2016年6月9日木曜日

子どもの政治的関心の階層差

 選挙権の付与年齢が20歳から18歳に引き下げられ,高校生にも,社会を動かす主体として振る舞う途が開かれました。

 しかしまだ18歳の少年ですので,政治意識は未熟であるのが常。それを高めようと,高校ではいろいろな取組がなされていると聞きます(模擬選挙など)。各政党も,政策を分かりやすく伝える漫画などを作成している模様です。来月実施される参院選では,10代の投票率がどれほどになるか注目されます。

 ところで,子どもは一枚岩の存在ではありません。教育社会学では階層差に焦点を当てますが,学力の階層差があるのはよく知られていること。前回みたように,勉強の得意意識も階層によって大きく違っています(とくに算数)。

 しからば,政治への関心はどうでしょう。前回と同様,国立青少年教育振興機構『青少年の体験活動等に関する実態調査』(2014年)のローデータを使って,この点を吟味できます。下図は,小学校4~6年生の政治関心が,家庭の年収によってどう違うかをグラフにしたものです。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/107/


 小学生のデータですが,年収が高い家庭の児童ほど政治的関心が高いという,きれいな相関がみられます。最も強い肯定の回答割合は,年収200万未満の貧困層では9.0%ですが,1000万超の富裕層では20.6%と倍以上です。

 学力や勉学嗜好と同じく,こういう面の社会的規定性もあることを知っておかねばなりません。

 なぜこういう差が出るかですが,家庭においてどれほど政治の話をするか,ニュースをどれほどみるか,新聞をとっているか,といった要因に影響されるでしょう。

 ちなみに新聞を購読しているかどうかは,家庭の年収と関連しています。小学生の親世代(30~40代)の新聞購読状況を世帯年収別にみると,下図のようになります。同じく国立青少年教育振興機構が実施した,『子どもの読書活動の実態とその影響・効果に関する調査研究』(2013年)のローデータから作成したグラフです。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/72/


 年収が高い世帯ほど朝日新聞を読んでいるという傾向はさておき,ここで注目すべきは,新聞を読まない層(右端)の比重です。おおむね,年収が低い層ほど新聞を読まない傾向が見受けられます。

 小学生の親世代のデータですが,こういう違いが子どもの政治的関心に投影される可能性は否めないでしょう。

 しかしそれよりも重要と思われるのは,やはり親のモデルです。保護者の政治的関心が高く,当たり前のように毎回投票する姿を目にする子どもは,自ずと政治的関心も高くなるでしょう。下図は,同じく小学生の親世代の投票行動の階層差をグラフにしたものです。


 「すべての選挙で投票する」の肯定率は,年収が高い層ほど高い傾向にあります。最初にみた小学生の政治的関心の階層格差は,親世代の投票行動のそれを反映したものである可能性も大です。

 政治意識(行動)の階層差ですが,これがあまりに強くなると「強者による強者のための政治」になり,既存の体制が再生産されやすくなります。

 貧困に象徴されるように,厳しい生活条件に置かれている者ほど,社会問題に対する鋭い関心を持っているものです。それは政治的関心に昇華されてはじめて,社会変革に結び付くことができます。学校の政治教育でなすべきは,それを促すことです。

 言わずもがな,社会変革の合法的な手段は政治参画(投票)であって,暴動やテロなどではありません。しかし現状では,貧困層のパワーが後者のよからぬ方向に向いてしまう可能性がある。あるいは,政治に見切りをつけ,自分たちの内の閉じこもり,結果として社会分裂が生じる恐れもありです。

 学校の政治教育では,彼らが現に直面している問題を取り上げ,それは政策によって解決できる,ということを具体例をもって提示するとよいと思います。その点で私は,高等学校において「社会問題」科という教科を作ったらどうかと思っているのですが,いかがでしょう。次期学習指導要領で構想されている,説教臭い「公共」科よりもです。

 それはさておき,政治教育の目標の一つは,生徒たちの政治的関心を高めるですが,その階層格差を縮めることにも注意する必要があるでしょう。最初のグラフは,小学校4~6年生の政治的関心の階層差ですが,これが中学生や高校生になったら,どういう模様になるか。階層差は消えているかどうか。この点も,政治教育の成果を測る重要な指標です。

 国立青少年教育振興機構『青少年の体験活動等に関する実態調査』(2014年)では,小学生しか保護者調査が実施されてないのが残念です。中学生や高校生についてもそれを実施し,今回みたような政治意識をはじめ,自尊心や将来展望の階層差が,学校教育を通じてどう変わるかを解明できるようにしてほしいです。

 身体の成長も含め,子どものドラスティックな分化(segregation)が生じてくるのは,思春期以降です。好ましい方向に動くのは誰か? 社会階層との関連を明らかにするのは,教育社会学のきわめて重要な課題といえます。