2015年10月8日木曜日

父親を超えられない社会

 「国勢社会調査プログラム」(ISSP)という組織が毎年,特定の主題を据えて国際意識調査をしているのですが,2009年の「社会的不平等」第4回調査と2012年の「家族とジェンダー」第4回調査のローデータを入手しました。
http://www.issp.org/index.php


 上記のISSPサイトにて,ローデータが公開されています。氏名,メアド,使用目的を入力するだけで,誰でもダウンロードできます。SASとSPSSのファイルでアップされています。私はSPSSを持ちませんで,昨日大学でDLし,エクセルに変換しました。

 私の場合,SPSSよりエクセルのほうが使い勝手がいいのですよね。いろいろ小回りも利くし・・・。このとおり完全に自己流ですので,どっかの研究所の調査員に雇われても,お役に立てそうにありません。

 ともあれ自分のパソコンに移しましたので,自由自在にデータを分析できます。2009年の「社会的不平等」第4回調査のファイルには,41か国・55238人の回答データが未加工のまま詰まっています(上の画面)。

 興味ある設問が満載で,どこから分析しようかと迷うのですが,私はQ11の設問に興味を持ちました。「今の(最後にしていた)仕事の地位レベルは,14~16歳の頃の父と比べてどうか?」という問いです。仕事に就いている者,もしくは仕事に就いたことがある者に尋ねています。

 今の日本のように,発展の山を越えてしまった社会では,「子は親を超えることはできない」とよく言われます。それは本当か?他国ではどうか? 私は,自分の世代(30代男性)の回答を集計してみました。下の図は,主要7か国の帯グラフです。


 日本の特異性が際立っています。今の仕事の地位レベルが父よりも低いと考えているのは,他の6か国では2割ほどですが,日本では6割にも達しています。

 正直,日本の結果はこうだろうな,という予測はしていました。われわれはロスジェネでもありますし。しかし,他国はそうでないことに驚いています。日本の対象者は,お決まりの「謙虚」な回答をしたのでしょうか。それを差し引いても,この図の模様には唖然とします。

 ISSP「社会的不平等」第4回調査の対象は41か国ですが,これら全体の中でみたらどうでしょう。高い(はるかに高い+高い)と,低い(低い+はるかに低い)の回答比率をとってみました。朝日新聞流に,中抜きのグラフにしてみましょう。


 ほとんどの国で,青色のバーが緑色より長くなっています。子が父を超えている社会が多い中,その逆の社会は3国だけです(日本,フィンランド,トルコ)。しかし,対象者の6割が「父よりも低い」と答えているのは,まぎれもなくわが国だけ。

 日本の対極にあるのが中国です,30代の7割が「父を超えている」と思っています。勢いありますものね,この国は。

 日本の状況が,90年代以降の「失われた20年」の産物であるのは明らか。若者に過重な期待をしてはいけない,自分たちと同じ人生行路を彼らが歩めると思ってはいけない。上の世代は,この点を自覚すべきでしょう。

 戸梶圭太さんの『西東京市白光団地の最凶じいちゃん・イワオ74』第3巻の最後に,こんなくだりが出てきます(391ページ)。いつまでも一人前になれない孫の直人を,イワオが小馬鹿にしたところ,直人は反論。それに対しイワオは・・・
https://twitter.com/tmaita77/status/644104347366785024

 直人「じいちゃんの時代と俺の時代はぜんぜん違うんだよ,就職して彼女作って結婚して子ども作るとか,もう不可能なんだよ,それが現実んなんだよ」

 イワオ「なにもそのコースだけが一人前になるってことじゃない。勘違いするな。じゃあ半人前でもいい」。

 一人前の見方の変更,場合によっては「半人前」でもいい・・・。上の世代に求められるのは,うざったい説教ではなく,時代状況を見越した,こうした大らかな構えです。それがないと,若者との溝は深まるばかり。自分たちが歩んだコースを,後続世代が子羊のように大人しくついてくると思ってはいけない。

 戸梶さんは,今回データで示したような日本の状況を見越していたのでしょう。それへの処方箋を,登場人物の口に語らせるています。この人の慧眼には,感服させられるばかりです。