2013年12月19日木曜日

殺人被害率の国際比較

 私は講義で,犯罪や自殺など「そっち系」の話をよくするのですが,「世界で一番ヤバい国はどこですか」と学生さんに聞かれることが多いです。ここでいう「ヤバい」というのは,治安が悪いという意味でしょう。

 治安の良し悪しを測る指標としてまず思いつくのは犯罪率ですが,どの社会においても,犯罪の多くはコソ泥であり,ちょっと物騒な国では強盗というところです。これらの場合,実際に起きていても当局に認知されない「暗数」や,統計のとり方の基準というような問題が付きまといます。後者についていうと,窃盗と強盗の線引きとかは,ビミョーな要素を含んでいます。

 しかるに,こうした問題の度合いが低い罪種が一つあります。それは殺人(homicide)です。殺人の場合,実際に起きた事件の大半が警察に認知されるとみてよいでしょう。血まみれの死体が転がっているわけですから。

 私は,UNODC(国連薬物犯罪事務所)の原統計にあたって,179か国の男女の殺人被害率を収集しました。ベース人口10万人あたりの殺人被害者数です。下記サイトの“Homicide by sex”という箇所をクリックすれば,エクセルファイルの表が出てきます。
http://www.unodc.org/unodc/en/data-and-analysis/homicide.html

 これによると,2009年の日本の殺人被害率は,男女とも0.4です。10万人あたりの殺人被害者数は0.4人という意味です。低いですねえ。海を隔てたアメリカは,男性が6.6,女性が1.9と記録されています(2010年)。

 では,179か国の殺人被害率をみていただきましょう。ベタな一覧表ではなく,横軸に女性,縦軸に男性の被害率をとった座標上に,179の社会を位置づけた布置図をご覧いただきます(点線は平均値)。各国の統計の年次は,2008~2010年のいずれかとなっています。先ほどみたように,わが国の被害率は2009年のものです。


 『犯罪白書』とかで主要国の殺人発生率の比較がなされ,アメリカがべらぼうに高いみたいなことが強調されるのですが,全世界のマトリクスでみたら全然低い部類じゃん。ドイツはわが国のすぐ隣。英仏は,ドイツと位置がほぼ同じなので色づけしていません。

 さて右上には,わが国よりも殺人被害率が数十倍高い社会が位置しています。ホンジュラス,エルサルバドル,ジャマイカは中米国,コートジボワールは西アフリカの国です。ウワサにはよく聞きますが,数値の上でもはっきり表れました。

 先週,冒頭の質問を学生さんに投げかけられました。「ツイッターかブログにデータをアップするから見てちょうだい」と言っておきましたが,見てくれるかしらん。授業に際しては,こういうツールも駆使しないといけませんね。あまり大学に行かない,私のような身の者にとっては。