2017年5月24日水曜日

学歴別の喫煙率

 5月10日の朝日新聞Web版に「喫煙率,学歴によって差 若者でくっきり」という記事が出ています。
http://www.asahi.com/articles/ASK596HZYK59UBQU00L.html

 結果は,低学歴層ほど喫煙率が高いというもの。情報や環境の面で格差があるのでは,という識者のコメントが紹介されています。なるほど,喫煙の害に関する知識の差かもしれません。

 2010年の『国民生活基礎調査』のデータのようですが,もっと新しい2013年調査から同じデータを作ることができます。報告書には載っていない内部保管統計が,ネット上では公開されています。下記リンク先の表24です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001119778

 中卒,高卒,大卒の3つの群について,毎日喫煙する者が何%かを年齢層別に計算し,グラフにしてみましょう。%の算出に際しては,喫煙状況が不詳の者は分母から除外したことを申し添えます。

 以下に掲げるのは,3つ群の毎日喫煙率の年齢曲線です。


 違うものですねえ。若年層では「中卒>高卒>大卒」という傾向がくっきりと出ています。30代後半では,中卒が58.5%,高卒が37.0%,大卒が19.0%と,差が凄まじい。

 しかし,こうした差も年齢を上がるにつれて縮まり,60代後半になるとほぼ同じくらいに収束します。昨日,同じグラフをツイッターで発信したところ,この収束現象に興味を持たれた方が多いようです。

 なぜ,高齢層になると学歴差が収束するか? 出された説は,大よそ以下の2つです。

 ①:年齢を上がるにつれ,健康を意識するようになる。
 ②:喫煙者(とくに低学歴層)は死亡率が高い。

 どちらも「なるほど」という感じですが,②はぞっとさせられますね。死亡率の学歴差はあるかもしれない。喫煙率の高い中卒者は,大卒者よりも死亡率が高い。これは想像に難くありません。

 学歴別の死亡率をはじき出せる統計資料はありませんが,同一世代(コーホート)の学歴別人口が加齢に伴いどう変わるかを追跡することで,この点の参考資料を得ることはできます。

 下の表は,量的に多い団塊世代について,30代前半から60代前半までの人口変化を学歴別に跡付けたものです。基幹統計の『国勢調査』では,西暦が「0」の年の大調査で学歴も調べています。1980年,1990年,2000年,2010年の4時点をつなぎ合わせてみました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL02100104.do?tocd=00200521


 同一世代の人口変化ですが,不幸にして命を落とす者がいるため,どのグループも加齢に伴い減っていきます。大卒・院卒の群では30代前半から40代前半にかけて微増しますが,これは大学院の修了者が新たに加わるためでしょう。

 しかるに,減少の程度は学歴によって違います。下段の指数にて30代前半と60代前半を照合すると,大卒では1割ちょっとしか減ってませんが,中卒では3割も減じています。267万人から189万人に減です。

 中卒の喫煙者が命を落とすため,喫煙率の学歴差が60代あたりで収束する。こういうことかもしれませんね。まあこれはマイナー要因で,メジャー要因は上記の①でいわれているように,加齢に伴い健康を意識する人が増えるからでしょうけど。

 ともあれ,社会的に不利益を被りやすい層に,健康指導(支援)の重点を置く必要があるのは確かでしょう。とくに重要なのは,喫煙の害などの知識の啓発,健康診断の情報提供だと思います。各種の縁から断絶され,孤立状態の人が多いわけですから。

 まあ私も,どの組織にも属さず,かつ独り身の風来坊ですけど,毎年役所から無料健康診断のお知らせが来ることに安心感を覚えています。これがなかったら,結構ヤバいかもしれない。

 就業状態,家族状態,所得などの情報から要注意層を割り出し,重点的に健康診断等のインフォメーションを送ることがされてもよいでしょう。役所はこういう情報を持っているわけですから,その気になれば簡単にできるはずです。

 各人の自発意志に委ね,結果も自己責任というのはあまりにも冷たい。行政に求められるのは,要注意の対象者に積極的に寄り添っていく「アウトリーチ」の構えです。