2016年6月27日月曜日

男性の料理実施度の国際比較

 一口に家事と言ってもいろいろありますが,女性が男性に期待する家事の首位は,料理だそうです。
http://news.mynavi.jp/news/2016/06/25/120/

 掃除や洗濯と違って,料理は毎日数回,欠かさずしないといけませんからね。夫がこれをやってくれたらどんなに楽になるか,と思っている女性は多いでしょう。

 しかし現実は甘くなく,強引にやらせてみてもスキル不足で,出された料理は食えたもんじゃない。料理は単純作業ではなく,それなりのスキルも要ります。これは家庭科教育に関わる問題でもありますが。

 日本の男性が家事をしないことはよく知られていますし,このブログでも,男性の家事分担率が国際的にみて低いことは繰り返し書きましたが,諸々の家事の中で国際差が最も出ているのは,おそらく料理でしょう。今回は,この部分に絞った国際比較をしてみようと思います。

 ISSPの「家族と性役割の変化に関する調査」(2012年)では,パートナー(事実婚含む)のいる対象者に対し,料理の分担状況を尋ねています(Q19)。選択肢は,以下の7つです。
http://www.issp.org/page.php?pageId=4

 ① 「いつも自分がする」
 ② 「ほとんど自分がする」
 ③ 「同じくらい」
 ④ 「ほとんどパートナーがする」
 ⑤ 「いつもパートナーがする」
 ⑥ 「自分とパートナー以外の第三者がする」
 ⑦ 「わからない」

 量的に少ない⑥と⑦は除いて,①~⑤の回答分布を簡略化してみましょう。下図は,25~54歳の男性の回答分布です。カナダと東ドイツは,対象のサンプルが著しく少ないので,分析対象から外しています。


 妻と同等以上にやっている者の比率が高い順に36か国を並べていますが,日本はそれがたった14%で,下から2番目です。

 上位7位の国(インド~アイスランド)では,半分以上の男性が妻と同等以上していると答えています。インドはその比率が71%にもなります。インドの男性は怠け者で,家にいる時間が長いためでしょうか。あるいは,定番のカレー(水っぽい!)しか作らないとか・・・。

 上記の国際差は,料理のハードルが国によって違うことにもよると思います。日本では,手作りの主菜・副菜・汁物が備わったメニューが期待されますが,北欧では,レンチン料理が多いと聞きます。これなら,男性でもやりやすい。

 しかし,こういう事情を割り引いて考えても,わが国の男性の料理実施度は低いと判断せざるを得ないでしょう。

 なお,男性の料理実施度は,女性の家庭生活満足度と相関しています。下図は,2つの指標の相関図です。後者が分からない南アフリカを除いた,35か国を散りばめた散布図です。


 ご覧のように,妻と同等以上に料理をする男性が多い社会ほど,女性の家庭生活満足度は高い傾向にあります。相関係数は+0.5303であり,1%水準で有意です。

 インドは,男性の料理実施度が高いわりに,女性の家庭満足度は低くなっていますが,やはり夫と妻の評価の食い違いがあると思われます。

 なお,洗濯や掃除等もひっくるめた家事全般を男性がどれほどするかと,女性の家庭満足度の間には,有意な相関関係はありません。料理のような,毎日に及ぶ,スキルを要する家事の実施度が重要ということでしょう。

 われわれの世代は,家庭科は女子のみ必修でしたが,今の若い世代は男女共修を経てきています。若い男性の家事実施意欲は高く,「男性も家事をすべし」に対する意見を20代でみると,女性よりも男性で高いくらいです。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=4493&page=3

 女性で低いのは,夫にしてもらいたいのは山々だが,スキル不足で戦力にならない,させてもどうせ二度手間になる,という不信感もあるかと思います。これはジェンダー観念の問題ではなく,男女の家事スキル格差の問題で,先ほど述べたように家庭科教育の在り方に通じます。

 形の上では,家庭科は男女共修になっていますが,「男子はこの程度でよい」などと,要求する到達水準に,(暗に)性差を設けてはいないか。言わずもがな,子どもは,そうした教師の眼差しを鋭敏に感じ取るもの。それは,理科教育におけるアチーブメント期待のジェンダー差にも言えることです。

 教師たる者,そういう眼差しの歪みが起きていないかどうか,絶えず反省的でないといけません。