2016年6月7日火曜日

教科の得意率の階層差

 学校の成績に階層格差があるのは,教育社会学で繰り返し明らかにされていることです。国立青少年教育振興機構『青少年の体験活動等に関する実態調査』(2014年度)のローデータを使って,この点に関する実証データを作ることができます。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/107/

 本調査の対象は,小学校4~6年生,中学校2年生,高校2年生ですが,小学生については保護者調査も合わせて実施し,家庭の年収も訊いています。

 小学生のサンプルを使って,家庭の年収と勉強の得意意識のクロスをとると,下図のようになります。無回答は除いた,回答分布です。

 意識と実際の成績は違いますが,自分の成績を念頭に得意かどうかを答える児童が多いでしょうから,問題はないでしょう。


 年収が高い群ほど,「勉強はとても得意」と評する児童の比率が高くなっています。年収200万未満の貧困層では10.0%ですが,年収1000万超の富裕層では29.5%,およそ3倍です。 逆に,最も強い否定の回答比率は,貧困層ほど高くなっています。

 攪乱が全くない,きれいな傾向です。家庭の経済資本や文化資本の差の反映であることは,言うまでもありません。

 ところで,一口に勉強といっても,内容は多岐にわたります。たとえば学校には複数の教科がありますが,得意度が家庭環境要因と関連するレベルは,教科によって異なると思われます。

 上記の調査では,対象の小学生に対し,8つの教科と外国語活動が得意か否かを訊いています。最高学年の6年生のサンプルを取り出し,算数と家庭の得意率が,家庭の年収によってどう変わるかをグラフにすると,以下のようです。


 算数の得意率は,家庭の年収ときれいに比例しています。しかし家庭はそうではなく,むしろ年収が低い層のほうが得意率は高くなっています。

 家庭の内容は,裁縫やり料理など,実生活に即したものですが,低収入層の子どもは,自宅でそれをする(させられる)機会が多いので,得意率が高いのでしょうか。

 これは6年生の算数と家庭の傾向ですが,他学年や他教科ではどうでしょう。4~6年生の各教科について,年収階層の両端(200万未満,1000万超)の得意率を出し,表に整理してみました。貧困層と富裕層の比較です。


 教科によって,得意率の階層差の様相は違っています。おおむね,座学の教科では富裕層の方が高く,実技系ではその逆になっています。算数は前者,家庭は後者の典型例です。

 赤色は,富裕層の得意率が貧困層の1.2倍以上であることを示します。階層格差が大きい教科ですが,要注意はやはり算数ですね。4年生では1.73倍,5年生では1.99倍,6年生では2.01倍というように,学年を上がるにつれて,階層差が開いていく傾向もあります。

 内容が高度化し,塾通いなどができる子が有利になる,ということだと思われます。

 外国語活動(英語)は,階層差が学年を経るにつれ小さくなってきます。やりだしの4年生では,幼少期の英語教室通いの違いなどが反映されるのでしょう。

 学力の階層差を縮めようという実践がされていますが,観察される格差は,教科によって異なるようです。「個に応じた指導」の重点の置き具合も,教科によって違ってきます。データで要注意の部分を析出し,個別指導の力点の傾斜を設けるなど,一様ではない対策も求められます。

 蛇足ですが,富裕層の家庭科の得意率が低いことは,生活構造の歪みの投影といえるかもしれません。過度の塾通いなど。