2016年6月5日日曜日

人口あたりの学習塾数マップ

 5月4日の記事では,本屋さんの数が90年代初頭から最近にかけてどう変わったのかをみました。ネット書店の台頭により,街の本屋さんの数は減ってきています。

 情報化という社会変化の所産ですが,数の変化が,社会の変化に対応していない事業所もあります。それは,学習塾です。わが国では少子化が加速度的に進んでいることを考えると,学習塾は淘汰されて減っているように思えますが,現実はその逆です。

 総務省『経済センサス』の事業所産業小分類統計によると,学習塾の数は,1991年では45,856でしたが,2014年では55,037に増えています。この期間中,子ども人口は減っていますから,子ども人口あたりの学習塾数も増えています。年少人口1万人あたりの塾数は,1991年が20.9,2014年が33.9です。
http://www.stat.go.jp/data/e-census/2014/index.htm

 これは全国の数値ですが,都道府県別に計算し,マップにすると以下のようになります。県別の数値については,下記ツイートをご覧ください。
https://twitter.com/tmaita77/status/737214853660606464


 この15年間で,地図の模様が濃くなっています。首都圏よりも,近畿や四国で塾は多いのですね。それと広島。近畿では早期受験が多いでしょうから頷けるのですが,はて四国はなぜでしょう。

 それはさておき,上の地図の模様変化は,子どもの生活の「塾」化が進んでいることをうかがわせます。通塾率の比較データ見当たりませんが,おそらくは,どの年齢でも塾通いをする子どもは増えていることでしょう。

 1991年といったら,私が中3の頃ですが,田舎だったこともあるでしょうけど,塾通いをする子はそう多くなかったと記憶しています。

 しかし現在,それも都市部ではそうではありますまい。前に卒論ゼミをもったとき,ゼミ生諸君に学校体験レポートを書いてもらったことがありますが,通塾経験率は100%,皆が皆,塾通いの経験者でした。

 今,「都市部」と書きましたが,大都市・東京内部の地域別に同じ指標を計算し,ランキングにすると下表のようになります。


 上位5位は,千代田区,武蔵野市,国立市,渋谷区,豊島区ですか。教育熱心な親御さんが多い地域のように思えますが,塾の側もそれを見込んで,立地戦略を立てているのでしょうか。

 塾というのは,学校の勉強を補いたい,受験のための高度な学習をしたい,という動機で行くものですが,最近では,そういう目的の有無に関係なく,すべての子どもが塾通いを強いられるような状況になっているようにも思えます。

 生活保護世帯の子どもの通塾費用を公的に援助する取組がなされていますが,塾通いをするのがノーマルで,それをしないのはアブノーマル。もちろん,貧困の世代連鎖を防ごうという意図での実践には敬意を表しますが,2つの学校(two schools)に通うことを強いられる,今の子どもは大変だなとも思うのです。

 私は子どもの頃,夕方まで教室で座学してヘトヘトなのに,それをさらに夜遅くまでやらされるなんてまっぴら御免と考えていました。

 子どもの生活の場は,大雑把にいって,家庭,学校,地域社会に区分されますが,2番目の学校があまりに肥大し過ぎて,残りの2つを圧迫してしまっている。子どもの生活は,これら3つの場での生活が均衡しているとき,健全と判断されます。「くらし・まなび・あそび」は,子どもの人間形成にとって,異なる意味合いを持っています。「まなび」だけでは,偏った人間ができてしまうことは,明白なこと。

 私の予想ですが,上記の3つの場での生活が最も均衡しているのは,秋田ではないかと。この県は,小学生の通塾率は最下位です。しかし,よく知られているように学力は常にトップ。最近の学力テストでは,知識だけでなく思考力や行動力をも含む「確かな学力」の計測が目指されていますが,この種の力量を育むには,やはり「くらし・まなび・あそび」の均衡が重要だということでしょうね。ちなみに公立小学校6年生のデータでみると,47都道府県の通塾率と教科の正答率はマイナスの相関関係にあります。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=7513

 わが国は,子どもにとって「教育過剰」,大人にとっては「教育過少」の状況にあるのではないか。大学も,どんどんやせ細っていく18歳人口を必死で奪い合っている。その持てる資源を成人教育に振り向けるべきでしょう。2050年の人口ピラミッドにみるように,わが国では少子高齢化が極限まで進みます。現代は生涯学習の時代であり,子ども期は,生涯にわたって学ぶ意欲を涵養する時期で,学習への嫌悪感(押し付けられ感)を植え付けられる時期ではないのです。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/02/20-12.php