2013年10月27日日曜日

若者にかかる圧力

 今朝方,20代の若者が上の世代から被る圧力の表現図をツイッターで発信したところ,みてくださる方が多いようです。戦後60年間の変化があまりにドラスティックだからでしょうか。
https://twitter.com/tmaita77/status/394250132876574720

 ブログにも転載しようと思いますが,そのままコピペというのは芸がないので,近未来まで射程を延ばした図に作り直してみました。1950(昭和25)年,2010(平成22)年現在,および2060(平成72)年の断面をご覧ください。前2者の図は総務省『国勢調査』,2060年の図は国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」をもとにしています。
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Mainmenu.asp


 ご覧いただいているのは,それぞれの時点における,わが国の年齢人口ピラミッド(5歳刻み)です。赤色は20代の若者ですが,この上に乗っかっている人口量(相対)が時代とともに増えていますね。

 「上は支えられる存在,下は支える存在」,「上は指導する存在,下は指導される存在」というように,年齢による役割規範が強い日本社会では,上図のような事態は,若者に対する圧力の強まりを意味しているともとれます。
 
 こうした圧力の強さは,図中の黄色の数値によって可視化されています。赤色の上に乗っている30歳以上人口を,赤色の20代人口で除したものです。この値は戦後初期の1950年では2.2でしたが,60年後の2010年には6.6となり,2060年には9.6にまで高まることが予想されます。

 近未来はおいておくとして,今の日本では,20代の若者1人につき年長者6.6人ですか。この6.6人の全てが一方的に寄りかかってくるだけの存在とは限りませんが,支えを求めてくる者,あれやこれやとうざったいことを言ってくる者がマジョリティーであることは否定できますまい。

 今は6.6人ですが,2060年には,若者1人に対し年長者9.6人という社会になることが見込まれます。9.6人分の「最近の若いモンは・・・」が1人にぶつけられたらたまらんだろうな。

 次に,国際比較をしてみましょう。私は,2010年近辺の54の社会について,同じ値を計算してみました。以下では,圧力係数といいます。用いた資料は,総務省統計局の『世界の統計2013』です。
http://www.stat.go.jp/data/sekai/index.htm
 
 ここでみる圧力係数は,20代人口と30歳以上人口という2つの要素から決まりますが,各国について,双方の量が分かるようにしましょう。国によって人口規模が大きく違いますので,全人口に占める相対量を使います。日本の場合,20代人口が10.7%,30歳以上人口が70.7%です。

 下図は,横軸に20代人口比率,縦軸に30歳以上人口比率をとった座標上に,54の社会をプロットしたものです。斜線は,後者を前者で除した圧力係数の値を表します。2.0,3.0,4.0,5.0,および6.0のラインを引きました。


 図をみると,日本は最も左上にあります。先ほど出した日本の6.6という値は,世界で一番高いようです。その次がイタリアで6.4となっています。わが国と同様,少子高齢化が進んでいる社会ですよね。

 6.0を越えるのはこの2つの社会だけですが,ドイツとフィンランドが5.0~6.0のゾーンに位置し,英米仏韓の4国が4.0~5.0のゾーンに散りばめられています。主要先進国の位置は,だいたいこの辺りです。

 一方,図の右下の2.0を下るゾーンには,アジアやアフリカの発展途上国が多く位置しています。若者と年長者の量がさして変わらない社会です。これらの社会では,寿命が短いためでしょう。

 ここでみたのは,20代の若者1人に対し,それより上の年長者が何人いるかという指標です。この値が高いことが,若者が手厚く保護される社会の条件となるのか,それとも,彼らにとって「生きづらい」社会が生まれることの条件をなすのか。どちらに転ぶかは,われわれ次第です。

 さしあたりなすべきは,年齢による(偏狭な)役割規範の克服でしょう。年長者の側も,自らが完成した存在であるかのごとく,上から目線で若者にあれこれと文句を言うばかりでなく,自分とて未完成の存在であり,若者と一緒に学ぶ,時には彼らに教えを乞う,というような謙虚な姿勢を持ちたいものです。

 2010年7月に策定された「子ども・若者ビジョン」は,「子ども・若者は大人と共に生きるパートナー」という理念を掲げていますが,人口構成が「歪」になっているわが国ほど,この理念の具現が求められている社会はないでしょう。
http://www8.cao.go.jp/youth/wakugumi.html

 前々回と前回みたように,最近の日本では,若者の自殺率だけが上昇しています。新卒重視採用,ブラック企業というような時代の病理を反映したものでしょうが,歪な人口構成・世代関係というような,より基底的な部分にも原因はありそうです。