2013年9月16日月曜日

高齢者の国際比較

 台風18号の騒ぎで隠れていますが,今日(9/16)は敬老の日です。これにちなんで,新聞等では高齢者に関する統計が報じられています。目につくのは,人口中の高齢者比率(65歳以上)であり,現在は25%くらいで,2050年には4割ほどになることが見込まれるそうな。

 これはこれで興味ある情報ですが,高齢者の相対比重だけでなく,彼らの生活の内実がどうかも知りたいところです。それは多岐にわたりますが,私は,高齢者の意識面に焦点を合わせ,健康状態意識,生活満足度,ならびに幸福度の自己評定結果を国ごとに比べてみました。

 孤独,生活苦,万引き等の犯罪増・・・。わが国の高齢者の状況を言い表す語は明るいものばかりではありませんが,上記の3項目のレベルは他国と比してどうなのでしょう。こういう関心を持った次第です。

 実証に用いたのは,2005~08年に実施された『第5回・世界価値観調査』(WVS)のデータです。各国の65歳以上の高齢者を取り出し,関連する設問への回答結果を国別に整理しました。分析対象は40か国です。本調査の対象は57か国ですが,高齢者の回答者数が100人に満たない国は対象から除外しました。
http://www.worldvaluessurvey.org/

 本題に入る前に,各国の高齢者の客観的状態をみることから始めましょう。私は,分析対象の国について,65歳以上の高齢人口比率を計算しました。2010年の数値であり,ソースは国連の人口推計サイトです。
http://esa.un.org/unpd/wpp/unpp/panel_indicators.htm

 また,各国の高齢者がどれほど働いているかという,就業率も出しました。上記のWVS調査において,フルタイム就業,パートタイム就業,自営・自由業のいずれかにカテゴライズされている者の比率です。無回答等を除いた有効回答の中での比率であることを申し添えます。

 下図は,横軸に高齢人口率,縦軸に高齢者の就業率をとった座標上に,それぞれの国を位置づけたものです。双方とも明らかにすることができた36か国がプロットされています。点線は,36か国の平均値を意味します。


 日本は,高齢人口率が最も高くなっています。わが国が世界で最も高齢化が進んだ社会であるのはよく知られていますが,働いている高齢者の率も国際的にみて高いのですね。36か国中6位です。発展途上国で高齢者の就業率が高いのは,農業などの自営業でしょう。

 人口の4分の1を占めるまでになると,65歳以上といえど生産人口の性格が強くなる,ということでしょうが,他の先進諸社会をみると,高齢者の就業率は軒並み低くなっています。

 先進国だけでみると,日本の高齢者の就業率は格段に高いのですが,社会保障の不備により,働かないと暮せな,という側面もあるのでしょうか。昨年の12月4日の記事でみたように,日本の少子高齢化の速度はズバ抜けているのですが,諸々の制度設計がそれに追いついていないのが実情です。

 それはさておき,高齢者の生活を規定する条件の一端を垣間見ましたので,本題に入りましょう。観察事項は,先に記したように,①健康状態,②生活満足度,そして③幸福度の自己評定結果です。

 ①は,上記のWVS調査の「全体的にいって,現在の健康状態はどうか」という問いに対し,「非常によい」ないしは「よい」と答えた者の比率です。②については,現在の生活満足度の自己評定点(10段階)を平均しました。③は,「全体的にいって,現在あなたは幸せだと思うか」に対する,「非常に幸せ」ないしは「やや幸せ」という回答比率です。*いずれも,N.AやD.K等の無効回答は集計から除外。

 下表は結果の一覧です。実値だけでは各国の位置がつかみにくいと思いますので,通信簿ではないですが,5段階評定も添えました。40か国を5分して,1~8位は5点,9~16位は4点,17~24位は3点,25~32位は2点,33~40位は1点,としています。上,中の上,中の中,中の下,下,というように読みかえていただいても結構です。


 3項目とも,社会によってだいぶ違っています。健康度では,スイスの高齢者の77.1%が健康と自己評定しているのに対し,ロシアではわずか9.8%です。気候故でしょうか。この大国では,高齢者の自殺率も高いといいます。

 生活満足度では,メキシコがトップですね。10段階の自己評定の平均は8.4点です。コロンビアも8.1点と高い。中南米ならではの楽天気質ってやつかしらん。主観的な幸福度も97.2%~51.3%というように,大きなレインヂが観察されます。

 さて日本の位置はというと,5段階の評定点は「3,3,4」となっていて,これらを均した総合評点は3.3点です。トータルでみて,高齢者の意識の良好度はちょうど真ん中辺りです。格段に酷くもなければよくもない。少しデータが古いですが(日本は2005年),まあ,国際的にみればこんなところでしょうか。リーマンショック等の惨劇を経た現在ではどうか分かりませんが。

 上表では,3項目の総合評点が4.0点を越える国は赤色にしています。高齢者が生きやすい国。北欧の福祉国家スウェーデンはオール5ではないですか。さもありなん。カナダ,スイス,そしてオセアニアのニュージーランドもオール5なり。モデルとすべき社会であるといえましょう。

 本日が敬老の日であることにかんがみ,高齢者(65歳以上)の生活意識の国際比較をなしてみました。資料としてご覧いただければと思います。なお,同じやり方で若年層や中年層の比較をしてみるのもまた一興。私くらいの年齢層だと,日本の芳しくない位置が露わになるかもな。

 今日は後期の初出勤日でしたが,台風のため見事休講になりました。明日は台風一過の青空が広がることでしょう。楽しみです。