2016年7月1日金曜日

男性の家事実施度の国際比較

 本ブログを長くご覧いただいている方は,タイトルを見て「またかよ」という感じでしょうが,ここでの分析には,これまでにない特色を持たせています。

 まずは,女性(妻)による評定であること。男性本人に対し,「あなたは家事をしていますか,それくらいの時間やっていますか」と尋ねたデータではありません。男性がしているつもりであっても,パートナーの女性の目には,そうは映らないことがしばしばです。傲りめいた男性当人ではなく,女性の声に耳を傾けることにしましょう。

 あと一つは,数種類の家事の実施度を総合することです。一口に家事といっても,いろいろあります。「あなたの夫は,家事をどれくらいやっていますか」と女性に問うても,具体的なイメージができず,回答に歪みが出ることもあるでしょう。そこで,具体的な6種類の家事の実施度を合成して,トータルな家事実施度スコアを出してみようと思います。

 依拠する資料は,ISSPが2012年に実施した「家族と性役割に関する意識調査」です。この調査では,パートナー(事実婚含む)のいる対象者に対し,「あなたの家庭では,以下の家事を誰がしていますか(分担をどのようにしていますか)」と尋ねています。Q19の設問で,「自分と夫以外の第三者がしている」と「分からない」は除外します。
http://www.issp.org/page.php?pageId=4


 ここでは,パートナーのいる,25~54歳の女性の回答に注目しましょう。上記の6つに対する回答を合成して,回答を寄せた女性の夫の家事実施度スコアを作ってみます。

 やり方は,いたって簡単です。回答された数字を合計するだけです。6つとも全部「いつも自分がしている」と答えた(不幸な)女性は,1点×6=6点となります。逆に,6つとも「いつも夫がしている」という(超ハッピーな)女性は,5点×6=30点となります。*こんな人は,ほぼ皆無でしょうが・・・。

 これによると,回答を寄せた女性の夫の家事実施度は,6~30点の範囲のスコアで計測されることになります。私はこの方法で,各国の男性(夫)の家事実施度スコアの分布を出してみました。以下に掲げるのは,36か国の男性7723人のスコア分布です。上記の6つの全てに有効回答をした,女性7723人の回答をもとにしています。


 これが,世界の男性のトータルな家事実施度の分布です。パートナーの女性による客観評定によります。

 これに基づいて,男性7723人を,家事実施度「低群」,「中群」,「高群」の3つに区分しましょう。3つの群の量がなるべく等しくなるようにすると,12点未満を「低群」,12~15点を「中群」,16点以上を「高群」とするのがよいかと思います。こうすると,低が28.0%,中が41.1%,高が30.9%と,バランスのよい配分になります。

 この基準によると,日本の男性(195人)の分布は,低が57.4%,中が31.8%,高が10.8%となります。低いほうに偏っていますねえ。25~54歳の有配偶女性の夫の6割は,家事実施スコアが12点未満であると。

 同じ基準による群分けを,目ぼしい国々と比べると,下図のようになります。


 日本は低群が最も多く,逆に高群は最も少なくなっています。言葉でいうと,先進国の中で,オトコが最も家事をしない国です。パートナーの女性の評定だけに,リアリティが出ていますねえ。

 一番下のスウェーデンとの差は,すさまじいものがあります。スウェーデンでは,男性の6割が,国際標準でいう高群に属しています(日本はたった1割)。主要欧米国は,この両端の中間にあります。アジアの2国と欧米の間に断層がありますね。

 では,他国はどうでしょう。36か国の帯グラフをベタに描くのは芸がないので,各国の位置が分かる布置図を作ってみます。下の図は,横軸に低群,縦軸に高群の割合をとった座標上に,36か国を配置したものです。


 右下は,低群が多く高群が少ない,男性が家事をしない社会です。左上は,その逆。斜線は均等線で,このラインより下にある国は,「低群>高群」ということになります。

 なんとまあ,明瞭なクラスターに分かれることか。男性が家事をする北欧諸国と,そうでないアジア・アフリカ・中南米諸国。日本は後者の中でも,最も芳しくない位置にあります。

 週あたりの時間統計でみて,日本の夫の家事分担率は世界最低であることをみましたが,パートナーの女性による,複数の家事の総合評価でも,同じ結果が出てしまいました。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/03/post-4607.php

 これがなぜかについては,今年の『プレジデントウーマン』誌の5月号にて,私なりの意見は申しました(140~141頁)。ただ最近は,家事のハードルの高さが,社会によって違うこともあるかな,と感じています。日本では,料理にしても,あまりに凝ったものを求められる。これを下げることで,少しは事態が変わるのではないか,という気もしています。
https://twitter.com/haru5t_/status/747415520119402497