2015年6月30日火曜日

2015年6月の教員不祥事報道

 気づいたら,もう6月も終わりです。ってことは,今年は半分が過ぎたってこと。ホント,早いですねえ。今年の6月は,例年に比して雨量が少なかったように思います。

 さて,恒例の教員不祥事報道の整理ですが,今月私がネット上で把握した不祥事報道は30件です。個人情報の紛失,児童ポルノを送らせる,さらには教育実習生へのセクハラなど,珍しい事案もみられます。実習生と指導教員の間には,明白な力関係があります。私の頃も,しつこく飲みに誘われたという女子学生がいました。この部分のセクハラは,暗数が多く潜んでいるかもしれません。

 明日から7月,今年も下半期です。本ブログの背景も,心機一転,晴れ模様にしました。がんばりましょう。

<2015年6月の教員不祥事報道>
消臭剤万引容疑 横浜の小学校教諭逮捕(6/2,神奈川新聞,神奈川,小,男,43)
教諭が飲酒運転で事故 相模原市教委、懲戒免職に
 (6/2,神奈川新聞,神奈川,中,男,26)
大津市立小教諭、酒気帯び運転で事故 別の教諭も同乗
 (6/4,京都新聞,滋賀,小女39,同乗:小男57)
危険ドラッグ輸入の疑い 群馬・太田市の小学校教諭を逮捕
 (6/4,スポニチ,群馬,小,男,53)
男性教諭が男子生徒の入浴写真を撮影(6/6,産経msn,神奈川,特,男,47)
修学旅行中の女子中生の胸触ったけど「わざとじゃない」(6/6,産経,京都,高,男,51)
教諭が答案紛失、また中間テスト 大阪の府立高(6/9,朝日,大阪)
千葉県の高校教師を懲戒免職、交通費を不正受給(6/9,TBS,千葉,高,男,43)
強制わいせつ容疑で中学教諭を逮捕(6/10,中日新聞,愛知,中,男,40)
痴漢容疑で中学教諭を逮捕(6/10,京都新聞,大阪,中,男,24)
答案返却忘れ、シュレッダーに…女性教諭を減給(6/10,読売,大阪,中,女,31)
強姦未遂容疑で逮捕の教諭、懲戒免職に(6/11,朝日,愛知,高,男,48)
小6男児を担任の講師平手打ち 10針縫う大けが(6/11,朝日,大阪,小,男,30代)
男子児童にキス 男性教諭懲戒処分
 (6/11,河北新報,宮城,わいせつ:小男58,公金着服:中男44)
50代担任、児童をいじめ 体かく動作をまねてからかう(6/12,朝日,福島,小,男,50代)
中学教諭、バイクの女子大学生ひき逃げ疑い(6/12,読売,滋賀,中,男,52)
<わいせつ行為>大阪市立小の男性教諭を懲戒免職(6/12,毎日,大阪,小,男,33)
「護身用に」ナイフを携帯、小学校教諭逮捕(6/12,日テレ,東京,小,男,24)
女子生徒の肩や腰「マッサージ」…教諭を停職に
 (6/13,読売,福島,わいせつ:高男51,性的発言:中男50,器物損壊:中男46)
「担任児童忘れないよう」私物メモリーに…紛失 (6/14,読売,熊本,小,男,40代)
PC部品などパンフに挟んで盗む…小学教諭逮捕(6/14,読売,静岡,小,男,53)
県教委、高校教諭を懲戒処分 女生徒を複数回触る
 (6/16,山形新聞,山形,高,男,50代)
県立高の臨時教諭、教材費19万円盗み逮捕(6/16,読売,広島,高,男,28)
同僚女性にセクハラ「指導のつもり」…教諭停職
 (6/17,読売,新潟,セクハラ:小男50,飲酒運転:高男56)
教育実習の女子大生に膝枕させる セクハラ中学教諭停職3カ月
 (6/17,高知新聞,高知,中,男,50代)
教諭 小中生に裸画像送らせる(6/23,ヤフーニュース,群馬,中,男,26)
教員、個人情報紛失 川崎市の市立中学校(6/24,神奈川新聞,神奈川,中,男,28)
児童ポルノで中学教諭逮捕=ネットで動画送信容疑(6/24,時事通信,大阪,中,男,25)
「通勤ストレス、露出で解放感」電車で下半身を露出、大阪市の講師を懲戒免職
 (6/25,産経,特,男,54)
教諭が体罰、児童けが 玉城町の特別支援学校 県教委に報告
 (6/30,伊勢新聞,三重,特)

2015年6月28日日曜日

若者の暴力認識のジェンダー差

 暴力とは何かについては,人によって認識が分かれるところです。殴る・蹴るといった有形力を伴う行為は多くの人が暴力と認めるでしょうが,怒鳴る,無視する,束縛するなどについては,判断が異なるでしょう。また,性による違いもあるかと思います。

 内閣府の「男女間における暴力に関する調査」では,複数の行為を提示し,それぞれが暴力に当たるかどうかを対象者に答えてもらっています。私は,20代男女の回答を整理してみました。拾ったのは,「どんな場合でも暴力である」という最も強い肯定の回答割合です。
http://www.gender.go.jp/e-vaw/chousa/h11_top.html

 最新の調査は2014年のものですが,時系列比較もしたいと考え,最も古い1999年のデータも採取しました。


 どの項目も,最近のほうが肯定率が高くなっています。今世紀以降,暴力に関する各種の啓発がなされたことの成果ともいえるでしょう。

 男女別にみると,増加幅は総じて女性のほうが大きく,その結果,多くの項目で肯定率のジェンダー差が開いています。赤字は女性と男性の差が8ポイントを超える項目ですが,1999年では1つだったのが,2014年では4つに増えています。

 変化の様相を分かりやすいグラフにしてみましょう。★は,2014年のデータで男女差が10ポイントを超える項目ですが,これらに着目すると,最近15年間の変化を象徴するようなグラフができます。横軸に「大声で怒鳴る」,縦軸に「交友関係やメールなどを細かく監視する」の暴力認識率をとった座標上に,両年の男女のドットを位置付け,線でつないでみました。


 ここ15年間の認識の高まりは女性で著しく,男女のドットの隔たりが大きくなっています。

 99年に男女共同参画社会基本法が制定され,それ以降の男女共同参画基本計画(1~3次)に基づいて,女性への暴力根絶に向けた取組が推進された経緯がありますが,その成果は,男女によって異なるようです。それまで黙っていた女性の口は開くようになったが,男性の意識はさして変わっていないと。
http://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/index.html

 DV加害者の大半が男性であることを考えると,上記の変化をもって,被害の顕在化(訴えの増加)は予測できても,暴力行為そのものの減少という事態を期待するのは難しいかと思います。今後は,男性を重点ターゲットとした取組・啓発が求められるのではないでしょうか。

 白書では,国民全体の暴力認識の高まりというようなことが報じられていますが,層ごとに分解して観察すると,違った様相も見えてきます。その作業は,今後の要注意層を検出することにもなります。全体を見た後は,部分を見る。この原則を忘れてはならないでしょう。

2015年6月27日土曜日

職業別の結婚チャンス

 見合い結婚が廃れた今日,結婚は「相思相愛」の男女の結びつきという様相を濃くしていますが,それを規定するのは「スキ!」という感情だけではありますまい。他にも,幾多の条件が関与しているとみられます。

 とくに男性の場合,相手の女性の恋愛感情を掻き立てる条件として,たとえば職業や収入などがあるでしょう。このブログでは,職業別や年収別の未婚率を明らかにしたことがありますが,結婚できる確率という点ではどうでしょう。

 私は,2010年の厚労省「人口動態統計」の職業集計にあたって,同年中の職業別の初婚者数を調べました。これを,「国勢調査」から分かる同年10月の職業人口(未婚)で除すことで,それぞれの職業の結婚率を算出した次第です。年齢は,結婚期の25~34歳に限定しています。それと,分子は外国人を含まない日本人の数なので,分母もそれに合わせています。


 管理職は結婚率が高くなっています。男女とも50%ほどです。この年齢の管理職は多くが起業者でしょうが,夫婦での企業が多いのでしょうか。

 管理職の次に高いのは,男性では専門技術職,女性では建設や機械運転といったブルーカラー職となっています。ブルーカラーの現場職では女性が少なく,希少性が際立つためでしょうね。

 あと一つ,無職者においてジェンダー差が大きくなっています。女性では12.7%ですが,男性ではわずか0.7%です。これも,さもありなんです。「定職ないオトコなんて…」という観念が強いですものねえ。若年の無職男性には病気がちの者が多いなど,別のファクターもあるでしょうが,日本的ジェンダーが垣間見れるデータです。

 しかし,5月23日の記事でみたように,専業主夫の量はじりじりと増えてきています。変化の兆しはないではありません。ひとまず,上記のデータから5年を経た2015年の統計的現実がどうなっているかに注目することにいたしましょう。

2015年6月23日火曜日

殺人発生率の国際ランキング

 週刊誌で報じられそうなテーマですが,国際機関の原統計にあたって,独自にランキング表をつくってみましたので,ここにて開陳いたします。

 私が参照したのは,国連薬物犯罪事務所の統計です。下記サイトの「Statistics on Crime」というページにて,国別の殺人発生率がエクセルファイルで公開されています。殺人発生率とは,人口10万人あたりの殺人件数のことです。

 私は,2012年の168か国の殺人発生率を自分のエクセルにコピペし,高い順に並べ替えました。作業はこれだけです。完成した表をみていただきましょう。国名も原資料のものをコピペしましたので,英文表記になっていますが,ご容赦ください。


 わが国は,10万人あたりの殺人件数はわずか0.33件であり,下から7番目です。他の先進国も,軒並み低い水準にあります。アメリカでさえ,真ん中の下あたりです。わが国のすぐ下には,このほど平和ランキングで首位に輝いたアイスランドが位置しています。

 さて,恐怖の左上に目をやると,2012年の殺人発生率トップは中米のホンジュラスです。10万人あたりの殺人件数は91.04件であり,ダントツです。いろいろな旅行記でこの国の治安の悪さがいわれていますが,統計にも表れています。

 赤字の10位は,ほとんどが中米・南米の社会です。この点も,さもありなんです。

 殺人という行為は,極限の危機状況に対する適応形態の一つですが,その対極は自殺です。「相手を殺るか,自分を殺るか」。攻撃の刃がどちらを向く傾向が強いかは,社会によって異なっています。この点は,殺人率と自殺率を同時に観察することで,浮き彫りにすることができます。それは,外向的か内向的かという軸での国民性を明らかにすることと同義です。

 言わずもがな,わが国は内向性の強い国民です。危機状況の面した場合,自らを殺める。外に危害をまき散らすことなく,大人しく死んでくれる。こういう内向的な国民性の上に,政府があぐらをかいていないか。常に,念頭に置いておくべき問いであると思います。

2015年6月21日日曜日

子どもの預けやすさと女性の有業率の相関

 子どもの預けやすさと女性の有業率は,おそらくは強く相関していることでしょう。都道府県単位の統計を使って,実証データをつくってみようと思います。

 まず,子どもの預けやすさですが,内閣府「地域における女性の活躍に関する意識調査」(2015年)の中に,該当する設問があります。高校生以下の子がいる成人男女(20~60代)に対し,「お住まいの地域では,子どもを保育所や学童保育,親族などに預けやすいと思うか」と尋ねています(Q15)。これに対し,「預けやすい」と答えた者の割合を使うことにしましょう。

 女性の有業率は,子育て期の30~40代女性のうち,働いている者(有業者)が何%かに着目します。資料は,2012年の総務省「就業構造基本調査」です。

 横軸に子どもの預けやすさ,縦軸に女性の有業率をとった座標上に,47都道府県をプロットすると,下図のようになります。


 非常に強い正の相関関係がみられます。相関係数は+0.7923にもなります。正の相関が出るとは予想していましたが,ここまで強い相関になるとはちょっと驚きです。ちなみに,30~40代女性の正規職員率とは+0.6539という相関です。

 子を預けやすい県ほど,子育て期の女性の有業率が高い,という傾向です。まあこれは分かり切ったことですが,もう少し深めてみましょう。横軸の預けやすさを,保育所(学童保育)への預けやすさと,親族への預けやすさに分解し,どちらが女性の有業率と強く相関しているかを検討してみます。抽象度を上げていうと,「公」と「私」のどちらの効果が強いかです。

 上記の内閣府調査では,先の設問に「預けやすい」と答えた者に対し,その理由を複数選択で聞いています(Q15-1)。「近くに保育所や学童保育があるから」と「近くの親族に預かってもらえるから」という理由の選択率を,上図の「預けやすい」率に乗じれば,子がいる対象者全体のうち,保育時(学童保育)に子を預けやすいと思っている者,子を親族に預けやすいと思っている者が何%かを出すことができます。

 たとえば東京都でいうと,「子どもを保育所や学童保育,親族などに預けやすい」と思っている者は34.8%で,このうち,その理由として「近くに保育所や学童保育があるから」を選んだ者は82.5%,「近くの親族に預かってもらえるから」を選んだ者は35.0%です。よって保育所(学童保育)に預けやすいと考えている者は,子がいる対象者全体ベースでみると,34.8×0.825=28.7%,親族に預けやすいと考えている者は,34.8×0.350=12.2%となります。

 私はこのやり方で,保育所(学童)への預けやすさ率,親族への預けやすさ率を県別に計算しました。下表は,その一覧です。最高値には黄色,最低値には青色のマークをつけ,上位5位の数字は赤色にしました。


 これら2つの「預けやすさ」指標と,子育て期の女性の有業率・正社員率との相関係数を出してみました。


 親族への預けやすさよりも,保育所への預けやすさのほうが,女性の有業率・正社員率と強く相関しているようです。正社員率との相関では,係数の差が大きくなっています。

 都道府県単位の単相関分析の結果ですが,親族への預けやすさよりも保育所への預けやすさのほうが,女性の有業率アップに寄与するのではないかとみられます。受け皿の効果の大きさは,「私」より「公」なのですね。昔は違ったのでしょうが,核家族化が進んだ現在では,こういう状況になっているのでしょう。

 育児にせよ介護にせよ,わが国では「家族依存型」の伝統が強いのですが,家族構造の変化により,それを賄うのが難しくなってきています。舵を切らねばならない時期に来ているのは明白で,その必要性も認識されているのですが,目下,それに向けた過渡期の段階です。今の保育所不足,待機児童問題は,こうした変動期の危機が反映されたものといえるでしょう。

2015年6月20日土曜日

脱ジェンダー意識の都道府県比較

 昨日,内閣府より「地域における女性の活躍推進に関する意識調査」という資料が公開されました。47都道府県の成人男女(20~60代)に,性別役割分業など,諸々のジェンダー項目に関する意識を尋ねています。
http://www.gender.go.jp/research/kenkyu/chiiki_ishiki.html

 この調査の目玉は,都道府県別のデータを出していることです。各県の男女共同参画政策関係者の参考になることでしょう。新聞でも,「男は仕事,女は家を守る」という性別役割観の賛成率の都道府県ランキングが報じられ,注目を集めています。トップは奈良の50.4%,最低は富山の37.2%だそうです。
http://mainichi.jp/select/news/20150619k0000e040158000c.html

 しかし,この設問だけの回答でもって,各県の県民のジェンダー意識を測るのはちょっと乱暴でしょう。上記の調査では他にも,いろいろなジェンダーの設問が盛られています。

 私は,8つの設問に対する回答を合成して,47都道府県の県民の脱ジェンダー意識を測る指数を計算してみました。伝統的なジェンダーに反対する考えがどれほど強いかを測る尺度です。

 本調査のQ4では,回答者本人のジェンダー意識を問うていますが,そこから8つの項目を抜き出してみました。丸囲いの番号は,調査票の項目番号です。冒頭のリンク先の調査票でご確認ください。


 上半分の4項目(①,③,④,⑤)については,否定の回答(3 or 4)の回答比率を拾います。下半分の4項目(⑥,⑩,⑪,⑫)のほうは,肯定の回答(1 or 2)の回答割合に着目します。

 どの項目でも,算出された比率にはかなりの地域差があります。8つの項目について,最高値と最低値を整理すると,以下のようです。繰り返しますが,①~⑤は否定,⑥~⑫は肯定の回答割合です。


 8項目のうちの半分は,最高値は北陸の富山となっています。働く女性が多い県として知られていますが,こういう脱ジェンダー意識ゆえでしょうか。対極をみると,奈良と長崎が2項目で最低値となっています。

 これら8つの項目の回答比率を合成して,脱ジェンダー意識の単一尺度をつくるわけですが,各々は値の水準が異なるので,単純に足したり均したりはできません。そこで,各項目の数値を,1~5の範囲内の収まる相対スコアに換算します。47都道府県中の最低値を1.0,最高値を5.0とした場合,いくらになるかです。この2点を通る関数式を求め,それを使って各県のスコアを割り出します。

 ①の性別役割分業観でいうと,最低値は49.6%,最高値は62.8%ですが,(49.6,1.0)と(62.8,5.0)の2点を通る一次関数式を求めると,Y=0.303X-14.03 となります。この式のXに,各県の実値を代入すれば,1~5の範囲に収まる相対スコアになります。首都の東京は56.2%ですので,これを代入して,東京の①の相対スコアは3.00となる次第です。47都道府県のレインヂ(1~5)のちょうど真ん中くらいですね。

 このやり方で,8項目の回答比率をスコア化し,それらを平均値をとりました。東京のスコアは,①が3.00,②が2.01,③が3.47,④が3.10,⑤が3.12,⑥が3.51,⑦が2.36,⑧が3.42ですので,これらの平均値は2.999となります。東京の成人の脱ジェンダー意識は,この値で測られます。脱ジェンダー意識指数と呼ぶことにしましょう。

 この尺度(measure)を47都道府県別に計算し,ランキングにすると,以下の表のようになります。


 県民の脱ジェンダー意識指数のトップは富山,2位は岩手,3位は山形です。東京は17位で,私の郷里の鹿児島は28位。鹿児島は男尊女卑とかいわれますが,下位の群ではないですね。最も低いのは,首相の出身県の山口となっています。

 この脱ジェンダー意識指数は,各県の第一次産業率と+0.404の相関関係にあります。傾向としては,都市県より農村県で,脱ジェンダー意識が強い,ということです。自営業では一家総出ですから,「夫はこう,妻はこう」なんて言ってられないのでしょうね。一方,大都市のリーマン世帯ではそうではないと。

 子育て期(30~40代)の女性の有業率とは+0.548,正社員率とは+0.512という相関です。やはり,伝統的なジェンダー観念と対峙する意識が強い県ほど,女性の社会進出は進んでいるようです。はて,こういう先進的な意識があるから働く女性が多いのか,あるいは逆に働く女性が多いという客観的事実が,県民の意識を規定するのか。因果の向きには2通りの解釈がありますが,私は後者のほうが強いのでは,と思っています。人々の意識は,居住地のクライメイトの影響を被るものです。

 個人レベルでいうなら,人々の脱ジェンダー意識は「低学歴<高学歴」でしょうが,都道府県統計でみると,高学歴が多い都市県で値が低くなっています。これは,個人の属性効果が,地域の文脈効果に回収されていることを示唆します。地域の効果,侮りがたしです。やはり対策は,地域レベルで行うべきであると思われます。戦略の重点は,県民,とりわけこれから社会に入ってくる子ども・若者が目にする客観的状態を変えることにおくべきで,そのことが,意識の変革にもつながるとみられます。

 マルクス流にいえば,意識が存在(状況)を決めるのではなく,存在(状況)が意識を決定する,です。

2015年6月18日木曜日

都道府県別の介護離職率

 高齢化に伴い,介護離職者が増えているといいます,2011年10月~2012年9月の1年間の介護離職者数は,およそ10万1,100人。最近では年間10万人の介護者が出ているわけですが。これは,日本経済全体にとってもダメージになるそうです。
http://www.asahi.com/articles/DA3S11810925.html

 対策は国レベルと同時に,地域レベルでも行わねばならないでしょう。そこで私は,都道府県別の介護離職率を試算してみました。こういうデータはあまり見かけませんので,資料としてここに提示しようと思います。

 2012年の総務省「就業構造基本調査」から,2011年10月~2012年9月の介護離職者数を知ることができます。冒頭でみたように,15歳以上の有業者全体でみると,その数はおよそ10万人です。しかしここでは,介護離職のリスクが大きい,35~64歳の有業者に限定することにしましょう。この層に限定すると,上記1年間の介護離職者は8万200人です。

 この年齢は,2012年の就業構造基本調査の調査時点(2012年10月)のものですが,設定した離職時期(2011年10月~2012年9月)と近いので,離職時点の年齢とみなしてもよいでしょう。

 これを当該年齢の有業者数で割って,率にしたいのですが,望ましいのは,上記期間の始点である2011年10月時点の有業者数です。しかし,この時点の35~64歳の有業者数を県別に知ることはできませんので,代替策として,翌年の2012年10月時点の当該年齢の有業者数を使うこととします。これは,2012年の「就業構造基本調査」に載っています。たった1年のラグですので,そう大きな違いはないとみてよいでしょう。

 2012年10月時点の35~64歳の有業者は,全国で4083万800人です。よって,全国の35~64歳の有業者の介護離職率は,分子の8万200人をこの数で割って,1万人あたり19.6人と算出されます。510人に1人。これが,最近の中高年労働者の介護離職率です。

 私は,この値を都道府県別に計算しました。47都道府県にバラすと,分子の数が少なくなってしまいますが,介護離職の確率(リスク)の測定指標としては使えるでしょう。


 トップは,わが郷里の鹿児島で,2位以下を大きく引き離しています。最低の山形の約4倍です。上位5位(赤色)は,いずれも西の県です。

 ここで出した各県の介護離職率は,高齢人口率のような指標とは相関していません。それぞれの県の家族形態,病床数,福祉施策,企業の福利厚生など,さまざまな条件と複合的に関連しているとみられます。

 もやもやとしていた,介護離職のマグニチュードと県別の相対順位を明らかにした,一つの試みです。計算にやや乱暴な仮定が含まれてはいますが,各県の関係者の参考になればと思います。

2015年6月15日月曜日

累積相対度数の用途

 昨日,介護職員の悲惨を報じた記事が目につきました。「お昼にコンビニ弁当食べるのが夢 年収230万円・独身44歳男性介護職員の嘆き」というタイトルです。
http://dmm-news.com/article/975585/

 私はこの記事に触発されて,介護職員の月収分布のグラフを2つ発信しました。1つは,単純な構成比(相対度数)の折れ線グラフです。あと一つは,低い階層から積み上げた累積相対度数のグラフです。

 今日の朝,メールを開いたら,後者のグラフの見方がよく分からない,という質問がきていました。「介護職員は,月収20円未満の者が全体の半分を占める」という点を強調するために,累積相対度数にしたのですが,一般には,あまり馴染みのない表現法なのでしょうか。

 グラフに使った元データは,以下です。2014年の厚労省「賃金構造基本統計」から計算した,10人以上の事業所に勤める一般労働者の月収分布です。全体(2216万人),介護職員(70万人),医師(7万人)の分布を明らかにしています。左側は相対度数,右側は低い層から積み上げた累積相対度数です。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html


 全体を100とした相対度数をみると,最頻階級(Mode)は,介護職員が18~19万円台,全体が20~21万円台,医師が120万円以上となっています。折れ線のグラフにすると,下図のようになります。分布の形状を表すのに使われる,最もポピュラーなグラフです。


 図から分かるのは,医師は高年収,介護職員は低年収のほうに著しく偏していることです。全体の曲線は,中央に山があるノーマルカーブになるかと思いましたが,女性や高齢者も含む分布ですので,介護職員ほどではありませんが,低い側に厚みが出ています。

 このグラフから,年収の大よその水準とバラつきは知ることができますが,「ここまでで全体の何%が占められる」ということは読み取れません。そこで効を発揮するのが,下から積み上げた累積相対度数のグラフです。上表の右欄の数値を折れ線のグラフにすると,こうなります。


 累積相対度数が50%と80%のラインを引きましたが,介護職員の場合,全体の半分が月収20万未満,8割が月収24万未満の層であることが分かります。月収30万になるとほぼ天井に達することから,この水準を超える者はほとんどいないことも知られます。

 簡単にいうと,半分が月収20万未満,8割が24万未満,ほぼ全員が30万未満,ということです。医師は逆に読んで,半分が月収60万以上,2割が月収100万以上と読むとよいかと思います。

 下から積み上げる累積相対度数は,「ここまでの層で全体の何%が占められる」という情報を読み取るのに適しています。タテに線を引いて,月収20万未満が介護職では半分,全体では3割弱を占める,という読み方をしてもよいでしょう。

 昨年の11月20日の記事では,このやり方にて,首都圏内における,情報通信産業(IT産業)従事者の地域集中度を明らかにしたのでした。

 累積相対度数は,中学校の数学の教科書にも載っていますが,こういう材料を使うと分かりやすいかと思っています。私の授業では,学生さんが興味を持ちそうな教材を使うことにしています。度数分布にせよ,教科書に載っているつまらない架空の点数分布のデータではなく,職業別の年収分布などのデータを与えてみると,目の色を変えてグラフを作るものです。

2015年6月14日日曜日

NEWSポストセブン記事にてコメント

 6月7日の記事で報告した,中高年未婚者の不幸感のデータが,小学館Web誌「NEWSポストセブン」にて紹介されました。私も,コメントを寄せています。

「日本の中高年未婚男性の不幸感が突出しているのはなぜか」
http://www.news-postseven.com/archives/20150614_328727.html

 どうぞ,ご覧ください。

2015年6月13日土曜日

保育所供給率と出生率の相関

 表記のテーマは,子育て施策関係者の大きな関心事でしょう。この点については,都道府県単位のデータによる分析はありますが,県という単位は大きすぎます。それに,都市と農村という基底的な条件の違いがあり,三世代世帯率のような,他の要因の影響が入ってくる恐れがあります。

 そこで私は,大都市という基底的特性を同じくする東京都内23区のデータを使って,この問題を検討してみることにします。

 まずは,出生率が区ごとにどれほど違うかを明らかにしましょう。出生率とは,2013年中に25~34歳の母親から生まれた新生児数を,同年1月1日時点の25~34歳の女性人口で割った値とします(分子・分母とも日本人)。出産期の女性千人あたり,何人の子が生まれたかです。

 たとえば足立区でいうと,分子は3274人,分母は38863人ですから,出生率は84.2‰となります。分子の出所は「東京都人口動態統計」,分母の出所は「東京都住民基本台帳」です。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kiban/chosa_tokei/eisei/jinkou.html
http://www.toukei.metro.tokyo.jp/juukiy/2013/jy13000001.htm

 このやり方で,2013年の23区の出生率を計算し,マップにしてみました。


 ほう,色が濃いゾーンは固まっていますね。東で高く,西で低いという,「東高西低」の模様です。最高値は江戸川区の89.0‰,最低値は渋谷区の51.7‰となっています。前者は後者の1.7倍です。大都会の内部でも,出産期の女性から何人の子が生まれるかは,区によってかなりの差があるようです。

 ここでの関心は,今明らかにした各区の出生率が,保育所の供給量とどう相関しているかです。共働きの風潮が高まっていますので,幼子を長時間預かってくれる保育所の供給量が多く区ほど,出生率は高いのではないか。これが仮説です。

 保育所供給率をどう計算するかですが,基本的な考え方は,保育所を求める需要層あたりでみて,保育所入所のイスがどれほど用意されているかです。分子となる後者は,2013年4月1日の認可保育所定員を使うこととします。資料は,「東京都福祉・衛生統計年報」です。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kiban/chosa_tokei/nenpou/2013.html

 このイスを求める(奪い合う)需要層としては,先ほどの出生率算出の分母として用いた,25~34歳の女性人口を充ててよいでしょう。0~5歳の乳幼児人口を使う案もありますが,この数は,「産む」という選択を経た後の数です。それよりも,子を産むかどうかを決定する主体である,出産期の女性人口をベースにするのがよいと思います。その意思決定に際しては,自地域の保育所整備状況も勘案されることでしょう。

 以下に,区別の出生率と保育所供給率の一覧を掲げます。計算に使った,分子・分母の数値も入れます。率の最高値には黄色,最低値には青色のマークをしました。赤色は,上位3位です。


 出生率の地域差は先ほど見たとおりですが,保育所供給率も区によって違いますね。最低の杉並区と最高の葛飾区では,3倍の開きがあります。前者の杉並区では,保育所定員の拡充を求めるママさんらの運動が起きたのでした。

 表の数値をみると,保育所供給率も「東高西低」のような感じです。率が高いのは,墨田区,江東区,足立区,葛飾区,江戸川区など,東部の区がほとんどです。

 それでは,両者の相関図を描いてみましょう。横軸に保育所供給率,縦軸に出生率をとった座標上に,23の区を位置付けてみました。


 保育所供給率が高い区ほど,出生率が高い傾向がみられます。相関係数は+0.782であり,1%水準で有意です。保育所の整備は,出生率の向上に寄与する,ということでしょうか。

 昨晩,ツイッターでこの図を発信したところ,「頷ける結果だ」という反応が結構ありました。実際の経験から,「保育所供給率と出生率がキレイに正相関しているのは納得」とのことです。
https://twitter.com/hoshina_shinoda/status/609322559809548288

 「母親を家庭に押し込める」ではなく,「母親の就業チャンスを促す」というのが,出生率向上の施策の基本スタンスとなるべきなのでしょうね。

 前に,同じく都内23区のデータを使って,保育所供給率と母親の就業率の相関を検討したところ,こちらも強い正の相関でした。この記事をみた,某市の議員さんが,「出生率と保育所数の相関のデータはないか」と言ってこられたことがあります。あれば,議会質問に使いたいとのことです。それに使えるデータかは知りませんが,こういう傾向が出ましたので,ここに提示しておきたいと思います。

2015年6月11日木曜日

有配偶者と未婚者の危機比較

 前回は,中高年男女の不幸意識が,既婚者と未婚者でどう違うかを明らかにしました。単なる好奇心からの分析でしたが,見てくださる方が多いようです。
https://news.careerconnection.jp/?p=12704

 そこで分かったのは,わが国の中高年男性の未婚者において,自分を不幸と考える者の割合が飛びぬけて高いことです。既婚者と未婚者の差は,世界一。いつまでも結婚できない男性の苦悩が,露わになったわけです。

 人口のボリュームが多いこと,未婚率が高まっていることから,中高年の未婚男性は量的に増えていることでしょう。「まさに俺のことだ」という当事者意識を持たれた方も多いのでは,と推察します。

 しかるに,「あなたは幸福ですか?」という意識調査の設問には,回答のバイアスがかかります。「幸福」といっても,人によって受け取り方は異なるでしょうしね。そこで今回は,客観的な行動頻度の統計によって,有配偶者と未婚者の危機量を比較してみようと思います。用いるメジャーは3つ。死亡率,生活習慣病死亡率,そして自殺率です。

 厚労省の「人口動態統計」には,性別・年齢層別・配偶関係別の死亡者数が,主な死因ごとに掲載されています。2010年の資料によると,私の属性(30代後半の未婚男性)の全死亡者数は2698人,うち生活習慣病(がん,心臓病,脳卒中)の死亡者数は821人,自殺者は898人です。

 2010年の「国勢調査」から分かる,同年10月時点の30代後半の未婚男性は172万1222人。よって,ベース人口当たりの死亡率にすると,全死亡率はベース1万人あたり15.7人,生活習慣病死亡率はベース1万人あたり4.8人,自殺率はベース10万人あたり52.2人と算出されます。

 私はこのやり方で,3つの危機指標の値を,性別・年齢層別・配偶関係別(有配偶or未婚)に計算しました。下の表は,結果の一覧表です。


どうでしょう。全体的にみて,女性より男性で高いですね。そして男女とも,有配偶者より未婚者で率が高く,年齢が上がるにつれ,その差が開いていきます。

 グラフにすると,様相がもっと分かりやすくなります。


 トータルの死亡率と生活習慣病死亡率は,二次関数を思わせるきれいな曲線です。有配偶者と未婚者の差は,女性より男性で大きくなっています。生活習慣病は,食生活の乱れが効くのではないでしょうか。

 一番下の自殺率は,男性にあっては,有配偶者と未婚者の差がもっと際立っています。「人は何らかの集団に属することなしに,自分自身を目的にしては生きていけない」。デュルケムの明言ですが(「自殺論」),男性あっては,家族が「生の目的」となる度合いが高いとみられます。前回の言葉でいうと,男性がいかに家族に依存しているかです。

 社会的存在の人間は,集団に属することで情緒の安定を得ますが,ことにわが国の男性にあっては,それが得られる場が「家族」に集中してしまっているのではないか。こういう問題も提起できるでしょう。これは,職業集団や地域集団の機能不全に関わる問題でもあります。

 昨日,前回の記事に関連して,某Web誌の電話取材に応じたのですが,その記事が週末に出るかと思います。そこにて,今述べた問題について触れられています。記事が出ましたら告知しますので,ご覧いただければと存じます。

 ひとまず,幸福度というような主観の指標ではなく,死亡確率という客観的な危機指標でみても,未婚男性に危機が集中している構造があることを,ご報告しておこうと思います。

2015年6月7日日曜日

中高年未婚者の不幸感

 既婚者と未婚者に,「あなたはどれくらい幸福ですか」と尋ねたら,否定の回答はおそらく後者のほうが多いでしょう。

 毎度使っている「世界価値観調査」(2010~14年)では,各国の対象者に上記の事項を尋ねています。日本の30~50代男性のサンプルを既婚者と未婚者に分け,この設問に「あまり幸福でない」ないしは「全く幸福でない」と答えた者の比率を出すと,前者が6.5%,後者が43.5%と大きな差があります。

 「そんなものだろう」と思われる方もいるでしょうが,中高年の既婚者と未婚者の不幸感の差は,社会によって違います。また,ジェンダーの差もあります。

 私は,各国の30~50代男女の不幸感を,既婚・未婚別に出してみました。比較するのは,男性既婚,男性未婚,女性既婚,女性未婚の4群ですが,いずれかのサンプル数が40人に満たない国は,分析から除外することとします。*ここでいうサンプル数とは,幸福感の設問に有効回答を寄せた者です。

 この基準をクリアしているのは,わが国やアメリカなどの主要国を含む,23の社会です。これらの社会について,4つの群の不幸率をまとめてみました。「幸福か」という問いに対し,「あまり幸福でない」もしくは「全く幸福でない」と答えた者の割合(%)です。


 わが国と同様,多くの社会において,中高年の不幸感は既婚者より未婚者で高くなっています。男性における既婚者と未婚者の差は,日本が最大です(37.0ポイント)。一方,女性の既婚と未婚の差は,あまり大きくありません。未婚,すなわち家族を持てないことの不幸は,わが国あっては,男性に集中する度合いが高いようです。

 日・韓・米・独・瑞(スウェーデン)の主要国の数値をグラフにしてみましょう。男女の既婚・未婚者の不幸率を,シンプルな棒グラフにしました。


 日本の中高年未婚男性の不幸率がダントツです。どの社会でも,女性より男性,既婚者より未婚者という傾向はありますが,日本はそれがことに際立った社会といえます。

 家事力のない独身男性は生活が荒む,情緒安定の場を得られないなど,いろいろな事情が考えられますが,男女の役割差が大きい日本では,それがとくに顕著ということなのでしょうね。わが国の男性がいかに「家族」に依存しているか,いかに「弱い」存在であるかの証左ともいえましょう。

 家族が男性の「生」にとって重要な意味を持つことは,男性の離婚率と自殺率の観察からも知ることができます。男性と女性では,両指標の関連の仕方が異なることにも注意。この点については,日経デュアル誌に書きましたので,興味ある方はご覧ください。

2015年6月6日土曜日

『教育社会学研究』の歴代編集長・採択率

 土曜の昼ですが,いかがお過ごしでしょうか,今日はちょっと涼しいですね。

 ヒマなんで,ある表をつくってみました。日本教育社会学会の学会誌『教育社会学研究』の歴代編集長と採択率のまとめ表です。

 この雑誌はオンライン公開されており,現在,Ciniiのサイトで第1集から88集まで(2011年)まで閲覧することができます。私は,各号の「編集後記」を参照して,歴代の編集委員長・副委員長のお名前(敬称略)と,自由論文の投稿数と採択数を整理しました。

 ここにて掲げるのは,第15集(1960年発刊)からの推移です。データが分かるセルを埋めています。第89集以降は,まだオンライン公開されておらず,紙冊子でしか「編集後記」を見れないのですが,89集から94集までが手元に見当たらないので,ペンディングにしています。当該の号が手元にある方は,補足なさっていただければと思います。すみません。


 本誌は1989年以降,年2回の発刊となっています。編集長・副編集長の赤字は,私が東京学芸大学で教えを受けた恩師です。松本良夫先生は86~89年に副編集長,陣内靖彦先生は96~97年に編集長を務められました。

 自由論文の採択数を投稿数で割った「採択率」をみると,やはりといいますか,低いですねえ。今世紀以降では,多くの号で採択率が2割を切っています。ゴチの赤字は,採択率が10%未満の号です。私は第82集(2008年)に載せていただきましたが,この号は大変だったんだな。

 競争の激化は,数字でも知られます。採択率の平均値を出すと,90~94年が28.7%,95~99年が29.1%,00~04年が21.2%,05~09年が17.1%です。2010年以降は,この表では分かりませんが(重ねてすみません),4つの数値の見る限り,さらに激戦化していると思われます。院生が増えているからでしょうね。

 タブー視されているのか,こういうデータはあまり見かけないので,作ってみた次第です。ペンディングにした箇所は,大学図書館に足を運んだときに調べ,埋めようと思います。

2015年6月5日金曜日

大学生の組成図(その3)

 5月30日の記事では,設置主体別・専攻別の大学学部学生の組成図を作ったのですが,性別も組み入れてはどうか,というご意見をいただきました。確かに,ジェンダーも重要な変数ですよね。

 元データは,文科省の「学校基本調査(高等教育機関編)」に当たればすぐにできます(下記サイトの表10)。2014年5月時点の,性別・設置主体別・専攻別の学部学生数は以下のようです。総計,約255万人なり。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001055994&cycode=0


 総計255万人のうち,女子学生は112万人であり,女子比は44%となります。赤色は学生数が10万を超えるセルですが,トップは私立男子の社会科学で49万人です。この層だけで,全体の2割ほどを占めています。私が教えている学生の多くもココです。

 それでは,上表のデータを視覚化しましょう。先の記事と同様,それぞれのセルの量を面積で表すモザイク図を使います。


 まずヨコを男子と女子で分かつと,おおよそ「6:4」の比です。その下を国公私で分かつと,私立がマジョリティー。タテは,10の専攻で区分けしています。

 大学生のみなさん。上記の図から,自分のグループの位置と,全体の中での相対量を読み取ってください。それぞれのセルを,卒業生のニート率の水準で塗り分けても面白いですよね。90%以上を黒,80%台をグレー,80%未満を白,というように。濃い色の分布は,どうなるか。

 私は,こういう解剖図を描くのが好きです。医学に人体解剖図が必要なのと同じく,社会病理学には社会(集団)の解剖図が欠かせません。そして,その中のどこが病んでいるかを突き止めるのが,いわゆる社会診断。私の主な仕事の一つです。

2015年6月4日木曜日

学歴効用の国際比較

 日本は,学歴社会であるといわれます。学歴社会とは,地位や富の配分に際して,学歴がモノをいう度合いが高い社会です。

 その程度は国によって様々でしょうが,わが国は,世界的にみてどの辺りに位置づくのでしょう。今回は,学歴社会の度合いの国際比較をしてみようと思います。具体的にいうと,収入決定に際して,学歴が影響する度合いの比較です。この点については,幾多の専門的な研究がありますが,できるだけ多くの社会のデータを使った検討をしてみようと思います。

 用いるのは,「世界価値観調査」(2010~14年)のデータです。この調査では,対象の国民に対し,自分の世帯の年収が自国の中でどの辺りに位置するかを10段階で尋ねています。
http://www.worldvaluessurvey.org/WVSOnline.jsp

 私は,各国の義務教育(前期中等教育)卒業者と高等教育卒業者の回答分布がどれほど異なるかに注目しました。年齢の影響を除くため,30~40代の中年層に対象を限定します。日本でいうと,上記の収入の設問に有効回答を寄せた30~40代の対象者は,義務教育卒業者が52人,高等教育卒業者が202人です。大学進学率が高いので,後者が多いですね。

 この52人と202人が,自分の世帯の収入をどう評定しているか。原資料では10段階の分布になっていますが,サンプルが少ないので,5段階にまとめることとします。1~2を「L1」,3~4を「L2」,5~6を「L3」,7~8を「L4」,9~10を「L5」としました。Lは,レベルの頭文字です。

 この2群について,5段階の世帯収入自己評定の分布をとると,下表のようになります。日本の30~40代のデータです。


 義務教育卒業者より,高等教育卒業者のほうが高い層に多く分布しています。前者では全体の6割がレベル1(最貧層)ですが,高等教育卒業者では,この層に属するには2割弱しかいません。

 両群の分布のズレは,右端の累積相対度数をグラフにすることで可視化されます。横軸に義務教育学校卒業者,縦軸に高等教育卒業者のそれをとった座標上に,5つの階層をプロットし,線でつなぐと,下図のようになります。統計学でいうローレンツ曲線ですが,収入の学歴差を「見える化」する曲線ということで,世帯収入の学歴ローレンツ曲線と呼びましょう。


 このブログで何度も登場している図ですので,詳しい説明は省きますが,曲線の底が深いほど,2群の世帯収入分布のズレが大きいこと,つまり,収入決定に際し学歴の影響が大きいことを示唆します。

 それは,色つきの面積によって数値化されますが,これを2倍した値が,よく知られているジニ係数です。上記の図から,日本の世帯収入の学歴ジニ係数を出すと0.472となります。義務教育学校卒業者と高等教育卒業者の収入評定分布の対比から分かる,わが国の学歴効用度は,この数値によって表されます。

 はて,他国はどうなのでしょう。私は同じやり方にて,46の社会の学歴効用ジニ係数を計算しました。「世界価値観調査」(2010~14年)の対象国は59か国ですが,義務教育卒業者と高等教育卒業者(30~40代)のサンプル数が50人に満たない国は,分析から外したことを申し添えます。お隣の韓国は,前者の数がとても少ないので,分析対象にはなりませんでした。*英仏は,調査対象そのものから漏れています。

 では,46か国の世帯収入の学歴ジニ係数をみていただきましょう。下図は,値が高い順に並べたランキング図です。


 トップは南米のチリで,学歴ジニ係数が0.745にもなります。その次は,アフリカのジンバブエ。ドイツや中国も高いですね。日本も8位であり,高い部類です。

 アメリカは真ん中辺りで,スウェーデンはもっと下。それよりさらに下には,中東や北アフリカの社会が位置しています。大国インドは下から2番目。義務教育卒だろうと,高等教育卒だろうと,世帯収入の自己評定に,それほど差がない社会です。

 各国の学歴主義の程度は,上記のジニ係数で測られるのですが,それぞれの社会における,高等教育卒業者の量とどういう関連にあるのか,気になるところです。トップのチリは,今回のデータのサンプル数でいうと,義務教育卒業者は78人,高等教育卒業者は65人であり,前者のほうが多くなっています。日本(52人,202人)とは,えらい違いです。高等教育学歴の希少性(プレミア)が際立った社会といえるでしょう。

 私は,この点を吟味するため,横軸に高等教育普及度,縦軸に上記の学歴ジニ係数をとった座標上に,46の社会を散りばめてみました。横軸は,今回の30~40代のサンプル数でみて,高等教育卒業者が義務教育卒業者の何倍かです。日本は,202/52=3.88倍となります。


 高等教育普及度が低く,学歴の効用が大きいチリは,左上に位置しています。ジンバブエやドイツも,このゾーンです。高等教育の希少性があるタイプです。

 日本は,高等教育が大衆化しており,かつ義務教育卒業者と照らした場合,その効用も大きい。大学を出て当たり前,進学が社会的に強制される社会とでもいえましょうか。アメリカもこのタイプです。

 右下は,高等教育卒業者が多く,その学歴価値が下落している社会といえるでしょう。あと一つの左下は,高等教育なんてごくわずかの人間しか行かず,その効用も大したことない。「学歴って何?上層階層のお遊び?」みたいな社会でしょうか。インドはこのタイプなのですね。子どもによい成績をとらせるため,親がこぞってカンニング大作戦に出たニュースは記憶に新しいですが…。

 30~40代の世帯収入の自己評定を,義務教育卒業者と高等教育卒業者で比較すると,こういう布置図が浮かび上がってきます。青少年にとって,生きづらい社会タイプはどれかを考えてみるに,右上の「進学強制」型であるような気がするのは,私だけでしょうか。

 各国の青少年の社会化環境を考える材料として,上記の布置構造図を提示しておきたいと思います。

2015年6月1日月曜日

年齢層別のクリエイティヴ・冒険嗜好の国際比較

 「最近の若者は冒険心がない,萎縮している」などといわれます。まあ,いつの時代でも年長者が好んで口にすることですが,「世界価値観調査」(2010~14年)にて,関連する事項を尋ねられています。
http://www.worldvaluessurvey.org/WVSOnline.jsp

 ・冒険すること,リスクを冒すこと,刺激ある生活は大切であると考える。(V76)

 上記の項目に自分はどれほど当てはまるかを,6段階の尺度で答えてもらう形式です。日本とアメリカについて,5歳刻みの年齢層別の回答分布を面グラフにすると下図のようになります。左はアメリカ,右は日本です。


 チャンレンジの国・アメリカのほうが肯定の回答が多いようですが,グラフ模様が左と右でつながっているようにも見えます。加齢に伴い冒険嗜好が萎んでいくのは常ですが,日本の若者の冒険嗜好は,アメリカの高齢者と同じくらいなのですね。

  これは日米比較ですが,他の社会はどうかも気になります。また,あと一つ興味深い設問がありますので,これに対する回答の国際比較もしてみようと思います。以下の設問です。

 ・新しいアイディアを思いつくこと,創造することは大切であると考える。(V70)

 こちらは,クリエイティヴ嗜好の程度を測る設問です。先ほどの冒険嗜好と合わせてみると面白いでしょう。私は,59の社会の国民が,これら2つの設問にどう答えたかを調べました。年齢によって回答は異なると思われるので,20代,30代,40代,50代,60歳以上というように,10歳刻みの年齢層別の回答分布を明らかにしました。

 59もの社会について,上記のような回答分布図を描くことはできません。そこで,肯定の度合いを表す単一の尺度を計算することとします。①「とてもよく当てはまる」に6点,②「よく当てはまる」に5点,③「ある程度当てはまる」に4点,④「少々当てはまる」に3点,⑤「当てはまらない」に2点,⑥「全く当てはまらない」に1点を与えた場合,平均点が何点になるかです。

 たとえば日本の20代でいうと,V70のクリエイティヴ嗜好の設問に対する回答分布は,①は28人,②と③が47人,④が68人,⑤が42人,⑥が8人です(合計240人,無効回答は除外)。よって,この層のクリエイティヴ嗜好の平均スコアは,以下のようして求められます。

 {(6点×28人)+(5点×47人)+・・・(1点×8人)}/240 ≒ 3.70点

 日本の20代のクリエイティヴ嗜好は,3.70点という数値で測られることになります(自己評定ですが)。目ぼしい国の同じ値は,韓国が4.13点,アメリカが4.25点,ドイツが4.37点,スウェーデンが4.73点,中国が4.18点です(英仏は調査対象外)。わが国の若者は,他の主要国よりも創造嗜好が小さくなっています。

 このやり方で,59か国の各年齢層のクリエイティヴ嗜好平均点を算出しました。下に掲げるのは,その一覧表です。最高値に黄色,最低値に青色のマークをしました。上位5位の数値は赤色にしています。


 北アフリカのナイジェリアはスゴイですね。どの年齢層も,クリエイティヴ嗜好が59か国でトップです。ほか,赤字の分布をみると,ガーナ,キプロス,カタールなどのスコアが高くなっています。総じてクリエイティヴ嗜好は,発展途上の社会で高い傾向にあるようです。分かる気がします。

 日本はというと,20~50代のスコア平均は最下位,60歳以上は下から2位という有様です。国民全体のクリエイティヴ嗜好が最も低い社会であることが知られます。

 次に,冒険嗜好の平均スコアをみてみましょう。冒頭のV76の設問に対する回答分布(6段階)を使って,同じやり方で平均値を出してみました。先ほどと同じく,59か国の年齢層別の平均値一覧表を掲げます。


 冒険すること,リスクを冒すこと,刺激ある生活を好む度合いも日本は低いようで,20~40代は最下位,50代は下から2位,60歳以上は下から4位の位置です。「冒険心がない」というは,若者に限ったことではないようです。

 最後に,20代の若者のデータをグラフにしておきましょう。横軸にクリエイティヴ嗜好,縦軸に冒険嗜好の平均点をとった座標上に,59の社会を位置付けてみました。点線は,59か国の平均値を意味します。


 クリエイティヴ嗜好,冒険嗜好ともに最下位の日本は,左下の極地にあります。国際比較から浮かび上がる,わが国の若者の現実の一面です。

 冒険嗜好の多寡は,臆病とか慎重とかいう個人の気質と同時に,チャンレジや失敗に対する社会の寛容度を反映しているともいえるでしょう。言わずもがな,日本はそれがあまり高くない社会です。一度落ちたら這いあがれない,非正規から正規への移動可能性も狭い…この点を実証する材料は数多くあります。

 若者のクリエイティヴ嗜好の低さは,年長者が若者を押さえつけていることにもよるのではないでしょうか。城繁幸さんの『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか』ちくま新書(2008年)に,商談で(自分の判断で)イニシアチブをとった若手社員が,上司にどやされるというエピソードが載っていました。「出る杭は打たれる社会」。これについても,われわれが日々感じていることです。

 今回のデータをもって,冒険心や創造性をはぐくむ教育をしろなどと,学校現場に注文をつけるのは間違いでしょう。個々人の資質や学校教育だけの問題と見るべからず。そうではなく,この2つの資質を実は歓迎しない(摘み取る)社会のクライメイトの問題であると思います。