2015年5月2日土曜日

大学生のバイト目的の変化

 大型連休が始まりましたが,いかがお過ごしの予定でしょうか。私は今のところ,どこも行く予定はありません。てか,年中休みのような私にとっては,生活に何の変化もありません。いつも通り,パソコンとにらめっこの日々になりそうです。つまんない人です。

 はて,学生さんはどうなのでしょう。毎年,連休前の授業で尋ねてみるのですが,「ずっとバイトです」という答えが多く返ってきます。

 まあ,私の頃もそうでした。バイトしている学生はたくさんいました。統計で学生のバイト実施率をみても,最近になってとみに増えているのではありません。しかし以前は,遊びのカネ目当てのバイトが多かったような気がします。たとえばGWのバイトにしても,夏休みに友達と海外旅行に行く金を稼ぐというように。

 ところが最近は事情が違ってきているようで,「バイトして,どっか遊びに行くの?」と問うと,「いいえ」と返されます。では,何のために? それは,統計データに語ってもらいましょう。全国一のマンモス私大の日本大学は,3年間隔で学生生活実態調査を行っています(学部学生対象)。その中で,バイトをしている学生に対し,バイトの主な動機・目的を尋ねています。6つの項目を提示し,2つまでを選んでもらう形式です。
http://www.nihon-u.ac.jp/about_nu/disclosure/research/

 各項目の選択率の推移をグラフにすると,下図のようになります。


 90年代半ばからの変化ですが,旅行やレジャーの費用を稼ぐ目的は減り,代わって,生活費・食費を得るためのバイトが増えてきています。2012年度では,バイト学生の半分近くが後者の項目を選択しています。

 私が学部学生だったのは95~99年ですが,当時は遊び目当てのバイトが一番多く,今は生活費稼ぎのバイトが最多であると。私が感じていることが,データで裏付けられました。学費・授業料稼ぎの率が増えていることにも注目。

 日本大学の調査報告書は,このデータについて,「景気の長期低迷による学生の家庭の経済事情が悪化していることを如実に反映している」(49ページ)と述べていますが,全くその通りだと思います。日本大学という一校のデータですが,全国の大学の状況がこれに近いとみてよいのではないでしょうか。

 「家庭の経済事情が悪化」といわれていますが,下宿学生への仕送り額もかなり減ってきています。全国大学生活協同組合の調査から,それを可視化できます。下図は,月額分布の変化を面グラフで表現したものです。
http://www.univcoop.or.jp/press/life/report.html


 私の頃は,月10万以上の「ウハウハ」君が6割を占めていましたが,近年はその比重が減じ,5万円未満が3割に達しています。なるほど,バイトの目的が遊び代稼ぎから生活費・学費稼ぎにシフトしているというのも,分かろうというものです。

 一昔前は,自分のゼミの学生がバイトしているとなると,教授は顔をしかめて「バイトなんかしないで,勉強に集中せい」みたいなことを言っていました。しかし今,こんなことを学生に言ったら,完全なアカハラです。その基底には,上記のような状況変化があることは言うまでもありません。

 図をよくみると,最近では0円(仕送りゼロ)の者も1割ほどいますが,このような学生に遭遇したことがあります。授業中いつも居眠りをしている学生で,呼び出して話を聞いたところ,週5日コンビニ夜勤とのこと。当人は家賃4万円のアパート暮らしで,実家からの仕送りは一切なし(親は学費負担で手一杯)。オール自活です。

 「お前は大学に何しに来てるんだ,何のために学生やってるんだ」と当人を詰問することはできますまい。私が言えたのは,「奨学金を借りて,ちょっとバイトの時間を減らしたらどうか」ということくらいです。

 最近は,「学生に勉強させるため,ガンガン課題を出してくれ」と大学に言われるのですが,こういう学生が少なくないとなると,その気も失せます。こんなことを言ったら,大学崩壊になってしまうかもしれませんが・・・。

 いずれにせよ,わが国の私費依存型の高等教育がそろそろ限界に達しつつあることは間違いないでしょう。高等教育は社会による違いが顕著で,費用負担の主体に着目すると,公費型と私費型の社会にくっきりと分かれます。言わずもがな,日本は後者です。
https://twitter.com/tmaita77/status/584172278889324544

 一般の買物と同様,高等教育の便益は個人に帰されるのだから,その費用は個人が負担すべきという考えもあるでしょう。ですが,多くの人がそれを高等教育を受けることで,高度な知識が広く普及する,知に裏付けられた道徳心が増す,犯罪が減るというような,社会全体にとっての利益も生まれます。知識基盤社会を標榜するわが国にあっては,こちらの面が強いことにも注意し,費用負担の構造を考えなおす時期に来ているようにも思えます。

 さて,連休の初日は晴れました。これが続くとよいですね。よいGWをお過ごしください。