比較ですが,中3生徒の将来展望の都道府県差を浮き立たせてみました。次なる関心は,こうした地域差の要因ですが,どういうことが考えられるでしょうか。各県のキャリア教育の有様などいろいろ想起されますが,家族と将来のことについて話す頻度と相関しているようです。

 今年度の『全国学力・学習状況調査』の生徒質問紙調査では,「家の人と将来のことについて話すことがあるか」と問うていますが,「ある」と答えた公立中学校3年生の比率と,上記スコアの相関図を描くと下図のようになります。


 撹乱が結構ありますが,大まかには,家族と将来のことについて話す生徒が多い県ほど,将来展望の明瞭度スコアが高い傾向がみられます。相関係数は+0.409であり,1%水準で有意です。生活の大半を過ごす家庭での対話の頻度というのも,侮れない要因ですね。

 ところで,単一尺度に合成する前の5つのスコアを使うことで,生徒の将来展望の多角プロフィール図を描くこともできます。たとえば,以下のようなものです。


 これによると,どの面が突出していて,どこが凹んでいるのかが分かります。上記のスコア一覧表から数値を拾って,関心のある県のチャート図をつくってみるのも面白いでしょう。

 ちなみに,拙著『47都道府県の子どもたち(青年たち)』(武蔵野大学出版会)は,この図法(カルテ)を用いて,各県の子ども・青年のすがたを多角的に表現したものです。興味ある方は,お手にとってください。割引販売もいたしております。