2018年5月10日木曜日

学校のウェブサイト利用の国際比較

 昨年の夏に出た「学校における働き方改革に係る緊急提言」では,校務のICT化の推進が提言されています。児童生徒の管理や庶務連絡をネット経由で行うだけでも,教員の業務負担は緩和されるでしょう。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/sonota/1395249.htm

 特段難しいことではなく,学校のウェブサイトを使えばいいだけのことです。残念なことに,この文明の恩恵を使えていないのが日本の学校の現状。

 OECDの「PISA 2015」のICT調査では,「学校外で,学校のウェブサイトで教材等をダウンロード・アップロードすることがどれほどあるか」と問うています。この問いに対する,日本の15歳生徒の回答分布は以下のようです。
http://www.oecd.org/pisa/data/2015database/

 全く・ほとんどしない … 89.1%
 月に1・2回する … 6.2%
 週に1・2回する … 2.9%
 ほぼ毎日する … 0.9%
 毎日する … 0.8%

 全く・ほとんどしない生徒が9割で,週1回以上する生徒(後3者の合算)は5%弱しかいません。われわれの感覚からすれば「そんなものだろう」ですが,この結果は,国際標準から外れています。

 横軸に「全く or ほとんどしない」生徒,縦軸に「週1回以上する」生徒の比率をとった座標上に,ICT調査の対象の46か国を配置すると,下図のようになります。アメリカは,調査対象外です。


 日本は,一番右下にあります。横軸の値が最も高く,縦軸は最も低い。すなわち,学校のサイトで教材等をDL・アップする生徒が最も少ない,ということです。

 斜線は均等線で,このラインより上にある国は「横軸 < 縦軸」です。タイはスゴイですね。ICT先進国のエストニアやデンマークも,さもありなん。他の先進国はこのラインを下回っていますが,日本よりはマシです。

 もう一つ,学校のウェブサイト利用に関する設問がありますので,この問いへの回答も加味してみましょうか。「学校外で,学校のウェブサイトで庶務連絡等をチェックすることがどれほどあるか」です。

 以下に掲げるのは,双方の問いに「週1回以上する」という生徒の割合の国際比較図です。ツイッターでも発信しましたが,かなり注目を集めています。


 ぐうの音も出ません。本当に先進国なのかと,目を疑います。右上の諸国では,教員が教材プリントを刷って生徒の配るなんてことはしません。行事への出欠の伝達も,ウェブサイト上でワンクリックです。

 教育内容の増加で「重すぎるランドセル」が問題になっていますが,教科書を電子化すれば,薄いタブレット1台で済むこと。

 日本でも,民間企業はここまで酷くはないでしょう。学校だけが,社会のICT化から取り残されているのかもしれません。こうした「陸の孤島」で育った生徒は,実社会に出た時に戸惑うことになります。学校のICT化は,教員の業務の適正化だけではなく,情報化社会に即した教育を行うためにも必要なことです。

 国際学力調査ではいつも世界トップレベルなのですが,情報化社会を生き抜く資質能力が身についているのか,ちょっとばかり心配になってきます。生徒のパソコン所持率も低いですし…。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/02/blog-post_25.html

 それは,コンピュータを必須ならしめる環境に生徒を置いていないためです。求められるのは,生徒をしてパソコンに触れざるを得ないような環境を作ること。「教育の情報化」が目指されていますが,それは,ICT機器を使った教授・学習活動(授業)だけではなく,学校生活全体のICT化をも含むのです。

 今回のデータは,後者の側面が著しく立ち遅れていることを可視化しています。