2015年7月18日土曜日

暴力行為の許容度の国際比較

 各国の研究者が共同で実施している「世界価値観調査」は,国ごとの国民性を知ることができるスグレモノであり,いろいろな項目をランキングしたいという欲求にかられます。
http://www.worldvaluessurvey.org/WVSOnline.jsp

 7月11日の記事では,若者の戦争観の比較をしましたが,今回は,暴力行為の容認度を比べてみよいと思います。最新の第6回調査(2010~14年)では,以下の項目に対する許容度を10段階で答えてもらっています。

 ・夫が妻を殴る (V208)
 ・親が子どもを殴る (V209)

 最初の「夫が妻を殴る」に対する許容度の分布は,日本の場合,どうなっているのでしょう。18歳以上の調査対象者2,336人の評点分布は,以下の表のようになっています。人口大国のインドについても,同じ分布をとってみました。両国とも,無回答・無効回答を除く有効回答の分布です。


 日本は,8割以上の国民が最も低い1点を選んでいます。昔はいざ知らず,最近は「暴力はいけない」という認識が高まっていますしね。

 比較対象のインドも1点が最多ですが,この社会では,許容度が高い者も少なくありません。33.9%,3人に1人が6点以上を選択しています。この大国では,女性蔑視が激しいといいますが,それは数値にも表れているように思えます。

 この分布から,日印の許容度の平均点を出してみましょう。全体を100とした構成比を使うほうが,計算は楽です。わが国の平均点は,以下のようにして求められます。

 {(1点×84.3)+(2点×8.0)+(3点×3.1)+・・・(10点×1.3)}/100.0 ≒ 1.40点

 「夫が妻を殴ること」に対する10段階の許容度平均は,日本の場合,1.40点です。インドは,4.10点なり。後者は前者の4倍近くです。

 他国についても同じ平均点を出し,高い順に並べたランキングにしてみました。左欄「夫が妻を殴る」,右欄は「親が子を殴る」の許容度ランキングです。「夫→妻」,「親→子」という,家庭内の主な暴力行為ですが,それに対する許容度は社会によって異なっています。


 双方ともトップは,アフリカのルワンダです。とくに「親が子を殴る」の許容度は,この社会がダントツです。上位には,発展途上国が多く位置しています。暴力に対する許容度というのも,1人あたりGDPのような経済指標と並んで,社会の発展度を測る指標(measure)といえましょう。

 ちなみに,北欧のスウェーデンでは,子どもを怒鳴る,叩くという行為は違法行為なのだそうです。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=1795

 しかるに,それはわが国でも同じこと。児童虐待防止法という法律が厳としてあります。この法律が定めている虐待のタイプは,①身体的虐待,②性的虐待,③心理的虐待,④ネグレクトですが,子どもを過度に勉学に駆り立てること,早期受験の強制なども,虐待の原義に照らせば,立派な虐待です。いわゆる「教育虐待」と呼ばれるものですが,虐待の英訳が「abuse=ab+use(異常に扱う)」であることを想起してください。

 この点については,私も前に書いたことがあります。以下の記事をご覧いただければと思います。「過重な勉強も虐待か」(日経デュアル,2014年12月18日)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO82292310T20C15A1000000/