2017年5月7日日曜日

生徒・学生のバイト率の時系列変化

 学生の生活困窮化がいわれていますが,全国大学生協や東京私大教連の調査データから,下宿学生の仕送り額や1日あたりの生活費の減少を知ることができます。
http://www.univcoop.or.jp/press/life/report.html
http://tfpu.or.jp/kakeihutan-chousa/

 東京私大教連の最新データによると,首都圏の私大下宿学生の1日あたりの生活費は850円だそうです。*計算式=(仕送り月額-家賃月額)/30日

 私は,大学院以降はずっと授業料免除をもらっていましたが,申請書類に「月の食費2万5000円」と書いたら,担当職員に「これじゃ通らんぞ。食費が高すぎだ」と言われたことがあります。

 1日あたりにすると833円ですが,上記の850円という数値と照らしわせると,1日の生活費が消えちゃう計算になりますね。なるほど,この職員の発言はまんざら的外れではなかったわけです。

 当然,これでは生活が成り立たないのでバイトする学生も増えていることでしょう。学業に支障のない範囲ならいいですが,近年の人手不足もあって,度の過ぎたブラックバイトに絡めとられてしまう学生も多し。

 さて,学生のバイト率はデータでみて,過去からどう推移しているのでしょう。上記のメジャーな調査では,この点は明らかにされていません。私の頃も,90年代後半の不況期で,バイトしている学生が多かったですが,今はそれ以上なのかしら。

 学生のバイト率の時系列推移を知れる,信頼のおけるデータがないかと前から思っていたのですが,基幹統計の『国勢調査』から,それを捻り出せることを知りました。「灯台下暗し」ですね。

 この調査は,国民の労働力状態を調べています。先日,この部分を集計した,2015年の第2次集計結果が公表されました。大学入学年齢の19歳人口は約119万5千人ですが,労働力状態の内訳は以下のようになっています。


 労働力人口の就業者の中に①「通学のかたわら仕事」,非労働力人口の中に②「通学」というカテゴリーがあります。この2つを足しわせた数(①+②)が学生ということになりますが,この中で①が何%かをとれば,学生のバイト率ということになるでしょう。

 上表から,2015年の19歳の学生のバイト率を出すと,189,690/(189,690+586,501)= 24.4% となります。大学等の高等教育機関の1年生ですが,4人に1人がバイトしているようです。

 1980(昭和55)年では,同じやり方で出した19歳学生のバイト率は9.7%でした。この35年間で,19歳学生のバイト率が2.5倍ほどに増えています。

 これは19歳ですが,他の年齢はどうでしょう。この2時点の間のデータも気になります。私が大学に入った年(1995年)はどうだったのかな。15~24歳の各年齢のバイト率の推移を,5年間隔でたどると下表のようになります。

 15~18歳は高校生も含みますので,「生徒・学生」ということにしましょう。


 表をざっと見て,どの年齢でも学生のバイト率が増えていることが知られます。黄色マークは観察期間中の最高値ですが,18~21歳の大学生の年齢帯は,直近の2015年がマックスとなっています。

 「俺らの頃の方がバイトしてたよ」という年長者の声を聞きますが,バイト実施率のデータを見るとそうではないようです。飛躍な言い回しですが,学生の生活苦は「空前」のものといえるかもしれません。

 赤字は25%(4分の1)を超える数値ですが,2005年以降,20代前半の大半がこの色で染まっています。大学生の生活苦の進行の表れではないでしょうか。遊びのカネ目当てのバイトだろう,という意見もあるでしょうが,学生のバイト目的が学費・生活費稼ぎにシフトしていることは,前に明らかにした通りです。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/05/blog-post.html

 先述のように,最近はサービス業界の人手不足も相まって,学生が無茶なブラックバイトに絡めとられてしまう条件が出てきています。学生の側も,「親には頼れない,おカネが稼げるなら」と,それを受け入れてしまう。いつしか,勉学とバイトの主従関係が反転し,形式的就学が蔓延ってしまう。大学進学率50%超のユニバーサル段階に達した,日本の高等教育には,こういう病理が潜んでいることを見抜かないといけません。

 これを治療する術は,学生への経済的支援の強化と,ブラックバイトの取り締まりの2つから成ります。前者は,給付型奨学金が創設され一歩前進といったところですが,まだまだ不十分。奨学金を貸し付けるだけではなく,学費減免の枠も増やすべきでしょう。

 後者については,最近の大学では,新入生へのガイダンスにおいて,「ブラックバイトに注意」という啓発をしているようですが,これをもっともっと徹底すべきです。身を守るための労働法規の授業を必修にしてもよいでしょう。

 学生さんの側も,自分で積極的に情報を集めて,「知的武装」を図ることが大切。ちょっと勉強すれば,「辞めたら損害賠償だ!」なんていう脅しにも屈しなくなります。いろいろ本も出ていますが,さっきのぞいた大学生協のHPでも,いい資料が載せてあります。
http://www.univcoop.or.jp/fresh/life/parttime/index.html

 5月になりましたが,「5月病」を患うことなく,有意義な学生生活を送って下さいますよう。