2017年6月3日土曜日

稼ぐ人の子ども期

 成功している人は,どんな子ども期を過ごしたか? こんな特集を雑誌でよく見かけます。「こういう教育をしたら,こういう人間になる」とは,教育学の観点からしても興味深いテーマです。

 こういう主題に接近する場合,長期にわたる追跡調査をするのが望ましいのですが,費用や手間の面でそれは難しい。そこで,大人の対象者に子ども期を振り返ってもらう回顧法がよく用いられます。

 子どもの頃の記憶なんてあやふやな人が多いので,科学的でないという批判は免れませんが,全くムダというわけではありますまい。

 最近公表された公的機関の調査としては,国立青少年教育振興機構の『読書活動が及ぼす効果に関する調査』というのがあります(2013年2月公表)。20~60代の成人5000人ほどに,子ども期を振り返ってもらい,現在の地位や生活状況との関連を探ると。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/72/

 この調査のローデータを使って,冒頭の問いにアプローチできます。私は,30~40代男性の対象者を年収の水準によって分かち,子ども期の様を比較してみました。年収が成功のメジャーになるとは限りませんけど,ひとまず常識的な見方をとりましょう。

 30~40代男性の年収分布を観察したところ,300万未満,300万以上750万未満,750万以上の3群に分けるのがよいと考えました。サンプル数は順に264人,604人,140人です。

 調査票をみると,子ども期をいくつかのステージに分けて,「**をどれくらいしましたか?」という設問が多く盛られています。ここでは,小学校低学年(1~3年生)のステージに注目しましょう。就学前の幼少期は記憶が定かでない危険が高く,小学校高学年以降になると塾通いなどの影響が出てくるためです。

 さて,30~40代男性の各年収グループは,小学校低学年の児童期前期をどう過ごしたか。この調査は,子ども期の読書活動如何が成人後の人生に及ぼす影響を検出することを狙っていますので,まずはこの点をみてみましょう。

 下表は,7項目の読書活動を小学校低学年の時に「何度もある」という者の割合です。無回答を除く有効回答の中での比率です。


 赤字は3群で最も高い数値ですが,項目によって違いますね。昔話,絵本,マンガはプアが最も高く,その他はリッチが最も高くなっています。

 本を読んだこと(マンガ以外)は,普通とリッチの段差が大きいですね,読書が高い教育達成につながり,高年収を得られる職業に就くことができた。こういう経路が想起されます。

 図書館の利用経験もリッチで多いようですが,その次はプアの率が高くなっています。私も,よく使ったなあ。お小遣いが少なかったので。本を買う金なら別枠でいくらでも出してくれる親御さんがいると聞きますが,私はそうじゃなかった。

 昔の図書館はカードなんですよね。借りた人の名前が記録されるアレです。私は年齢にそぐわない(変な)本ばかり借りていたので,名前が記されるのはちょっと恥ずかしかった…。

 それはさておき,読書は成人後の成功可能性と結びついているかもしれません。勉強ができるようになるとかいう,せせこましいことではなく,物事の本質が分かるようになりますからね。

 次に,自然との接触体験とお手伝い体験を比べてみましょう。先ほどと同じく,小学校低学年の頃「何度もある」と答えた者の割合です。


 こちらは,どの項目もリッチの数値が最も高くなっています(赤色)。どれも「プア<普通<リッチ」というように,現在年収とリニアな相関です。

 黄色マークはリッチの率がプアの1.5倍以上の項目で,2.0倍以はゴチの赤字にしています。一番下の掃除の手伝い経験は,プアが12.9%,普通が17.4%,リッチが26.4%ですか。差が大きいですね。

 体験が人を育てるとはよく言ったものです。稼いでいる人は子ども期は勉強三昧だったかと思いきや,データでみるとさにあらず。いろいろやっているようです。随所で言われていることですが,お子さんには,いろいろなことをさせたほうがいいのではないでしょうか。視界も広くなりますし。

 ただ,上記の差は,育った家庭環境の違いによるとも考えられます。裕福な家庭は,子どもをいろいろな所に連れて行きますので。だとしたら,家庭の経済地位とリンクした「体験格差」を介して,高い教育達成,高い職業地位というような,格差のループ(再生産)がある可能性も示唆されます。こういう問題にも,自覚的でないといけません。

 まあ楽観的な話をしますと,今はインターネットがありますので,世界の名所や美しい風景などは,自宅にいながらにして見放題です。現地に出向かないと分からないのは「匂い」くらいでしょう。

 パソコンやネットに早い段階から触れさせることには批判も多いのですが,画面の向こうに広がる世界は無尽蔵。子ども期の体験格差を埋めるツールとして,この文明の恩恵を使うというなら,大いに結構なことだと思います。むろんフィルタリングなど,有害情報の遮断はした上で。「ユーチューブ・キッズ」なんていうアプリも出ています。

 諸外国に比して,日本の幼子がこパソコンやネットを使う頻度は格段に低し。コンピュータに触れた年齢が早い子どもほど学力が高い,というデータもあります。このツールの使い方を見直す必要があるでしょう。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=9179

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