2018年5月20日日曜日

若者の趣味の変化

 博報堂生活総研が,『生活定点1992-2016』という資料を出しています。ネットで閲覧可能です。
http://seikatsusoken.jp/teiten/

 内容はタイトルの通りで,同じ設問(定点)を設けて,1992~2016年の四半世紀における意識変化を跡付けています。データを呼び出しやすいのもミソで,左端の「ダウンロード」という箇所から,全てのデータが詰まったエクセルファイルを入手できます。性別・年齢層別の推移データを抽出するのも,ワンクリックです。実にありがたい。

 暇をみては,このエクセルファイルを開き,いろいろな項目の推移データを作っているのですが,「よくする趣味・スポーツ」の時代変化が面白い。昨日,20代の若者の変化表をツイッターで発信したところ,多くの方の関心を引いています。

 そこでは,両端(1992年,2016年)のデータを対比させたのですが,始点の年次をもうちょっと下げると比較できる項目が増えますので,ここでは1996年と2016年の比較をしてみようと思います。20年間という,ちょうどいいスパンになりますしね。

 博報堂調査では,複数の趣味・スポーツについて,「よくする」と答えた人の割合を計上しています。この20年間の変化はドラスティックです。情報化を反映して,パソコンをよくする20代の率は,1996年では9.8%でしたが,2016年では26.5%に増えています。一方,パチンコ・スロットは,19.0%から8.1%に減じています。

 以下の表は,この20年間の増加ポイントが大きい順に45項目を配列したものです。


 この20年間で大きく減っているのは,ドライブ,スキー,パチンコ,釣り,ゴルフですか。アクティブでおカネがかかるものですが,今の若者はカネもヒマのないですからねえ。

 対して増分が大きいのは,パソコン,映画,食べ歩き,ジョギング,サッカー・フットサル,となっています。カネがかからない簡素なものといいますか…。この20年間で率が増えているもの(細線より上)をみると,若者の趣味が健全化しているような印象も持ちます。ゲーセンや競馬とかは減ってますしね。

 同時に,若者の生活世界が狭くなっているようにも思えます。釣り道具やスキー板を車に積んで遠出するのではなく,自宅でパソコンしたり,そこら辺をジョギングしたりと。青年期は,アイデンティティ確立のための試行錯誤を許された「モラトリアム」の時期で,いろいろなことをするのを期待されるのですが,それが貧相になっていると言ったら,言い過ぎでしょうか。

 この変化をもって,若者の内向化とか言うのは容易いですが,その基底には,若者の所得の減少があるのを見落としてはいけないでしょう。よく言われる「若者の**離れ」をもたらしているのは,「おカネの若者離れ」である可能性があります。

 さて表によると,自動車・ドライブを「よくする」という20代の率は,この20年間で42.9%から17.5%に減っています。1996年の20代人口は1913万人,2016年の1254万人に,この比率を乗じると,ドライブを愛好する20代の絶対数は,1996年は821万人,2016年は219万人と見積もられます。4分の1近くにまで減っています。自動車業界にとっては,大打撃ですね。

 量的に多い上の年齢層(30代,40代,50代,60代)も加味するとどうでしょうか。下の表は,5つの年齢層(10歳刻み)のドライブ愛好者数の絶対数を推し量り合算してみたものです。


 ドライブ愛好者は若年層では減っていますが,60代では242万人から302万人に増えています。団塊世代の影響で,2016年ではベースの人口量が膨れ上がっているためです。

 しかるに5つの年齢層を合算した愛好者数のトータルは,2497万人から1421万人に減じています。4割以上の減。自動車業界にとってダメージが大きいのは否定できないようです。現に,クルマの売り上げは落ちているといいますし。

 同じ方式で,他の趣味・スポーツについても,20~60代の愛好者数の変化を明らかにしてきました。下表は,この20年間で何倍になったかという倍率が高い順に,45の項目を並べたものです。


 市場が膨らんでいるのは,パソコン,サッカー・フットサル,カメラ,オートバイ,楽器ですか。カメラ・ビデオ撮影は,スマホで撮影しインスタにアップする,というものでしょうね。

 囲碁・将棋,書道,麻雀,お茶といった古風な趣味は,愛好者がこの20年間で3割ほどに激減しています。カラオケやボーリングの愛好者も減ってますねえ。私の頃は,学生の定番娯楽でしたが,今の学生さんの実施率は下がっているのだろうなあ。国分寺のスターレーン,まだあるかしら。

 読書人口も,2814万人から2327万人への減少。イタイ変化です。何度もデータを出したことがありますが,街の本屋さんはかなり淘汰されています。

 上表の数値は,それぞれの趣味の推計愛好者数ですが,各業界の躍進(衰退)可能性を示すバロメーターとしても読めるでしょう。数としては,顧客を減らしてしまっている業界の方が多いようです(細線より下)。人口減少・高齢化により,モノが売れない,サービスの需要が発生しない社会になるといいますが,その現実の一端が表れています。

 まあ,上記の表に掲げられているものの多くは「伝統的」なもので,新たなものがこれから出てくるでしょう。サービスだってそうです。時代の変化に即した,新たなサービスへの需要が増してきます。それを見越して,柔軟に変身を遂げていくことが,企業にとっての「生き残り」の条件となるのは間違いありません。