2015年5月19日火曜日

設置主体別の大学進学率と県民所得の相関

 2013年の9月12日の記事では,都道府県別の大学進学率を計算したのですが,大学進学率の地域間格差は甚だ大きく,かつ,その格差は各県の所得水準と強く相関しています。高等教育機会の地域的不平等の問題を提起する,統計的な事実です。

 ところで大学といっても多様であり,設置主体に注目するならば,国立,公立,私立というように区分されます。どれも同じ大学ですが,それぞれに期待される機能,また地域的な分散度も大きく違っています。

 ゆえに,こうした設置主体別の大学進学率でみるならば,地域間格差の様相もまた違っていることが予想されます。こういうデータはあまりないようですので,ここにて,それを明らかにしてみましょう。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 まずは大学進学率の計算方法からです。詳細は上記の記事にも書きましたが,もう一度おさらいしましょう。ここでいう大学進学率とは,18歳人口ベースの浪人込みの進学率をいいます。これを都道府県別に出す場合,各県の高校出身の大学入学者数を,各々の推定18歳人口で除します。後者は,3年前の中学校・中等教育学校前期課程卒業者数で代替します。

 分子には過年度卒業生(いわゆる浪人経由者)も含まれますが,当該年の世代からも浪人経由の入学者が同程度出るものと仮定し,両者が相殺するものとみなします。

 私の郷里の鹿児島について,2014年春の国立大学進学率を出してみましょう。まず分子ですが,当該年春における,本県の高校出身の国立大学入学者数は2027人です。全国のどこかの国立大学に入った者の数です。分母の3年前の中学校・中等教育学校前期課程卒業者(推定18歳人口)は17130人。よって,本県の18歳人口ベースの浪人込み大学進学率は,前者を後者で除して11.8%と算出されます。

 この計算方法は私が独自に考えたものではなく,当局の資料(「学校基本調査」)でも採用されている公的なものです。同じやり方にて,2014年春の鹿児島の公立大学進学率と私立大学進学率を出すと,順に2.4%,20.8%となります。国立11.8%,公立2.4%,私立20.8%ですか。ちなみに首都の東京の大学進学率は,国立6.0%,公立1.0%,私立66.1%です。鹿児島は半分以上が国公立ですが,東京はほとんどが私立です。構造が全然違いますね。

 私はこのやり方に依拠して,2014年春の都道府県別の国立・公立・私立大学進学率を計算しました。以下に,その一覧表を掲げます。黄色は最大値,青色は最低値です。


 右端の私立大学の進学率は,東京が最も高く,岩手が最も低くなっています。誰もが知っているように,都市部で高く地方で低いという,非常に分かりやすい構造です。

 ですが,国公立大学の進学率は順に構造が全然違っています。こちらは,傾向としては地方県で高いようです。

 こういう性格の違いは,各県の所得水準との関連をグラフにすることでクリアーになります。冒頭の記事でみたように,国公私立をひっくるめたトータルの大学進学率は所得と強い正の相関にあるのですが,設置主体ごとの進学率にバラすとどうでしょう。

 私は,横軸に県民所得,縦軸に大学進学率をとった座標上に,47都道府県をプロットしてみました。青色は「所得×国立大学進学率」,赤色は「所得×公立大学進学率」,緑色は「所得×私立大学進学率」のドット分布です。


 私立大学進学率は,県民所得と強い正の相関関係です。明らかに,所得が高い県ほど進学率が高い。相関係数は+0.744であり,1%水準で有意です。

 しかし国公立の進学率は,所得との相関関係にあります。所得が低い地方県ほど率が高い傾向です。青色と赤色の相関係数は,47というデータ数を考慮すると,5%水準で有意と判定されます。

 ちなみに県民所得がかっ飛んで高い東京を「外れ値」として除外すると,各県の所得は,私立大学進学率とは+0.639,国立大学進学率とは-0.277,公立大学進学率とは-0.236という関係になります。後二者は統計的に有意でなくなりますが,相関の向きは同じです。図中の点の斜線は,東京を除外した場合の回帰直線です。

 以上のデータから,設置主体によって,大学進学チャンスの性格が異なっていることが知られます。故・清水義弘教授編『地域社会と国立大学』東大出版(1975年)でもいわれていましたが,国立大学は,地方の低所得層への高等教育機会供給に際して非常に重要な役割を果たしています。自地域の学生の授業料を割安にする公立大学などは,もっとそうでしょう。

 国立大学の学生は富裕層が多いということで,国立大学の授業料を私大並みに引き上げようという議論がされていますが,それが実現された暁には,上記のような(見えざる)機能が台無しになりそうです。

 国立大学といっても,東大のようなネイションワイドの旧帝大は確かに富裕層が多いことでしょう。この点は,私も明らかにしたことがあります。しかし,全国に散在するローカルレベルの国立大学(地方国立大学)は,様相が大きく異なっていると推察されます。そうでないなら,上図のような傾向が出てくることはないでしょう。
https://news.careerconnection.jp/?p=6969

 教育政策はえてして,(都心の永田町にて)ネイションワイドな次元で議論されがちですが,ローカルな視点を絶えず据えておくべきです。地方創生の旗が振られている今にあっては,なおさらのこと。今回はそうした視点から,今渦中にある国立大学の(見えざる)一面にスポットを当ててみた次第です。